第26話 我らに秘策あり
それからあっという間に二週間が過ぎた。
委員長たちのレベルも上がり、経験値効率が悪くなってきたので、俺たちはバジリスクの巣を卒業してLv30~40が適正レベルとされているミルダ坑道へと狩場を移した。
ミルダ坑道に生息するのは大型モンスター『トロール』。
でっぷりとした身体をしているため移動速度はバジリスク同様早くはないが、人の大きさほどもある木の棍棒を使ったスイングは動きは決して遅くはなく、攻撃範囲も広い。
またミルダ坑道は『採掘』スキルさえ使うことができればシルバー鉱石を入手することもできる絶好の採掘ポイントだ。また稀にだがトロールがシルバー鉱石をドロップすることもあるため金策にも優れた狩場である。そのため、攻略ギルドのトップ集団は既にこの狩り場で狩りを行っており、姫やネームレスさんたちとも坑道の中で何度もすれ違った。
俺がPTに加わったことにより、委員長は攻撃を捨て、『細剣』のスキルを『覚醒魔法』へと入れ替え、肉体強化系の魔法が使えるようになった。しかし美羽の防具がまだ俺と同じスチール製であったため、トロールの攻撃を耐え切ることができず、美羽のHPが半分近くまで減った時点で俺が火力で強引に敵の注意を自分に向け、美羽が回復するまでの間、回避しながら少しずつダメージを与えていき、回復を終えた美羽が再びヘイトで狙いを取るという戦法を取らざるおえなかった。だから俺たちはまずドロップしたシルバー鉱石やお金を美羽に回し、美羽の防具を最優先に整えていった。
そして美羽の防具が全てシルバー製へと代わる頃には狙いを維持し続けても倒し終わるまで十分トロールの攻撃に耐えきれるようになっていた。
そこからは俺の武器をシルバー製へと新調するのに協力してもらい、さらにレアドロップである覚醒魔法の魔法スクロール『オーガパワー』がトロールからドロップしたことにより、ますます狩りの効率が上がっていった。
『オーガパワー』はその名の通り飛躍的に筋力を上げることのできる覚醒魔法だが、その効果はたったの五秒しか発揮されない。
それとは別に委員長は『パワーブースト』『スピードブースト』『タフネスブースト』という効果が十分間持続する覚醒魔法を覚えており、必要なものを常時途切れることがないように掛け続けてくれる。ブースト系のステータス上昇値は2。
それに対して『オーガパワー』は効果持続時間こそ短いものの、筋力値を10も上昇させることができる。しかも瞬間的にしか効果を発揮しないためかブースト系ほどMP消費も多くなく、『パワーブースト』と重ねて効果を発揮することもでき、再使用時間も3分程度ととても使い勝手が良い。
というのも俺が全力で攻撃に集中できるタイミング見極め、声かけて使ってくれる委員長がいてこその効果を発揮する魔法だ。
何度も言うが効果時間はたったの五秒。連携が上手く噛み合わなければほとんど意味を為さないこのスキルも、連携が上手く噛み合うことで恐ろしいほどの成果を発揮することができるのだ。
ミルダ坑道に狩り場を移して一週間も経つ頃には、委員長を含めて全員の装備がシルバー製へと変わり、トロール狩りにもかなり余裕が出てきた。決して効率は良くないが、二匹同時に相手にしても危なげなく戦えるようになったほどだ。
それからは採掘スキルを持つクリスやジークたちの護衛を兼ねながらもひたすらレベル上げに励んでいった。
クリスたちが採掘によって手に入れたシルバー鉱石の三分の一を報酬として分けてくれたおかげで、俺たちは次のボス攻略を見据えて新たにある秘策を用意することができた。
そして今日ついにイージスの楯・黎明・ローゼンクロイツから成るギルド連合『神話』から俺たちの下へボス討伐の参加要請が届いたのだった。
「二人は今まで参加を断ってたんだよな?」
宿屋で一緒に夕食を取りながら聞いてみた。
確か以前のボス狩りに二人は参加していなかったはずだ。
「うん、そうだよ。一応は全員にメールが送られてくるんだけど、ボクたちのレベルじゃ力不足だったからね」
「今回は忍さんのおかげで参加できるだけのレベルを十分超えていると思います」
この二週間で二人のレベルは50近くにまで上がってきている。
『神話』の中でもそのレベルは十分上位に数えられるらしい。
「だったら、一発目から『アレ』を使ってみんなの度肝を抜いてやらないか?」
アレとは当然用意していた秘策のこと。
俺の意見に美羽が声を上げて賛同した。
「いいねそれ!面白そう!」
「しかしボスの攻撃力が分からない以上、二人が危険です」
確かに相手の攻撃力が分からないというのは、攻撃を受けることを前提としたあの秘策を使う上でネックとなってくる。
「うっ、やっぱりそうかな」
「大丈夫だって!忍も防御力が上がってるし、ボクだってレベルが上がったおかげでかなりHPが高くなってるんだから!」
「確かにいきなり死ぬようなことはないとは思いますが、それでも……」
「あんまり口うるさくしてると、また男の人に『お母さんみたい』とか言われちゃうよ?」
「美羽っ!」
「うひっ!で、でも大丈夫だって!」
「全くもう……仕方ありませんね」
お母さんみたいって言われたのがよっぽど嫌だったのだろうか。
俺はむしろ委員長みたいに見えるんだが。
まぁ何はともあれ委員長からも作戦は実行の許可が下りたわけだ。
「よし!それじゃあ、頑張るぞー!!」
「「おおー!」」
俺は美羽とともに勢い良く声をあげた。
しかし委員長はそんな俺たちを微笑ましそうに見ているだけである。
こういうところが確かに『お母さん』みたいに見えなくもない。
「ほらっ!委員長も気合を入れないとボス戦乗り切れないぞ!」
「わ、私はいいですから……」
「お姉ちゃん、そんなことを言ってるから年寄り臭いとか思われちゃうんだよ」
「美羽っ!」
「ほらほら、その調子で『おおー!』」
「ぉ、ぉぉ……」
蚊の飛ぶような小さい掛け声が聞こえてきた。
「ほら!恥ずかしがらないで!おおーーーー!!!」
「おぉ……」
お、ちょっとは大きくなったな。
「ほらもっと!せーのっ!」
俺は腕を振り上げる直前に美羽と目が合った。
にやりと笑って目で合図を送ってくる。
なるほど、そういうことか。了解した。
「おおーーーーー!」
委員長の声だけが部屋の中を木霊する。
委員長は自分ひとりしか声をあげなかったことに気付き、まるでりんごのように真っ赤になってしまい、美羽はそれを見て笑い転げた。そして俺もそれを見て声を出して笑ってしまった。
しかし俺はこのとき気付いていなかった。本当に罠に嵌められたのは委員長ではなく、俺だということに。
俺はこの日すっかり拗ねてしまった委員長にひたすら謝り続けることとなり、一日中ご機嫌を伺うことに費やされてしまったのだった。
美羽……なんて恐ろしい子!
しかし真っ赤になって恥ずかしがる委員長の姿は、それはそれは悶絶死してしまいそうになるほど可愛いもので後悔など全くしていない。俺はそんな委員長のレア画像を心のスクリーンショットに保存してロックを掛けて生涯保護していくことを心に誓ったのだった。
そして遂にボス討伐の当日、黎明の借りたギルドホールにてネームレスさんから今作戦について説明が行われることとなった。
「知っての通り今回の討伐対象はミルダ坑道のトロールボス『ヘルガイズ』だ。奴を倒さない限り全てのプレイヤーが次の町に辿り着けないと言われている」
そうなのだ。実はすでに他のフィールドは様々なプレイヤーたちの手によって攻略されている。しかしそれでも次の町、次のフィールドへと続く道は発見されていない。だからミルダ坑道のボスを倒すことで次のエリアへと行くことができるようになるのではないかと掲示板では噂されているらしい。俺は読んでないけど。
「我々の事前調査によると攻撃手段は素手。卓越した筋力によって繰り出される物理攻撃は我々の脅威となるだろう。その上このボスは高い再生能力を有している。今までのボスに比べてHPの自然回復速度がかなり速いため長期戦となることが予想される。特に注意しなければならないのがスキルによる強力な単体攻撃と範囲攻撃だ。発動前には両目が赤く輝くことが確認されている。またボスのHPがレッドゾーンに入ったときの行動パターンは確認されていない」
そう、リザードマンボスに引き続いてなかなか討伐されなかった原因がこの高い再生能力だ。この一週間の間に何度か他のギルド連合も討伐に挑戦したらしいが、どの討伐隊もボスのHPを四分の一まで削りきることが出来ずに、撤退を余儀なくされたらしい。
「そして今回のメインタンカーを務めるのは前回に引き続きセシリア。それと……忍君、いけそうかい?」
「もちろん!その代わりと言っちゃなんだがPTメンバーをこっちで決めさせてもらってもいいか?」
「それはもちろん構わないけど誰か希望するパーティーメンバーでもいるのかい?」
「ああ、イージスの晶師匠・美月・美羽、あとは優秀なヒーラーを二人付けて欲しい」
師匠には既に話を通してある。『アレ』をするならば師匠の助けがあれば安全度が飛躍的に増す。
「そうだな、それなら……」
「私と私のギルドから一人入らせていただきますわ」
紫髪の縦ロールをしたエルフの女性がそう申し出てくれた。
えっと、この人は確か……
「ローズさん、君はメインタンカーであるセシリアさんの班だったはずだが?」
そうだ。確かローゼンクロイツのギルドマスター『ローズ』さんだ。ヒーラーとしての腕前はサーバー一と言われるほど優秀で、今までの神話連合によるボス討伐で死人が出ていないのは彼女のおかげとすら言われている。そして現在確認されている唯一のリザレクション習得者でもある。
「ええ、でもメインタンカーであるセシリア様のパーティーにはヒーラーが三人も配置されますし、セシリア様ほどの防御力があれば無理に私が入らなくても大丈夫ではないのかしら?それならば一瞬の油断が命取りになりかねない忍様のパーティーに入った方が適材適所というもの。最も忍様が私を信用してくださるのなら……ですが」
「俺としては大歓迎だけど姫はそれでいいの?」
「私も構わないわよ。他のヒーラーの方々も優秀だからね」
「そうか、確かに今回の討伐はアタッカーの役割が重要になってくる。忍君が安心して火力を発揮できるならその方がいいかもしれないね」
というわけではタンカー二班は、アタッカー『俺』、サブタンカー『美羽』、サマナー『師匠』、バッファー『委員長』、ヒーラー『ローズ』、ヒーラー『ハルカ』の6名に決定した。




