胸の鼓動
って 何で甲斐君の事なんか 考えてるのよ!
その時母に呼ばれて 私は夕食を食べに
キッチンに 向かったのでした
翌朝 ポケットに映画のチケットを忍ばせると
会社で 甲斐君に渡す機会を伺っていた
だけど いざ渡すとなると
これがなかなか・・・渡せない
やっぱ 会社じゃ他の人の目もあるからムリね
職場で渡すのは諦めて 帰りに渡す事に決めた
そして仕事を終えると同時に 会社を出て
先回りをすると 物陰に隠れて 甲斐君が
来るのを 待った
暫らくして会社の方から 甲斐君らしい人影が
こちらに 歩いて来るのが 見えた
そして物陰に隠れてる 私の前を
通り過ぎたのを 見計らうと 甲斐君の背後に
出て チケットを渡そうと
ポケットに手を突っ込んだ その瞬間
トクンと小さく鼓動が波打った
チケットを握り締めたまま 鼓動は
トクン トクンと止まる事無く鳴り続けた
その鼓動に私は戸惑った
な 何よ これは 別に好きな訳じゃないし
気になってる訳でも無いのに
ただチケットを渡すだけ それに映画に行って
付き合えないって 断るのよ
それだけなのに 何故・・・
甲斐君の名前を呼ぶ事が出来ないのよ
口は開いても それが声にならない
鼓動だけが トクン トクンと鳴り続けていた
声を掛ける事が出来ず 跡をついて歩いてると
甲斐君がそれに気付いて 急に振り向き
そして私を見ると 驚き口が開いたまま
言葉を失い 二人の間に 沈黙が流れた
チケットをポケットの中で 握り締めたまま
何も言えずに 佇んでいる私を見て
「あ あの な 何か用事ですか?」
甲斐君に聞かれ ポケットから手をだして
チケットを握った手を 甲斐君に差し出した
「え?これは?」
甲斐君は驚いて チケットを手に取った
「折角 甲斐君が買ったんでしょ だから 一緒
に行ってあげるわ」
「え?ええ?マヂで⁈ マヂで⁈」
「マヂよ」
「やった やった〜」
「いや そんなに喜ばれても」
付き合えないって 断るつもりなんだから
すると甲斐君が 私を見て 微笑みながら
「一緒に居られる それが嬉しいんです」
そして私の胸が またトクン と高鳴った
でも 胸の高鳴りを私は 付き合えないと
伝える為の口実に 映画に誘った事に対しての
後ろめたさだろうと この時はそう思っていた
「じゃあ 日曜日映画館の前で〜」
甲斐君はそう言い残して 右手を高らかに上げ
ブンブンと振りながら 走り去った
私は小さく手を振り それに応えた
そして思った 何も知らないって 幸せよね と
まぁ 可哀想な気もするけど 仕方ないわよね
さて 目的も果たしたし 帰ろ 帰ろ
私は家に向かい 歩きだしたのでした




