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第23話 もう独りには戻れない

「……そうですね。半日PTを組んでみましたが、ときどき間の抜けた行動を取るものの、私の指示にも嫌な顔ひとつせず素直に従っていただけましたね」


 まさかの好感触!


「そ、そりゃあ、委員長の指示は的確で分かりやすいし!最近全くパーティー経験がなかった俺からしたら大助かりだったよ!」

「だから委員長って呼ばないでください。あなたは鳥頭ですか」

「す、すまん!指示を出す姿があまりにも様になっていたからなんか癖になっちゃったみたいで……」


 そうなのだ。委員長の指示を出す姿とその声が、俺の知っている『ラブクラス』という擬似恋愛ゲームの委員長キャラクターにあまりにもそっくりだったから、心の中で委員長と呼び続けたらすっかり癖になってしまったのだ。決していじわるで言っているわけではない。

 ちなみにそのゲームでは数え切れないほどデートを繰り返しているので、委員長の声を聞いただけでちょっとドキドキしてしまう。

 しかしこの流れからして、もしするともしかするかも!

 そう思った矢先、なんと美羽から爆弾が投下された。


「もしかしてお兄ちゃん、お姉ちゃんに命令されて喜んでたんじゃないの?掲示板でもお兄ちゃん『ドエム』だって書かれてたし」


 ニンマリと笑みを浮かべながらとんでもないことを口にする。

 うおいっ!このタイミングになんて余計なことを!お尻から悪魔の尻尾が飛び出しているのが見えてるぞ!

 ま、不味い!訂正しなきゃっ!


「ドエムじゃない!Mだっ!」

「残念ですがあなたと組むのはこれで最後になります」


 委員長の絶対零度の視線が突き刺さる。


「あっ、いやっ!Mってのはあくまで掲示板の住人が勝手に言っていたことで、そのような事実があるわけではなく……」

「そうかなぁ?クンクン。お兄ちゃんからは確かに『ドエム』の匂いがするんだけど」


 そう言って美羽は舌なめずりをしながら、まるで獲物を見つけた肉食動物のように爛々と目を輝かせて俺を視界に捕らる。

 まるで毒婦のようなその視線に絡め捕られてしまったかのように身体が硬直する。

 こ、これはとてもじゃないが子供のできる目じゃないだろ……。


「美羽、はしたないですよ」

「はぁーい」


 委員長に窘められると、美羽はいつもの無邪気さを取り戻していた。

 束縛の解かれた俺はほっとため息をついた。

 完全に油断していた。VRの世界では外見なんて関係ないということを失念してしまっていた。


「さっき言ったのは冗談です。くすっ、忍さんとのPTハントは別段不快ではありませんでしたから」


 おお、委員長が笑ったところ初めてみた。か、可愛い過ぎるっ!『ラブクラス』と一緒だ!ギャップ萌えバンザーイ!!!


「ただし今後セクハラのようなことが確認されれば、即刻出ていってもらうことになりますが」

「は、はい」


 き、気を付けさせていただきます……。


「しかし忍さんはいいんですか?今日もあれだけ狩ったのにLvが上がったようには見受けられませんでしたが、ソロで高レベルの狩場へ行ったほうが効率がいいのでは?」


 確かにソロ狩りは高いダメージ効率を出している限り、経験値を総取りできる分だけ効率はよかった。戦うことは楽しかったし、どんどん強くなっていくのも面白かった。


「でももうぼっちは嫌なんだ……」


 そう、俺はついに一歩踏み出すときが来たんだ。

 パーティーハントの楽しさを知った今、もうソロ狩りに戻りたいとは思わない。

 委員長たちの方へ一歩踏み出す。


「な、何を……」

「俺だって本当は仲間たちとわいわいしながら狩りをしたいんだ……」


 一人で黙々と戦い続けるだけの日々。あれが悪かったとは思わない。それでもッ!

 さらに一歩を踏み出す。


「ちょっ!?忍!?」

「仲間たちと笑い合ったり助け合ったり……したいんだッ!」


 仲間の役に立っているという実感。連携がうまく噛み合ったときの快感。ソロ狩りにはなかった多くのものがパーティーハントにはある!

 だから俺は、さらにもう一歩二人へと詰め寄り、本音をさらけ出した。


「だから俺もパーティーという輪の中へ入れてくれないかッ!!!」

「わ、わかった、分かりましたから、怖いので少し離れてください!」


 委員長が顔を引きつらせながらまるで俺に怯えているかのように後ずさった。

 え?ええっと、怖い?俺、怖い?オレ、コワイ?


「忍……キモすぎ……」

「ぐはっ!」


 俺はあまりのショックに倒れ伏してしまった……。

 う、うぅ……過去の古傷が……トラウマが……あばばばばば。

 い、いや、ちょっと待てよ俺。美羽は確かに女みたいな顔しているが男じゃないか。男にきもいって言われるくらい……うん、死のう。


「とりあえず、忍さんが色々と残念なのは”よく”分かりました。ですから顔を上げてください」


 顔を上げると二人が心配そうにこちらを覗きこんでいる(※忍視点)。


「うぅ……こんな俺でも必要としてくれるのか?」


 俺は縋るような思いで二人に聞いた。


「もちろんですよ。(非常に消極的にではありますが。ほら、美羽も何か言って)」

「当たり前だよ。(こんな面白い奴なかなかいないしね)」

「そ、そうか。そうか!」


 俺は何て幸せ者なんだろう。こんなにも優しいパーティーメンバーに巡り合えるなんて……。

 自分から前に踏み出して本当によかった。

 二人の役に立ちたいという強い想いが込み上げてくる。

 今まで見たいに好き勝手戦うだけじゃダメだ。

 これからはもっと!少しでも強くならなければ!



 それから俺たちは道中のモンスターを撃退しつつも町へと帰還した。

 これからの方針を話し合うということで。


「それではこれから3人PTで行動するにあたって、分配方法を決めておきましょう。忍さんは何か希望はありますか?」

「俺は特にないかな。二人は今までどうしてたんだ?」

「使わない素材は全部お姉ちゃんに売ってきてもらってドロップしたお金と合わせて均等分配だね。後は自分の欲しいものがドロップしたときはそのままもらったりとか」

「ならそれでいいんじゃないか?どうせ素材なんかもらってもNPCのところで店売りするだけだし」

「「は?!」」

「ええと、お兄ちゃん。それマジで言ってるの?」

「ん?ああ、昨日までプレイヤーとはなし…あ、いやっ、プレイヤーとの取引が苦手だったから」

「なるほどね。ずっとぼっちだったお兄ちゃんは初対面の人に話しかける勇気もなかったと」


 やめて!そんなに正確に事実を読み取らないで!というかそこまで読み取ってるのなら頼むから察してくれ!


「あまりにも不憫ですね……。素材アイテムなんかはNPCに店売りしてもゴミのような値段でしか買い取ってもらえないのに……」

「う、やっぱりそうだったのか?」


 基本的にネットゲームの素材アイテムは生産に使ってこそ価値の出るものだから、店売りで得られるゴールドなんてものはあってないようなものなんだよな……。

 とはいえ、今まで大してお金を使うことがなかったから気にせず店売りしてたんだが。


「例えばこの『バジリスクの皮』は店売りだと100Gもしませんが、プレイヤー相手だと5kで売ることができます」


 うぐ、そこまで違うものなのか……。ごめんよ。今までお前たち素材のことをゴミのような値段で売りさばいたり、持ちきれなかった分をその場に捨てていったりして……。


「それじゃあもしよかったらこれからも俺の分も一緒に売ってきてくれたらすっごく助かるんですけど……」

「構いませんよ」

「え!?いいのか!」


 やった!言ってみるものだな!


「ええ、あなたが強くなることはパーティーにとってもプラスですから」

「お姉ちゃんに任せてたら狩りの準備から食事の準備まで全部やってもらえるよ?」


 マ、マジっすか!

 それ一体どこのお嫁さんですか!


「い、いいの?」

「構いませんよ。その分忍さんには狩りで頑張ってもらいますから」

「おう!そっちは任せてくれ!」

「お姉ちゃんってば他人のだらしないところまで気になって、仕事を取り上げてまでしちゃうタイプだから気にしなくていいよ」

「美羽!」

「うひっ」


 委員長が手を振り上げると、美羽は目を瞑って舌をぺろりと出しておどけて見せた。

 こういうところを見ると仲の良い姉弟なんだなって思う。

 それにしても……。


「まさに委員長のかがみのような人だ……」

「だから委員長って……はぁ、もういいです。忍さんのおつむには何も期待できないことが分かりましたから」

「す、すまん……」

「それではこれからアイテムを換金してきますから、二人は先に宿を取っておいてください」


 ま、まさかの同室!?


「もちろん別室で」

「うん、分かった。行こっ、お兄ちゃん!」


 ですよねー……。



 それから俺たちは宿屋に行ってすぐに部屋を取った。

 部屋に入ると、とりあえず武器を壁に立て掛けてベッドに座ってそのまま身体を倒した。

 やばい。今日は緊張の連続だった気が疲れてこのままだと眠ってしまいそうだ。

 あとで二人がこの部屋で一緒に晩御飯を食べてくれるっていうのに。

 俺は眠気を振り払うように身体を起こし、システムウィンドウを操作して掲示板を開いた。

 委員長を待っている間にPK疑惑を少しでも払拭しよう。

 そう思った矢先に美羽からプライベートコールが入った。


「今何してるの?」

「PK疑惑を少しでも晴らそうと掲示板に書き込みするところだったんだけど……」


 これは想像以上に酷いな……。


「へぇ~!面白そう!今から部屋行っていい?」

「ああ。二人とも『許可』設定にしてるからいつでも入って来れるぞ」


 ガチャ。


「おじゃましまーす!」


 返事をした直後ドアが開いて美羽が入ってきた。

 いやいや!いくらなんでも早すぎだろ!


「今日一日だけでも結構色々目立つことしてたからねぇ。今は一体どんな流れになってるの?」

「それは……、自分で読んでくれ……うぅ……」


 こんなのとてもじゃないけど口に出せない!いや、出したくない!


「しょうがないなぁもう」


 そう言って美羽はベッドにダイブするとうつ伏せになってシステムウィンドウを操作し始めた。

 俺も既に開いているPK掲示板の『狂刃きょうじん情報PKカウント-13kill!!!』に目を落とす。そう……なんと今日一日でスレッドが一つも進んでいたのだ。

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