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第57話 エンゲージ

「終わったな」


 マーダーライセンスが壊滅したのを確認すると、俺たちはエルセダの森に出た。

 これでPK問題は解決か。


「零たちはこれからどうするんだ?」

「これまで通りレベル上げやクエストをこなしながら目についた赤ネームを狩っていく予定だ」

「そうか、もしよかったら……」

「攻略に参加するつもりはない」


 零は俺の言葉を遮るように言った。


「そうか……」


 零たちのような前衛アタッカーがいてくれたら心強かったんだけどな。


「だが、困ったことがあれば連絡するといい」


 そう言って、零はシステムウィンドウを操作した。


《『零』があなたにフレンド申請をしています。承諾しますか?( YES / NO )》


「え、いいのか?」

「ああ。イージスの奴らの頼みを聞くつもりはないが、お前個人の頼みなら聞いてやってもいい」


 相変わらずツンデレだなぁ。

 いや、俺には素直だからデレデレなのか?

 正直それはちょっと遠慮したいところだ……。


《『液体メガネ』があなたにフレンド申請をしています。承諾しますか?( YES / NO )》

《『ダンジェ』があなたにフレンド申請をしています。承諾しますか?( YES / NO )》

《『三途御前』があなたにフレンド申請をしています。承諾しますか?( YES / NO )》


 目の前にシステムウィンドウが一斉に開いていく。


「うおっ!」

「色々と迷惑かけちまったし、俺も何かあったら俺も手を貸すぜ」

「兄貴の罪滅ぼしにね」

「ぬし様の生存情報を常に確認していたいでありんす」


 ちょ、最後何のためにだよ!

 まぁいい。


「よーし、こうなったらお前らみんな友達だ!何かあったら遠慮なく声かけるぜ!」


 イエスイエスイエスイエス!

 片っ端からイエスを押していく。


「あ、そうだ。零、最後に一つだけ聞いていいか?」

「なんだ?」

「円卓騎士団ってもしかして……」

「お前の想像している通りだ」


 そうか。やはりあのギルドは昔解散する切欠になった……。

 零はもしかしてそれを知ってて……?


「零は……昔のイージスのこと嫌いだったのか?」

「…………」


 零は一瞬哀しそうな目をして俺に背を向けた。


「ああ。代わりになるものが見つからないほどにな」


 そうか。零が一体どんな想いを抱えているか分からないが、零にとっても特別なところだったんだな。

 共感が胸の中を満たしていく。

 なんだか嬉しいな。


 とぅるるるるるるん。とぅるるるるるるん。


 委員長からプライベートコールが掛かってきた。

 タイミングがいいな。

 コールを承諾すると委員長の声が聞こえてくる。


「忍さん、斥候から連絡が入りました。10分後にヘルの軍勢が侵攻してくるそうです」

「了解。というわけだからちょっとこれから防衛に……」


 顔を上げると既に零たちの姿はなく、そこにはただ瑞々しい森が広がっていた。


 全くあわただしい奴らだ。


 俺はさっきまでのことを思い出して深いため息をつく。


 しかしそこで悪寒が走った。

 俺は咄嗟に宙へ向かって剣を振り上げると、甲高かんだかい金属音が鳴響き、何もないところから短刀が弾かれ、木に突き刺さって止まった。

 そしてそこから一人の女が姿を現す。

 お前かよ……。


「さすがは忍様、その柔肌が紅く染まる日を一日千秋の想いでお待ちしているでありんす……」


 そう言って三途御前は再び姿を消した。木に突き刺さったはずの短刀と共に。


「あんなのヤンデレじゃない……ヤンデレじゃないよ……」

「ああいうのを何っていうんでしたっけ。残念美人?」


 ちょっと違う気がするが、残念であることには激しく同意だ。


「あ……そういえば『神隠れ』返すの忘れてた」

「いいんじゃないですか?赤ネームにされたお詫びということで」

「そうだな。フレンド登録してるし零たちも返して欲しかったらまた連絡してくるだろう」

「それよりものんびりしていていいんですか?今頃防衛の準備をしている頃ですよ」

「そうだった!急ごう!『ソニックドライブ』だ!」


 『ソニックドライブ』を発動させて、木と木と間をすいすいと縫うように走り抜けた。

 だが何だか非常に移動速度が遅い気がする……。

 何でだ?

 ……………………あ!?そうか!

 PKを倒したせいでドロップが入りすぎて重量オーバーになってるんだった!

 システムウィンドウからインベントリを呼び出すとそこそこに強化された武器や防具……それに消耗品が大量に入っていた。

 PKたちが人を殺して集めた装備品……か。さて、どうしたものかな。



 …………そうだ。いいことを思いついた。



 フレンドリストを呼び出してマイスタークリスとプライベートコールを繋ぐ。


「クリス。今から急いでニヴルヘイムの転移門に来てくれないか?」

「突然どうしたのでありますか?」

「すぐに防衛が始まるから詳しく説明している暇がない。今重量オーバーになってて、とりあえずアイテムを渡すから全部インゴットにしておいてくれないか?」

「よく分からないけど分かったのであります。今お客さんもいないのですぐに向かうのであります」


 スタミナポーションを飲みながらニヴルヘイムの転移門に飛ぶと、マイスタークリスが既にスタンバイしてしていた。


「じゃあちょっとこれ頼むな」


 トレード申請をして、PKからドロップした装備品を片っ端から渡していく。


「お、多すぎるのであります!これじゃあ動けなくなるのであります!」


 そういえば筋力がかなり高い俺でさえ重量ペナルティーを発生していたんだから、それをマイスタークリスに渡せば、完全に動けなくなってもおかしくはない。とはいえ、もうすぐ防衛が始まるわけで……。


「すまん!防衛まで時間がないんだ!ジークでも呼んで運ぶのを手伝ってもらってくれ!」


 ジークならばマイスタークリスのために客をほっぽり出してでも来てくれることだろう。

 うむ、我ながら良いことをした。ジークよ。俺のナイス機転に感謝してむせび泣くがいい!


「分かったのであります。リースを呼んで少しずつ運んでもらうのであります」


 リースとはクリスの鍛冶屋で店番をしているフェアリーのプレイヤーのことだ。

 ジーク……我が力及ばず……だ……。

 っとそれどころじゃない!


「それじゃあ、ちょっと行ってくる!」

「頑張るのであります。眼帯のおねーさん」


 クリスが手を振って見送ってくれる。


「おう!」


 俺も手を上げてそれに応えると、神話が防衛陣を敷いているだろう場所を目指して再び走りはじめた。

 身軽になったおかげで、風を切るようにフィールドを駆け抜けていく。

 程なくするとイージスの敷いた防衛陣が見えてきた。

 そしてその先頭に立つ姫の姿が目に入った。


「ひめえええええええ!!!」


 走りながら声をあげる。


「ギリギリよ!一体どこまで行っていたのよ!」

「いや、ちょっと零たちと一緒にマーダーライセンスを壊滅させてたんだけど……」

「「「「はぁ!?」」」」


 ギルドメンバーのみんなが驚きの表情で俺のことを見る。

 あ、あの、皆さん?そんなに口を大きく開くと顎が外れてしまいますよ?


「忍さん……危険なことはしないって約束しましたよね?」


 委員長から怒気が放たれる。


「だ、大丈夫だって。余裕だったから」


 うん、マーダーライセンスの相手は余裕だった。それは嘘じゃない。

 その代わりもっと危険な奴に目を付けられることになっちゃったけどな……。


「とりあえず話は後で聞くわ。みんな!今は防衛に集中しなさい!」

「「「は、はい」」」


 よし、これで心置きなく敵を蹴散らすか!っとその前に。


「姫!」

「……なによ?」

「ご褒美に姫のデレをください!」


 あんなに頑張ったんだからちょっとでもいいからご褒美が欲しいな。

 とはいえ、こんなことを言ったらきっとお叱りの言葉を頂いてしまうに違いない。

 だけど、それすらも俺にとってはご褒美です!


「いいわよ」


 そう言って姫は敵軍の方へと振り返った。


 ……………………………………………………え!?

 ちょ、ちょっとまって!今何って言った?

 ……IIWAYO?「IIWAYO」ってもしかして日本国でいうところの肯定を意味する言葉ですか?

 これがまさか幻聴という奴なのか?テンションが上がりすぎて俺の頭がおかしくなっちゃったのか?


「ただし、あのときの……神殿で言ってくれたあの言葉を現実世界リアルあらためて言ってくれたらね」


 あのときの言葉?神殿で言った言葉?……そ、それってもしかしてアレですか?

 『禁書 愛の技巧(Love・Claft)』に書き記した俺のソゥル?

 神殿で姫に誓った命よりも重い盟約の言葉?

 どういうことだ?

 ちょっと待て。落ち着け。落ち着くんだ。ビィクールだ俺。

 あれを現実世界リアルで姫に言ったら姫がデレをくれるってことはつまり…………そういうこと?

 姫の方を見ると、背を向けていて顔は見えないが耳が信じられないほど真っ赤に染まっていた。



「ヒィィヤッッッホオオオウウウウウウウウウウウウウ!!!」


 気が付けば俺はその場を駆け出していた。


「し、忍!?」

「『チェンジウェポン(換装)!』」


 魔剣を殺戮のドラゴンデストロイに持ち替え、舞姫によるシステムアシストを受けながら遠心力を利用してぐるんぐるんと振り回す。

 『オーガパワー』も『鬼神化』もかかっていないため、初動が遅く腕に凄い力がかかってくる。

 しかしその回転は瞬く間に加速していき、やがて駒のように速く回りはじめる。


「我流投擲奥義!!イ゛ヤ゛アアアアアアアアアアア!!!!」


 回転速度と俺のテンションが最高潮に達した瞬間武器から手を離した。

 投擲スキルがあるわけでもないのにドラゴンデストロイが回転しながら凄まじい勢いで触れた敵の胴体を真っ二つに切り裂いていく。


「『チェンジウェポン(換装)!』『|鬼神化《覚・醒キターーー!!!》』」


 魔剣が再びこの手に戻り、紅い稲妻が身体から迸る。


「うおおおおおおおおおおおおおおおお!!!『ソニックドライブ・エタニティ!!!』」


 そこからは一方的な虐殺劇が幕を開けた。

 ソニックドライブを永続使用しながらただひたすらに剣を振るっていく。

 一瞬ドッペルゲンガーを見た気がしたがすぐに剣の露と消えた

 音速並みに流れ続ける視界の認識に脳がプスプスと煙を上げている。

 だがそんなことは関係ない!

 いや、むしろこのくらいの負荷が身体にかからないと姫の言葉に胸が張り裂けそうだ!

 今なら何だって出来る気がする!

 羽があったら飛んでいけるし竹槍持って神とだって戦える!

 超越感が身体中を駆け巡る。


「うおおおおおおおおおおおおおおお!!!(ィヤッホオウウウウウウウウウウウウウウウ!!!俺と姫の幸せのために死ね!今死ね!すぐ死ね!そしてオーディンを連れて来い!!!今すぐにだ!!!)」

「お兄様が壊れた……」


 俺は無我夢中で剣を振り回した。

 死亡エフェクトが舞い散るより早く次の敵を斬り捨てていく。

 そう!姫の愛を得た俺の辞書に不可能の文字は存在しないのだ!

 気が付くと敵の姿がなくなっていた。味方の姿も。

 あれ?

 後ろに振り返るとみんな遠く離れたところに待機している。

 な、なんで?

 そしてその中から俺のよく知る人物、俺の天使、いや、俺の女神様が降臨して(ちかづいて)きた。


「忍……」

「姫!早くこのデスゲームをクリアしてしまおう!オーディン倒そう!今すぐにでも!」

「お座り!」

「ワン!」


 あれ?

 反射的に地面に正座してしまう。


「何で一人で敵を全滅させてるのよ!」

「ご、ごめんなさい!」


 お、俺一人で倒しきっちゃったのか!?全然気が付かなかった……。


「忍、落ち着きなさい。あなたが暴走して連携が取れないと仲間たちに死人が出るかもしれないのよ」

「う、うん……」

「もし、私の発言のせいで仲間が死んでしまったら、現実世界リアルに帰ったとしてもあなたの言葉を受け入れることなんてできないわ」

「そ、そんな!?」


 それは嫌だ!そんなことになったら俺の人生は天国から地獄へさかさまだ……。悔やんでも悔やみきれるものじゃない!


「だったらどうすればいいか……分かるわよね?」

「イエス、マム!自重します!命を賭けて仲間を守ります!」


 俺は即答した。そう、全ては姫との幸せな結婚いちゃらぶ生活のために。


「よろしい。それじゃあ行くわよ」

「え、どこに?」


 防衛は終わったし……も、もしかしてその……宿屋ホテル……とか?


「せっかくあなたのおかげで全員無傷のなんだから、このチャンスを逃す手はないわ。今度はこちらが攻める番よ」


 で、ですよね。

 ダメだ。頭を切り替えよう。

 結婚いちゃらぶ現実世界リアルに戻ってから。結婚いちゃらぶ現実世界リアルに戻ってから。結婚いちゃらぶ現実世界リアルに戻ってからハァハァ。よし!


「イージスの特攻隊長忍!了解しました!」

「どう?まだ戦える?」



 姫の凛とした瞳。そして挑戦的に笑う唇。その表情は確かに俺への期待で彩られていた。

 ならば答えは一つしかない。


「もちろん!次も先陣は任せてよ!」


「そう、だったら……」




《『セシリア』からPTに誘われています。承諾しますか?( YES / NO )》




「あなたは私が死なせないわ」

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