第22話 スキル構成と操作技術
「はぁっ……はぁっ……、タ、タフ過ぎだろコイツ……」
ようやく倒し終えたバジリスクから剣を引き抜くと巨大な死亡エフェクトが舞い散った。
マイスタークリスの作ってくれた剣も強いけど、ジークの作ってくれた防具のおかげで実に動きやすくなった。その上『一匹狼の』の称号による敏捷補正までついたもんだから、いつも以上に身体のキレが増していて、バジリスク相手にもかなり余裕を持った戦いができた。
全く随分と強化してくれたもんだ。
「うっそ……ほんとに独りで倒しちゃったよこの化け物……」
「ば、化け物!?だ、だって二人が手伝ってくれないから!」
「一応忍さんがダメージを受けたところで戦闘に割り込んでいく準備はしていたのですが……。まさかノーダメージで倒してしまうとは思いもよりませんでした」
「なん……だと……!?」
くそぅ!そうと知っていればこんなに独りで頑張ることはなかったのにっ!
「でもほんと凄いよね。どうやったらそんな動きができるの?」
美羽が嬉しそうに聞いてくる。くっ!この無邪気な笑顔が恨めしい!
しかし褒められてしまったらさっきまでの憤りなんて風に吹かれたティッシュのように軽々と飛んでいってついつい照れてしまう。
いや、もう褒められることなんてないんですホント。人生を振り返っても。
「そ、そう?凄かった?ええっと、どうやってやったかっていうと、口では説明が難しいんだけど、自分の身体じゃなくてゲームのキャラクターとして操作するような感じ?」
「なにそれ?そんなことができるの?」
「VRシステムの性質上そんなことが可能だとは思えませんが」
「うーん、俺も原理とかはよく分かってないんだけどね。ただ、一年間ずっと闘技場で訓練してたらできるようになっただけだから」
「一年間ずっと……ですか?」
「うん」
「うそっ!?一日も休まずに!?」
「うん」
「一体一日に何時間プレイしていたんですか?」
「に、二十四時間?」
「廃神だ!真性の廃神がいるよ!お姉ちゃん!」
古来より現実世界の生活に支障を来すほど時間を忘れてネットゲームにのめり込むような猛者を人々は尊敬と嫉妬、そして侮蔑の意味を込めて廃人と呼ぶ。そして廃神とはさらにその中からほんのひと握りの者たちにのみ与えられる栄誉ある称号だ。
「あなたのように現実での生活を捨てて、仙人の如くゲームの中に引き篭もっていればあるいはそのような術も身につくのかもしれませんね……」
「ゲームをしてただけで酷い言われようだ!」
いや、そのやっている時間が問題なのか……。あれ?ちょっと待てよ。ここにいるみんなは一ヶ月間ログインしっぱなしなわけだから人のこと言えないんじゃないか?
「なるほど、つまりここは廃神養成所というわけか」
「「…………」」
「いや、あの、ごめんなさい。皆さんは仕方なく……ですよね。僕とは違いますよね」
めちゃくちゃ白い目で見られてしまった。
どうやら触れてはいけない話だったらしい……。
「ともあれあなたが独りで戦ってくれたおかげで、戦闘スタイルを分析することができました。次はもう少し連携を強めていけると思います」
「そ、そうか。それなら一人で頑張った甲斐もあったかな。それにしても二人とも本当に凄いよな。美羽の『チェンジウェポン』だっけか?弓と槍を器用に使い分けるなんて簡単にできることじゃないだろ?」
「ボクはこれでも弓道部だからね。弓のシステムアシストって当たるようには補正されるんだけど、外れるようには補正されないんだ。だから腕前さえあれば、スキルレベルに関係なく当てることができるんだよ。槍の単純に隙を見つけて突いているだけだけどね。確かに使いこなせれば便利だけど、その代わり『槍』『盾』『弓』『チェンジウェポン』だけで四つもスキル枠が取られちゃうのが難点かな」
なるほど。それとヘイトスキルで五つも埋まっちゃうわけか。
それにしても弓道部だからってあんなにも正確な射撃ができるものなのか?美羽って実は凄い奴なのかも……。
「美月もさすが委員長だけあって的確な指示だったよ。最後に俺が駄目にしちゃったけどさ」
「委員長って呼ばないでください。後衛としてあれくらいは誰だってできます。何ですか、急に私たちを褒め始めて。何か下心でもあるんですか?」
うぐっ、鋭い。
「い、いや、全然ソンナノナイヨ?ふ、二人になら安心して背中を任せられるなぁって思っただけで」
「あなたには全く任せられそうにありませんけどね」
「ぐはっ!」
「あはっ、確かにお兄ちゃんと一緒にいたら安定した狩りは期待できないかもね」
「そ、そこはほら!まだパーティーハントに慣れてないからってことで!」
「そうですか。では今日一日でどれだけ慣れることができるのか見てみましょう」
まぢで?これからテストですか?
「が、頑張らせてイタダキマス」
それから俺たちは日が傾くまでバジリスクを狩りに狩りまくった。
時には俺が敵をリンクさせてしまい、委員長に怒られてしまう場面もあったが、概ねいい感じだったと思う。
格下とはいえタフな敵を相手にしていると、戦っている時間も長くなって、その分スキルを多用するからスキルレベルももりもり上がるし、元々六人で狩る敵を三人で狩ってたわけだから経験値も大量に入り、委員長と美羽は2レベルも上がった。
さすがに俺の場合は敵が15レベル以上も格下になるため、メインレベルが上がるようなことはなかったけど、それでもいい稼ぎにはなった。
しかもソロのときと比べても明らかに攻撃回数が増えたのに、未だにグレートソードは折れていない。
クレイモアだったら一体何本折れていたことか……。
とはいえさすがに武器の損傷も激しくなってきた。
「武器の耐久度がそろそろ30を切ってきたな」
「そうですか。それではそろそろ狩りを切り上げて町へ戻りましょう」
「そうだね。今日はもう飽きるほど稼いだよ」
「よし!それじゃあ、帰るか!」
俺たちはここに来てようやく狩りを切り上げ、街に帰ることにした。
そして話をしながら街へと戻る最中、話題はスキル構成へと移っていった。
「お兄ちゃんって、『両手剣』『ガードインパクト』『気配察知』『ダッシュ』『ターンステップ』のスキルを入れてるんだよね。あと一つって何を入れてるの?」
「『剛脚』っていうキックの上位スキルだな」
「え?でもお兄ちゃんが蹴り技を使ってるところって見たことないんだけど」
「そう言えば剣が強くなりすぎて蹴り入れるのすっかり忘れてたな。あっ、でも全く使わなかったってわけでもないんだぞ?」
「嘘?!いつの間に?」
「ボクシングには蹴り技がない。そんなふうに考えていた時期が俺にもありました」
「は?何ソレ?」
「知らない……だと……!?」
くっ、古いとはいえ爆発的人気を博した某格闘漫画の有名なセリフなのに!それを思い出してパク……ごほんっ!リスペクトした技なんだけどな。
「詳しく説明すると、ジャンプするときとか、ステップするときとかに地面を強く蹴ってるんだ。アクティブスキルじゃないただの蹴りはSPも使わないし硬直もないから、それに利用して急な方向転換やジャンプ力を上げるのに利用するわけだ」
「なるほど、そのような使い方もできるんですね」
「もちろんただ走ったりするだけじゃ効果は発生しなくて、地面をしっかりと蹴りつけないとシステムアシストは発動しないけどな。これが使ってみると結構重宝するものなんだ。で、そういう美羽は何を入れてるんだ?」
「ボクは『片手槍』『騎士盾』『長弓』『チェンジウェポン』『ヘイト』『ガードスタンス』だよ」
おそらく『騎士盾』は『盾』、『長弓』は『弓』の上位スキルなのだろう。
「ときどき使ってた防御系のアクティブスキルが『ガードスタンス』になるのか?」
「そうだよ。30秒間防御力を上げる『アイアンスキン』とか、防御体勢を解除するまで飛躍的に防御力を上げる『ファランクス』とかが使えるようになるタンカーの必須スキルだよ」
「なるほどなぁ。ちなみに委員長は?」
「委員長って呼ばないでください。私は『神聖魔法』『付与魔法』『詠唱速度UPⅠ』『MP回復量UPⅠ』『気配察知』『細剣』のスキル構成です」
「『神聖魔法』っていうのは『回復魔法』の上位スキルだよな。『付与魔法』っていうのは『補助魔法』の上位スキルなのか?」
「確かに『神聖魔法』は『回復魔法』の上位スキルですが『付与魔法』は少し違います。『補助魔法』はランクアップすると、装備を一時的に強化することに特化した『付与魔法』と肉体を一時的に強化することに特化した『覚醒魔法』に分岐するんです。スキル枠が余っていれば両方覚えることもできたのですが、現状ではその余裕がありませんから『付与魔法』だけを入れています」
「『気配察知』っていうのは俺もソロ狩りのために覚えてるけど、常に周囲に気を配っている委員長にはぴったりなスキルだな」
「だから委員長って呼ばないでください」
「す、すまん……にしても『細剣』なんてどうして入れてるんだ?」
「元々は美羽と二人で狩りしていましたから、火力不足を補うために私も攻撃に参加していたんです。今回は無理に攻撃に参加するより少し下がって回復と補助に徹したほうが、パーティーの安全を確保できると判断したので使いませんでしたけど」
なるほど、確かにヒーラーが前線に出てもし自分が攻撃を受けるようなことになってしまったら、自分にも回復をかけないといけなくなるから、MP消費も増えるし、前衛への回復が疎かになってしまう可能性もある。
「なるほど。あ!それじゃあ俺が入ったら『細剣』を外して『覚醒魔法』を入れられるんじゃないか?」
ちょ、ちょっとわざとらしかったかな?
いや、でも間違ったことを言っているわけじゃないし……。
「そうなりますね」
委員長の表情からは何も伺えない。
いいのか?ダメなのか?うぅ、ダメだ。不安で胸が痛くなってきた。
すると美羽がイタズラっ子のような笑みを浮かべて委員長の方を見上げて言った。
「お姉ちゃん、どうする?」




