第25話 暴かれる真実 ~汚物への道のり~
「とりあえず忍さんのことは置いておいて、今日の分配は一人60kになります」
置いておかれたよ俺……。
「すごぉい!たった半日しかしてないのにそんなに貯まったの?一日中狩りしたら100kいくんじゃない?」
「そうですね。はい、忍さんにも。あなたの頑張りの成果ですよ」
《『美月』がトレードを申請しています。承諾しますか?(Y/N)》
俺はイエスを押して委員長からお金を受け取った。
確かにすごい額の分配金だ。このペースでお金を貯めることができれば装備を新調してもらえる日も近いかもしれない。そしてそのまま強くなっていけばいつか姫に……「やっぱりイージスには忍がいないとダメね」なんて言われたりして……なんてな!なんてな!
「二人とも夕食はまだですか?」
「ああ、委員長を待ってたから」
「そうですか。それでは夕食を運んでもらってください」
「了解」
俺は部屋に備え付けられているシステムウィンドウを操作して三人分の夕食を注文した。
「ねぇ、お兄ちゃん」
「なんだ?」
「就寝機能借りてもいい?重装備でいるのって気分的に疲れるからパジャマになりたいんだけど」
「ああ、いいぞ」
「やったぁ!」
「美羽、男の人の前ではしたないですよ」
「ボク男キャラだから気にしなーい」
「まったくもう……」
委員長の注意も聞かずに美羽はシステムウィンドウを操作してパジャマに着替えた。
クマさんだ。
模様がとかじゃなくて、クマさんだ。
そう。太古の昔『死武谷』に生息していたと言われるアレ。
着ぐるみである。
フードに耳までついていて普通に可愛いが、この外見にこの服はあざとい。
こんな弟なら是非とも一家に一人欲しいところである。
「それにしても美羽ってあれだよな」
「ん?なに?」
「ショタ趣味のお姉さま方にモテそうだよな」
「あはっ!ショタ趣味のお兄ちゃんたちにもね」
「う……すまん。さすがに俺も同性愛者には興味がないんだ」
「もう!ボクだってないよ!ところでお兄ちゃんも鎧外して楽な格好にしたら?」
「ああ、そうだ……な……」
システムウィンドウに触れようとしたところで手を止める。
あれ、そういえば俺ってジークに頼んでかなりエロい下着にしてもらったんじゃなかったっけ?
やっべぇ……。もしアレがバレたら委員長に汚物を見るような目で……もとい美羽の教育によくない。
ご、誤魔化すか。
「あ、いや、それがこの鎧、ジークって職人が作ってくれたもんなんだけどさ。見ての通り全然動きやすいから着替えなくても大丈夫なんだ」
「へぇ~?”あの”ジークが……ねぇ?」
美羽の目の色が一瞬妖しい輝きを放った。
も、もしかして墓穴を掘ってしまったのか……?
「ということはぁ、お兄ちゃん?その防具に設定されてるパジャマと下着のデザインはお兄ちゃんの好みで選ばれてるってことだよねぇ?」
「あ、い、いや、その……」
完全に怪しまれてるじゃないか!ジーク、お前どんだけ有名なんだよ!って姫が紹介してくれた人なんだから、イージスのメンバーが知ってても不思議じゃなかった!俺は馬鹿か!
「もしかしてそれがとんでもなく猥褻なデザインだから見せられない……ってことのかなぁ?」
「そうなんですか?忍さん?」
やばい、委員長がもう半分汚物でも見るような目になってる!
「はは、ははははははは。ソンナワケナイジャナイデスカ。い、至って普通のデフォルトパジャマですよ」
「くろ」
なにっ!?
「どうやら当たったみたいだねー。というか今の兄ちゃんの装備が既にお色気重視のデザインなんだからどんなもの着てるか簡単に想像が付くよ?当ててみようか?」
あ、当てなくていい!
美羽がまるでネズミをいたぶるネコのように笑って顔を覗き込んでくる。
その目はまるで全てを見透かしているかのようだ。
そして美羽は視線を少し下へと落とした。
そう、ちょうど俺の胸の辺りに。
「この胸の部分、鎧から肌が見えてるってことはブラしてないよね?」
そう言ってまるで正解を確かめるかのように再び俺の顔を見上げて、確信したかのように哂う。
バ、バレてる!?
「当然お兄ちゃんが普通のパジャマなんて選んでるわけないし、『ネグリジェ』……かなぁ?」
合ってるし……。
「しかもシースルーの」
なぜそこまで分かる!?何だこの名探偵っぷりは……。くっ!不味いっ!
ちらっと委員長の方を盗み見ると完全に汚物眼を開眼している。
ダメだ。もう手遅れだ。
「なんてねっ!お兄ちゃんが着替えない限りは全部ボクの想像でしかないから気にしないでね!」
今更そんなこと言われてもおせえよっ!委員長なんてもう完全に信じちゃってるじゃないか!
「忍さん」
「は、はい」
「着替えなくて結構です」
「……はい」
がっくりと項垂れたちょうどそのときトントンとドアをノックする音が響いた。
「夕食をお持ちしました」
女の人の声だ。
どうやらNPCである給仕のお姉さんが夕食を運んできてくれたらしい。
これぞまさしく天の助け!
「ど、どうぞ入ってください!」
そう言うと給仕のお姉さんがドアを開けて入ってきた。しかも片手で三人分の料理を持ったまま。
「お食事をお持ち致しました。テーブルの上に並べますがよろしいですか?」
「ああ」
てきぱきとした動作で食事を並べ終えると「それでは失礼致します」とすぐに部屋から出て行ってしまう。
この場に残された料理は出来立てのようで、湯気立っていてとても美味しそうだ。
今日の日替わりメニューはハンバーグらしい。
「よし!二人ともご飯にしようか!」
こういうときはさっさと流してしまうに限る。
「あはっ、それじゃあお姉ちゃん食べようか」
「仕方ありませんね……」
そうして俺たちは微妙な空気の中、夕食を取り始める事になった。
しかしこの日、遂に委員長の汚物眼が閉じることはなく、最後まで侮蔑の眼差しを向けられる事となる。とほほ。
俺はこの半日で悟った。美羽の天使のような見た目は、無防備な獲物を狙うための擬態であるということを!
中身は小悪魔なんて可愛らしいものじゃない!困っている人を笑いながら谷底へ突き落とす鬼畜生だ!
夕食が終わると委員長は明日の予定を事務的に決めて、美羽を連れてさっさと部屋から出ていってしまった。
一人ぽつんと残されてしまう俺。
食事中にメールを受信しましたというメッセージがシステムログを流れたので一人寂しくメールを開いた。
するとそこには……。
From:セシリア
タイトル:掲示板見たわよ
内容:強く生きなさい
From:晶
タイトル:生きていればいつかいいこともある
内容:と信じよう
この夜、俺は二人の優しさに枕を濡らすことなったのだった。まる。




