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第12話 戦士たちの休息

 え、何ですかこの威圧感?まさかスキルですか?それとも隠し種族で『般若』とかあるんですか?。

 なんて馬鹿なことを考えているとついに沈黙を破って姫が口を開いた。


「それで、さっきの茶番ちゃばんは、一体何なのかしら?」


 笑顔で一言一言しっかりと、まるで怒り(さつい)でも押し込めたかのような声に背筋が震え上がる。

 その笑顔の裏に般若の幻影が見えるのは錯覚だと信じたい!

 くっ!誰だ!幻影魔法なんて使ってる奴は!?

 なんて現実逃避気味に周囲をきょろきょろと見回しているとガシッっと襟首を掴まれた。

 そして無言で睨まれる。

 ちょ!?どこのヤの付く自由業の方ですか!?絶対に堅気かたぎの方じゃないですよね!?


「いや、えっと、あの……ですね。俺、相場とか全然知らなくて……」

「まぁまぁ姫。忍は昔からよく騙されては変なものを買ってきてたじゃないか」


 さすが師匠、ナイスフォロー!……あれ?フォロー?フォロー……だよね?


「はぁ……、まぁここで保護できただけでもよしとしましょう。ほら、申請送るわよ」


 そう言って俺を解放し、左手でシステムウィンドウを操作しはじめた。


《『セシリア』があなたをギルドに招待しています。加入しますか?( YES / NO )》


 もちろんです!イエス、マム!


《『忍』がギルド『イージスの楯』に加入しました》


「これでよし、と。それじゃあ、あなたのことをギルドメンバーに紹介するから場所を移しましょう。ちょっとみんなにメール送るから待ってて」


 姫が再びシステムウィンドウを操作してメールを打ち込んでいく。

 一体何のメールだろう?

 打ち終えたのか姫の手が止まると、メールの受信が始まった。


《ギルドメールを受信しました》


 開いて中を確認して見ると……。



タイトル 新規加入者

内容 イージスの楯に新しく馬鹿が加入しました。ボス討伐の打ち上げを兼ねて歓迎会をしたいのでラクトの町の酒場に即刻集合してください。



 ギルドメールとはギルドメンバー全員に一括でメールを送信できる便利な機能で、当時もよく集合をかけたりイベントを開催するときなんかにはよく使われていた。

 それにしても……。


「馬鹿って……」


 がっくりと項垂うなだれる。


「それくらい書いた方がいいのよ。今回討伐に参加したメンバーはある程度事情を把握してるでしょうけど、第一印象が狂刃きょうじんのままだったらあなたギルドでもぼっちになるわよ?」


 これはきっと姫なりに気遣ってくれたんだろう。うん、きっとそうだ。そういうことにしておこう。俺の心の平穏のためにも。


「まぁオークションでのやらかしっぷりが広まれば、みんな優しく接してくれるわよ。腫れ物に触るみたいに」


 え、何その優しさ!?そんな優しさいらないんだけど!?


「さて!それじゃあ酒場に行って打ち上げよ!」


 それから姫はボス討伐に参加していたイージスのギルドメンバーを連れて意気揚々と酒場へ繰り出して行った。


「あっと、忘れてた」


 姫が唐突に足を止めて振り返る。


「へ?」

「その眼帯、似合ってるわよ」


 それだけ言うときびすを返して再び酒場へ向かって歩き出した。

 あれだけとげの生えた鞭で引っ叩いておきながらなんて甘い飴を投げて寄越すんだ!

 くぅぅぅぅ~~~~~~~っ!これだから姫のそばにいるのはやめられないんだ!

 今度こそ絶対に守り抜く!もう二度とこの場所を手放してしまわないためにも!




 俺は今までリア充空間として近寄りもしなかった酒場に初めて足を踏み入れた。

 俺たちが酒場に到着してからしばらく待っていると、『イージスの楯』のギルドメンバーたちがぞくぞくと集まってきた。多い。ぱっと見た感じ20人以上は居そうだ。


「よし、みんな集まったわね。それじゃあ紹介するわ。今回新しくうちに加入した『しのぶ』よ」


 姫に前へとうながされ、緊張しながらも挨拶をする。


「ソ、ソードマンノ忍デス。武器ハ両手剣デス。近接アタッカーデス。趣味ハゲームデス」


 俺は待っている間に必死に考えていた自己紹介を何とか言い終えた。


「何でそんな片言なのよ……」


 姫が呆れたように言う。


「い、いや、その、こういうの初めてだから緊張して……」


 それはもう足が震えるほどに!

 みてほら!もうぷるっぷるしてるよ!ぷるっぷる!


「はぁ……、しかも趣味はゲームってみんな一緒だから。せめてヴァルキリーヘイム以外で好きなゲームを言うとかしなさいよね」

「そ、そうか!このゲームを始める前までは『鮮血のコロッセウム』っていうVRMMOにハマってました」


 『鮮血のコロッセウム』というのは『コロシアム』での対人戦をメインコンテンツとしたVRMMOで、一体一はもちろん、一対多数、人対古代戦車、人対モンスターなどではプレイヤーが古代戦車やモンスターになって暴れることもできた。

 とは言え、俺は頑なに人間しか使わなかったが。

 毎日朝から晩までやってたのも今となってはいい想い出。

 しかしそれを聞いて一人の男が声を上げて立ち上がった。


「お、お前SHINOBUか!?もしかして絶望の拷問人形SHINOBUなのか!?」

「え?えっと……確かにSHINOBUって名前でやってたけど……」


 絶望の拷問人形?なんだそれ?


「何?あなたそっちのゲームでも有名人だったの?」

「え、全然知らないんだけど……」

「お前……掲示板見てなかったのか?」


 男が酷く驚いている。掲示板見ないのはそんなに不思議なことなんだろうか?


「そういえば、自分が狂刃きょうじんって呼ばれてたのも知らなかったし……」

「あ、いや、攻略板とかは見てるんだけど、雑談板みたいなのはあんまり見てない……かな」

「なんで?大事な情報源じゃない」

「……昔掲示板に書き込みしたことがあったんだけど、スレの住民に長文キモイとか触れてやるなとかめちゃくちゃ叩かれて必死に抵抗したんだけど、抵抗するほどファビョったとか顔真っ赤とかフィルター推奨とか言われてそれ以来トラウマに…………」


 うぅ、あれは今思い出してもにがい思い出だ……、だってあいつら一致団結いっちだんけつして俺の存在意義そんざいいぎを全否定してくるんだぜ?


「「「……………………」」」


 な、何?

 何だか可哀想なものでも見るような目で見られているんですけど……。


「はぁ……、それで一体そのゲームでは何をやらかしたのよ」


 姫がもう何度目か数えるのも億劫になるほどの溜め息をついて沈黙を破ると、男はそのときのことを話はじめた。


「あ、ああ。最初に名前が知れ渡り始めたのがこのゲームが始まる一年前くらいだったかな。装備も弱くてプレイヤースキルもないSHINOBUってキャラが闘技場に入り浸ってるって噂が広まりはじめて、事実当たったら誰でも勝てるカモだって闘技場常連者の中では常識になってたんだ。でも負けても負けても辞めないから、もしかして運営がユーザーのモチベーションを上げる為に作り出したNPCなんじゃないかって噂になりはじめて」

「あなたどれだけ弱かったのよ」

「うぅ……」

「それが、一月ひとつき二月ふたつきと時間が流れるごとに少しずつ勝率を伸ばしてきたんだ。みんな信じられない思いだったと思う。俺だってそうだ。だってみんなゲームがアップデートされるたびにどんどん装備を強化していっているのにそいつだけ全く変わらなかったんだぜ?」


 ああ、それは俺が闘技場しかしてなかったからだな。対人戦をメインコンテンツにしたVRMMOだったのに、狩りしないとLVや装備が変わらないっていう意味不明な仕様しようのゲームだった。一応闘技場の戦勝ポイントでも装備は買えたんだけど、最初は全然勝てなかったからポイントが貯まらなかったし、勝てるようになってもレベル制限の所為で装備できなかったんだよなぁ。


「それから半年後にはもう廃課金者たちとタメを張れるようになって、そこから先はまさに悪夢の連続だった。想像してくれ。何ヶ月も前の時代遅れの装備の奴に少しずつHPを削り殺されるんだ。そこから付いた二つ名が『絶望の拷問人形』。もう掲示板でSHINOBUに勝ったって話が上がっても完全にデマ扱い。実際に戦ったことのある奴なら、あんな化け物に勝てる人間なんかいないってすぐに分かる。ついには運営が開発したAIが成長してとうとう人間を超えたなんて噂も囁かれるようになったくらいだ」

「それ、本当にあなたなの?」

「うっ……俺かも……。闘技場しかやってなかったからから装備とかLVも上がらなかったし、それでも少しずつ勝てるようになってきたのが嬉しくてずっと闘技場に入り浸ってたし、最後の方は負けることがなくなってきたし……そんなふうに言われていたなんて全然知らなかったけど……。前のゲームでも知り合いなんていなかったから……」

「「「……………………」」」


 みんなの憐れみの視線が痛いっ!


「はぁ……いつの間にやらとんだ戦闘中毒バトルジャンキーになったものね。つまりはそのときの経験が今()きてきてるってわけか」


 姫にまた溜め息をつかせてしまった……。

 え、俺ってそんなにダメですか?


「えっと、私からもいいですか?」


 今度は別の女の子が手を上げた。


「はい、どうぞ」

「忍さんってその……掲示板で噂になってる狂刃きょうじんの忍さんですよね?どうしてそんな人がうちに?」

「みんな私が前作のヴァルキリーヘイムをやってたことは知っているわよね?その時独りぼっちでプレイしてた忍を拾ってきたのがわれらがサブマスターあきらなの。それからその……私がゲームを辞めるまでずっとギルドで世話してきたんだけど、そのときの縁ということになるわ。それで今回もまたぼっちでやってるって聞いたから拾ってきたってわけ」


 ぼっちぼっちってそんなに強調しなくても……。


「それがどうしてこのタイミングなんてすか?」

「私も今日まで会うまで彼……彼女?があのときの忍だって知らなかったんだけどね。それが今日この馬鹿がボス狩りの一般枠で参加してきたのよ。まぁそれがきっかけでわかったんだけどね。ちなみに掲示板で言われてる黒い方の噂は全部嘘だから。すぐには信じられないかもしれないけど、こいつログインしてからこれまで人と関わったことすらなかったから」


 その言葉を聞いてみんなが暖かい眼差しが俺に突き刺さる。

 やめろ……やめてくれ!そんな目で俺を……俺を見るんじゃないッ!!


「今日ボス狩りに参加したメンバーからこの馬鹿に関して色々と面白い話が聞けるはずよ。いきなり色々とやらかしてくれたからね。さてと。それじゃあ、小難しい話はこれぐらいにして今日は飲んで食べるわよっ!」

「「「おおおおおお!!!!」」」


 それから大宴会が始まった。俺は酒の力を借りて色んな人と話ができた。ボスの話、オークションの話。俺のつたない話を聞いてくれてツッコミを入れてくれる人もいた。俺は現実世界リアルでもこういった場所に呼ばれたためしがないため、テンションが上がってはしゃぎにはしゃぎまわった。

 姫の傍には本当に優しくて暖かい空気が集まってくる。ここには俺が求めて止まないものが全部ある気さえする。

 それから俺は前作で一緒だった仲間たち、そして今作で新しく仲間になった人たちと酒を酌みわしながら今ここにいられることにただただ感謝した。

 できることならこの幸せな夢が醒めませんように……。

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