二枚のチケット
突然甲斐君が ポケットから何かを握り締めた
震える右手を 私の前に突き出して
「迷惑でなければ 一緒に映画どうですか?」
予期せぬ出来事に 言葉を失い佇んだのでした
え えぇっ?! 我に返って 心の中で叫んだ
「や やっぱり ダメですよね?」
「と 突然 言われても・・・ね」
これが 正直な私の気持ちだった
「そ そりゃあ そうですよね 突然こんな事を
言われても 困りますよね」
「そうね しかも家の目の前で言われ・・・」
そう言いかけて 握ったチケットが目に入り
そして驚いた!
私が観たかった恋愛映画だったからである!
「こ この映画・・・」
チケットを見ながら 呟いた私を見て
察したのか 甲斐君はチケットを差し出すと
「二枚あるから 差し上げます」
「え?で でも それじゃあ・・・」
「僕はいいんです 断られたら 二枚渡そうと
最初から 決めてましたから」
まだ断ってないんだけど そう思った時
半ば強引に チケットを私に持たせると
「それじゃあ」
そう明るく言って 右手を上げると 一緒に
歩いて来た道を 戻って 走り去って行く
その後ろ姿を見て 私は思った
同じ方向って 言ってたのに 違うじゃない
「プッ」と吹き出し 家に入ろうと振り向くと
母さんと弟の耕平が ニヤニヤ笑いながら
立っていた
「か 母さん!耕平も!見てたの?」
「まあね」「まあね〜」
「ど どこから?」
「さあ 忘れたわ〜」「さあ忘れたわ〜」
耕平が母の真似をして 少し遅れて言ったのが
癪に触り 耕平をキッと睨むと
「うわっ こぇ〜」
耕平は 肩を竦めながら 母の後ろに 隠れた
「さあ父さんは 今日も帰りが遅いから
夕食にしますよ」
「は〜い」
私と耕平は返事をして 母の跡から家に入った
食卓につくと 私は耕平を睨みながら
胸ぐらを掴んで
「父さんに言ったら どうなるか分ってる
んでしょうね!」
胸ぐらを掴まれて 苦しそうな顔で 両手を
バタバタと上下に振りながら
「い 言わない 絶対に言わないよ〜」
それを見た私は 胸ぐらから手を離して
「よし!」
そう言い放って 自分の席に座った
弟はゼエゼエと辛そうに 息をしながら
「くそ〜」と小声で呟いた
「何? 何か言った!?」ギロっと私が睨むと
「何も言ってないよ!」
「あ そう じゃあいいんだけど」
「はいはい 喧嘩はしない〜」
マーボーの いい香りを漂わせながら
母が夕食を運んで来た
「今日麻婆丼だ!美味しそう!」
ピリッと辛い 母の麻婆丼は絶品なのです
麻婆丼を目の前にした 私と弟は さっきの
いがみ合いを忘れて スプーンを手に取った
そして食事を終えて 食器の片付けを手伝い
シャワーを浴びると 私は 部屋に戻った
「映画かぁ〜」
甲斐君から 強引に手渡れた二枚のチケットを
ポケットから 取り出した時 妙な事に
気が付いた
一枚はシワくちゃなのに もう一枚は
ほんの少しシワがあるだけで キレイなのです
どうして一枚だけ こんなにシワくちゃなの?
首を傾げて シワくちゃのチケットを見てると
「お姉ちゃん 入っていい?」
「あ 母さん?どうぞ」
すると部屋の扉が開き 半ニヤの怪しい笑顔を
浮かべて 私をジッと見ながら
「映画 どうするの〜??」
そう言って 私に詰め寄ってきたのです・・・




