第47話 復・活・祭
俺を称える大歓声の中、委員長が顔を引きつらせてこっちを見ていた。
「委員長!」
「忍さんは一人にしておくと本当に碌なことが起きませんね……」
「ひ、酷い……。頑張ってあの防衛線を抜けてきたんだから、もうちょっと優しくしてくれても罰は当たらないかなぁと思うのですが……」
「あれは完全に人ができる動きじゃありませんでしたよ。忍さん本当に人間ですか?」
「ま、まぁ俺も初めて偉人のシューティングゲームデスレベル二週目リプレイ動画を見たときには同じ感想を抱いたもんだよ」
あれは凄かったな。思わず触発されてクリアできるまで何万回とやり直したのも今となっては良い思い出だ。
「あの神回避をシューティングゲーム扱いですか……」
いやいや!難易度で言ったらシューティングゲームの方がよっぽど難しいですから!マジで!
「何はともあれ、ギルドの皆さんは既に『転生の神殿』で待っています。早く行きましょう」
「とはいえ、この人の壁をどうやって乗り越え……」
と言い掛けたところで、聞き覚えのある声が大音量で響き渡った。
「今からイージスの楯のギルドマスターであるセシリアの復活を神殿にて執り行いまーす!イージスの特攻隊長にして邪気眼の英雄絶望の拷問人形こと忍が通る道を空けて後からみんなついてきてくださいねー!邪気眼が発動すると、離れてないと死んじゃうらしいみんな気をつけてねー!」
会場内が笑い声に包まれる。
「えっ、ちょっ!ヤメテ!なにこれ!?公開処刑!?」
やめて!そのことは思い出させないで!
この声……そしてこのドエスっぷり……きっと美羽だ。大方音声拡張アイテムでも使って叫んでいるに違いない!
くっ!俺を憤死させる気かっ!
しかもみんなが美羽の言葉に従って、群集が割れていく。
あたかもモーゼが起こした奇跡のように。
凄い……凄いのに全然嬉しくないのが不思議でたまらない。
「ほら、いきますよ」
精神力を根こそぎ削られ、心が死んでしまって項垂れている俺の手を引いて、委員長はその割れた道を進んでいく。
あぁ、心はこんなにも冷え切っているのに手だけはとっても暖かい。そして柔らかい。はぁ……すべすべ。
そうして神殿に着くまでの間に俺の心はむくむくとやる気?を取り戻していった。
神殿に到着すると、モーゼの如く人々を割った美羽、そして師匠を含め、ギルドメンバー総勢28人が俺たちを出迎えてくれた。
「忍……無茶な要求にも文句の一つ言わずによくここまで一人で頑張ってくれた」
「師匠……」
師匠が目に涙を貯めて俺の肩に手を置いた。
「さぁ、神殿の入り口にいるヴァルキリー『ヘルフィヨトル』の元へ行って姫を復活させてくれ」
俺は黙ったまま頷くと、ギルドメンバーたちの囲いを越え、神殿へと続く階段を少しずつ上がって行った。
神殿は街中でも少し小高い場所に築かれており、石造りの真っ白い階段を上がって行ったところで、白い翼の生えた女騎士ヴァルキリーが迎えてくれる。そしてその神殿の中には顔を抉られた巨大な男神の像が立っていた。
何でも、その男神の像こそが主神オーディンを模したものらしく、俺たちプレイヤーはヴァルキリーに導かれオーディンに叛旗を翻したというストーリーを表現しているのだという。
俺は荘厳な鎧に身を包んだヴァルキリー『ヘルフィヨトル』の前に立った。
「神の支配より逃れし勇敢なる戦士よ。ここでは戦死者の確認、および復活を行うことができます」
「……戦死者リストを見せてくれ」
俺の声に応えてヘルフィヨトルが右手をかざすと、俺の目の前にシステムウィンドウが開き、戦死者の名前とID……そしてその死亡日時が無数に表示されていった。
一ページにつき百名の戦死者が死亡日時順に並び、システムウィンドウを操作してページをめくっていくと最終的には1731人目の戦死者が表示された。
戦死者リストを見たのは今日が初めてだ。
始まって数ヶ月でもうこんなに死人が出ているのか……。
姫が死んだのは一週間前……………………見つけた。
セシリア ID: 102473 死亡日時 108日目10:06:67
ID:102473……間違えなく姫のIDだ。
「戦死者を生き返らせるにはどうすればいいんだ?」
「あなたは現在10463ポイントの貢献度を獲得しています。戦死者を生き返らせるためには10000ポイントの貢献度を消費することになります。戦死者を生き返らせると、後から取り消すことはできません。復活させたい戦死者をリストより選択してください」
俺は指示に従ってリストに表示されている姫の名前にそっと指を触れる。
すると新たにシステムウィンドウが開いた。
《貢献度10000ポイントを消費してセシリア ID: 102473を生き返らせます。よろしいですか?( YES / NO )》
イエスを押す。
《復活を実行後、キャンセルをすることはできません。本当によろしいですか?( YES / NO )》
俺は迷いなくイエスに指を伸ばした。
緊張で手が震えている。
落ち着け。これで姫が生き返るんだ。
手の震えを何とか制し、イエスの文字に指が触れると、戦死者リストに刻まれた姫の名前があたかも砂がこぼれるかのように消え去っていった。
それと同時にリストは消滅し、俺と戦乙女の間に薄っすらと人影が現れ始めた。
……姫だ。
姫の姿をした人影は半透明な状態でその姿を留め、一瞬俺の方を一瞥してヘルフィヨトルの声に反応して前へと向き直った。
「戦士セシリアよ。あなたは戦士忍によりこの世界に戻ることが許されました。再び神々との戦いの中へと身と投じる覚悟はありますか?」
「はい」
姫がしっかりとした口調で頷いて返事をすると姫の身体が目を向けられないほど眩しい光に包まれた。
そして視界が戻った頃には半透明な身体ではなく、生を得た肉体を取り戻していた。
「あなたたちがいつの日かオーディンを倒してくれることを期待しています」
「ああ、任せてくれ!」
絶対に生きてこのゲームをクリアしてやる!
姫の言った通り俺たち全員生きたままでだ!
姫が俺の方へ振り返ると、照れたような顔で言葉を紡いだ。
「忍…………ただいま」
「おかえり、姫」
その瞬間静まり返っていた神殿が一斉に沸きあがった。
分かる。みんなが祝福してくれている。
姫の復活を。
そして俺たちの結婚を。
「これは一体何がどうなっているの?」
姫が酷く戸惑いを見せている。
それもそうだろう。生き返ってみたらギルドメンバーのみならず、神殿周辺を埋め尽くすほど人で溢れかえっているわけだから。
俺が手を挙げると、さらに会場が沸きあがった。
「みんな祝福してくれているんだよ。姫の復活を。そして俺たちの結婚を」
「けっ、結婚!?あなた誰かと結婚するの!?」
姫がなにやら驚いている様子だ。どうしたんだろう?結婚するのは俺たちなのに。
「誰とって、姫とだけど……」
「わ、私と!?ちょっと待って!待ちなさい!なんで!?どうしてそんな話になってるの!?」
ん?ちょっとまてよ。よくよく考えたら姫は死んでいたから知らないんじゃないか?
しまった。俺も言葉が足りてなかったな。
「ご、ごめん!姫が死んでる間に色々あって、イージスのみんなが俺たちの結婚を認めてくれることになったんだ。それで姫が生き返ったこの御目出度い日に式も挙げようって話になって」
「あなたの言っていることがさっぱり分からないわ……」
「そうだ!俺まだプロポーズもしてなかったよ!」
ダメだ。完全に失念していた。
そりゃあ、手順を間違っていたら姫が混乱するのも当たり前だ。
「姫!俺と結婚してください!俺、絶対に姫のことを幸せにしてみせます!」
「っ!?」
姫の口をぱくぱくさせながら、顔を真っ赤にさせていく。
まるで熟れたリンゴのように綺麗な頬だ。
こんな綺麗な人と結婚できるなんて俺はなんて幸せものなんだろう。
「お兄様。水を差すようで恐縮ですが、結婚システムはまだ未実装ですよ」
「……………………は?」
「結婚……システム?システム上で何かメリットを得るために結婚して欲しいってこと?」
「い、いや!そうじゃなくて!」
あれ?ちょっと待てよ。結婚ってゲーム内の結婚?それとも現実世界の話だったっけ?
現実世界では逢ったことも話したこともないのにいきなり現実世界の結婚を申し込むのも客観的に見ておかしい……かな?
だったらゲーム内の結婚なのか?
ゲーム内だけで結婚して満足なのか俺は?
この姫が好きな気持ちもゲーム内だけのことなのか?
ダメだ。訳が分からなくなってきた。
「なぁんだ。そういうことだったのね。システム上は結婚できないみたいだし、これからも大切な戦友でいましょう」
そういって姫は俺の背中をバシバシと叩いた。
「いやシステムとかそういう話じゃなくて!ト、トモダチ!?」
「ほら、ぼーっと突っ立ってないでいくわよ。晶!現状を報告しなさい!」
そういって、姫は力強く歩き出していった。
「ああ、この状況を見て分かるように忍はPKとしてのイメージを払拭することに成功したと思ってくれていい」
「ちょっ!?し、師匠の裏切り者!師匠が姫と結婚していいって言ったんですよ!」
「俺はイージスのみんなが姫とお前が結婚することになっても誰も反対しないと伝えただけだ。だが結婚するかどうかはどう考えても本人たち次第だろう?」
「そんな詐欺師みたいな言い訳がまかり通るとでも!」
「とりあえずこの集まった人たちを何とかしないとね……」
ダメだ……。
姫は姫でもう次のことに頭がいってしまっている。
そして集まってきた人たちから聞こえる不吉な言葉の数々。
「おい、狂刃の奴フラれたらしいぞ」
「うはwwwメシウマwwww」
「さ、さすがにちょっと可哀想じゃないかな」
「だったらあなた結婚してあげたら?」
「やだ。なにその罰ゲーム」
「聖女の処女はこうして守られたのだ!」
「今回は何となくオチ読めてたよな」
「うんうん、期待した通りの展開でした本当にありがとうございます」
「聖女容赦なさすぎ。ワロタwww」
「さすがは我らが童帝!見事な玉砕っぷりでした!」
「やっぱリアル狂刃は一味違うな。俺これからも応援するわ」
「私も私も!面白すぐるwww」
「む、むごすぎる……くっ!トラウマがっ!」
「ここまでしといて振られるとか狂刃さんマジパネェっす!」
「リア充爆発したwww」
そして後日こんなスレが立ち上がった。
『振られた狂刃を追悼するスレ-一周忌|( ー人ー)|||~~~┏┛墓┗┓』
だがちょっと待てくれ。一言だけ言わせてくれ。
「俺は振られたわけじゃなああああああああああああああああああい!!!!!」
俺の声が街中を虚しく木霊していった。
「計画通り(にやり)」
耳元で悪魔の声が聞こえてきた
俺はその声の主の頭をがっしりと掴んで逃げられないようにホールドする。
「お前は俺を怒らせた。お前の素材でどんな装備ができるのか実に楽しみだ」
「そんなご無体な……」




