第11話 オークションの極意
ゴチンッ
姫の振り上げたコブシが俺の頭に目掛けて振り下ろされた。
「いてっ、え、ええ!?何で!?」
「あなたのせいで戦闘中に作戦変更なんてアクロバティックなことさせられるわ、常に死と隣り合わせみたいな戦い方をしてテンションがおかしなことになっているわ、挙句の果てに勝手に死に掛けてるわ、もうほんと最悪よ!!下手したら全滅してたのよ!?」
うええええええっ!?そ、そんなに危ない状況だったの!?
「ご、ごめんなさいっ!」
「まぁまぁ、とはいえ今回は忍君のおかげでヒーラーのMPにかなり余裕があったわけだしいいじゃないか」
ネームレスさんが俺を庇うように助け舟を出してくれる。
なんて良い人なんだ!
こんな俺みたいなやつが討伐に参加するって聞いても断らなかったし、俺の中でどんどんこの人の株が上がっていく。
「そうね。忍が死んだところで元の作戦に戻せばいいだけだから」
姫がネームレスさんを敵意全開で睨みつけている。
な、なぜ?
「そう責めないでくれ。例え死んだとしてもリザレクションを使う準備はあったんだ」
「責めてなんてないわ。あなたの指揮は完璧よ。次のボス討伐までにはコレをもっとちょっとマシに育てておくわ。あなたの作戦に殺されないようにね」
そう言って姫が俺の腕を強く引っ張った。
「コレって……」
俺って物扱い?物扱いなんですか?
「それは残念。君たちが彼女と知り合いでなければ是非ともうちのギルドにと考えていたんだが」
「心にもないこと言わないで。こんな常識外れの変態、あなたが最も嫌悪する不確定要素ってやつでしょう?」
「確かにそれは否定しないよ。でもこのままテンプレートな編成と作戦だけで最後まで押し切れるとは君も思っていないだろう?」
「確かに……それはね……」
姫が顎に手を置いて何かを考え始めた。
そんな俺たちのいるところへ紫色の縦ロールの髪をした美人エルフさんが近寄ってきた。
「雑談はそのくらいにして街に帰ってオークションを始めませんこと?ボスのドロップ品を持ったままこんなところで話し込んでいるなんてぞっとしませんわ」
後から聞いた話だが、彼女こそがローゼンクロイツのギルドマスターにして唯一蘇生魔法『リザレクション』を習得しているローズさんその人だった。
確かにボスを討伐できるほどの実力者たちが集まっているとはいえ、周囲も警戒せずにこんなところで話し込んでいるのは危険過ぎる。
しかも今俺達はボスドロップという、他のプレイヤー垂涎のアイテムを所持しているのだから狙われる可能性は十分に考えられる。
美人エルフさんの進言を受けたネームレスさんは各班に警戒を促し、街へ帰還するように指示を出した。
それから俺たちは道中の雑魚を蹴散らしながら特に問題なく街への帰還を果たした。
街へと到着すると、『黎明』のギルドホールへと討伐隊全員が案内された。
ギルドホール……とは言っても『黎明』が所有する建造物ではなく、今回の分配を行うにあたってNPCから一時的に借り上げた大型のインスタントエリアになる。
ここでこれからオークションが開始されるらしい。
ボスモンスターに限らず、モンスターのドロップ品は自動的に敵のすぐ傍にいる人のインベントリへと入る仕様になっている。そしてそのドロップ割合は戦闘への貢献度の高い者へと優先される。
今どきこのような仕様のMMORPGは珍しく、他のゲームでは大抵『ランダム獲得』や『自由獲得』などがパーティー結成時に選択できるようになっている。
つまりヴァルキリーヘイムでドロップを均等に分配しようと思ったら、一度全部集めてそれを統計して再分配する必要があるのだ。
開発陣が言うにはその手間すらもMMORPGの醍醐味……という話だ。
そして今回の場合だと、高いダメージを与えることでシステム上最も貢献したと判断された俺に多数のアイテムが入り、次にヘイトスキルでボスの攻撃を受け持った姫にいくつかのアイテムが入り、そしてボスの周りで攻撃していたサブタンカーの人たちに少しだけアイテムが入っていたらしい。
しかし当然このままでは回復や攻撃や補助魔法などで活躍をした後衛の人たちは何も得ることができない。
だからそれらのドロップを一時的に全てネームレスさんが預かり、オークションにより換金を行い、ゴールドに換えて分配されるという流れだ。
全てのアイテムを俺を含む討伐隊メンバーから受け取ったネームレスさんがドロップアイテムの目録を読みあげていく。
ドロップアイテム
ユニークアイテム『断鎧のシャムシール』(片手剣、攻撃力45耐久度150/150)
ユニークアイテム『堅牢なタワーシールド』(盾、防御力26硬度200/200)
ユニークアイテム『リザードベルーガの皮』×3(皮素材)
ユニークアイテム『海賊の眼帯』(ファッションアイテム 防御力0 効果なし)
レアアイテム『生命のネックレス』(体力+1)
レアアイテム『生命のイヤリング』(体力+1)
レアアイテム『シルバー鉱石』×2(鉱石素材)
レアアイテム『サファイアの原石』×3(宝石素材)
魔法スクロール『ハイドロエクスプロージョン』
『断鎧のシャムシール』も『堅牢なタワーシールド』もさすがユニークアイテムだけあって凄まじいほどの性能だ。残念ながら俺にはどっちも関係ないが。
素材アイテムは……よく分からない。
製作なんて触れたことすらないし。
ハイドロエクスプロージョンっていうのは名前からしてボスの使ってた水の範囲魔法のことかな?
この中から欲しいものを挙げるとするなら、体力が上がるアクセサリーと……海賊の眼帯だ。
試しに眼帯を付けさせてもらったんだけど、中から透けて見えるようになってちるから視界は塞がらないし、なんと言ってもヤバイくらいに格好良すぎた!しかもユニークアイテムってことは、今ここでしか手に入らない一品物ってことだろう。是非とも欲しい。それはもう喉から手が出るほどに。
でもアレはきっとみんな入札に参加してくるだろうなぁ……。
値段が吊り上ることなど容易に想像が付く。
うーむ、駄目元で参加してみるか?
そうして入札が開始した。
一番の目玉商品である『断鎧のシャムシール』は1.2M(1,200,000G)、『堅牢なタワーシールド』はなんと1.5M(1,500,000G)にまで値段が吊り上がった。しかも盾を競り落としたのは姫だし……。
み、みんな金持ちすぎだろ!?
ベルーガの皮は一つ380k(380,000G)で落札。
落札者が決定するたびにギルドホールに拍手と賞賛の声が響き渡る。
なんだろうこの雰囲気。ただオークションをしているだけなのにめちゃくちゃ楽しくなってきた!テンションが上がってくる!
そしていよいよ勝負の時がきた。ネームレスさんがみんなに見えるように『海賊の眼帯』を高く掲げる。
オークションを見ていて一つだけ気づいたことがある。値段を少しずつ上げると、相手も『まだいける、まだいける』と吊り上げてきて最後にはお互い譲れなくなって行き着くところ(所持金の限界)までいってしまうようだ。
現在の所持金は680,125G……もうオークションは完全に見切った。最初が肝心だ。ライバルたちに早々にリタイアしてもらうため、できるだけ最初に大きく値段を提示することが結果的に安値で買うことに繋がるに違いない。
「次はユニークアイテムのファッションアバター『海賊の眼帯』。装備しても視界は塞がらないようになっている。それでは10Gからスタートだ!」
「400k(400,000G)!」
ギルドホールに俺の声が響き渡る。
頼む……みんな諦めてくれ……。神様お願いです!俺に眼帯を!!!
俺は肩膝をついて手を組んでひたすら神に祈りを捧げた。
「よ…400k……いいのか?」
「え」
ネームレスさんがまるで信じられないようなものでも見るような目を向けてくる。なぜ?
「この馬鹿!」
俺を叱咤した姫が頭を手で抱えている。なぜ?
「現在400k。他にはいない……だろ、うん」
いやいや、何で断定!?聞こうよそこは!これオークションですよ!?そりゃあ俺としてはありがたいけれども!
周囲を沈黙が支配する。もしかしてこのまま落札?
「カウントを開始する。5……4……3……2……1……0。落札者は忍君……君だ」
「いよっしゃ!!」
思わず飛び上がってガッツポーズ。
俺がニヤニヤするのを抑えきれないままネームレスさんのところへ向かうべく足を踏み出すと、ギルドホールを大喝采が響き渡った。
みんなの間を通り抜ける俺に賞賛の言葉が投げかけられる。ありがとう!ありがとう!と。
いやいや、違うだろ。ここはおめでとうっていう場面じゃないのか?
「えっと、嬉しそうにしているところ非常に言いにくいんだけど、この世界がデスゲーム化した所為で強さに関係のないファッションアイテムはいくら高くても100kがいいところなんだ……。しかもこのくらいの大きさのものだと30kするかどうか……。まぁユニークアイテムだからプレミア価値は付くには付くんだけど……」
なっ!なんだと…!?
じゃあ、俺は十倍ものお金を払って買ってしまったことになるのか!?
つまりそれだけみんなへの分配金が増えるわけで、だからみんなありがとうありがとうって……。
俺は放心したまま眼帯を受け取ると、そっとステータス画面を開いて装備した。ファッションアイテムは通常装備とは別に装備スロットが用意されているため、頭の防具と入れ替える必要はない。
デザインは黒地に白い髑髏とクロスボーン。似合いすぎていてヤバイ!眼帯を着けた自分に惚れてしまいそうだ……。これならいくら金を叩いても惜しくは無いッ!
俺はみんなの方へと振り返るとクレイモアを鞘から引き抜き、頭上高く掲げて言い放った。
「我が生涯に一片の悔いなしッ!!!」
会場をさらなる歓声の波が包み込む。この目から溢れ出る熱き血潮はきっと感動の証だ。そうだ、そうに違いない!
「うん、進行の邪魔だから早く下がってね」
「はい……」
俺はリストラを食らったサラリーマンのように猫背になってとぼとぼと席へと戻った。
きっと背中からはむせ返るほどの哀愁が放たれていたことだろう。
そして残り280kしかない俺には当然体力のアクセサリーなんか手が出るはずもなく、恙無くオークションは終了していった。
ちなみに体力のネックレスも姫が580kで落札した。ほんといくら金持ってるんだ……。とこの時は思っていたが、なんでもボスのドロップ品はギルド資金で購入するという話になっていたらしい。
「集計の結果合計金額は6,648,254G、今回協力をしてくれた生産職の人たち6人を含め、計54人で分配して一人当たり123,116Gになる。いつもどおり黎明、ローゼンクロイツ、イージスの盾に所属するメンバーの分はギルドマスターに渡しておいたから、そちらから貰うように。それでは個人で参加してくれた者たちはこの場で受け渡しを行うから俺の前に並んでくれ」
そう言ってネームレスさんは俺たち一人一人にトレード申請をして報酬を渡してくれた。
「今回はありがとう。次も期待しているよ」
「ああ!」
ネームレスさんと握手を交わす。
ふふ、やった!やったぞ!まさか次も呼んでもらえるなんて!こんなにイベントなら毎日だってやりたいくらいだ!
「それではこれで解散とする!みんな、次もまた生きて会おう!」
「「「おおおおおッ!!!!」」」
ギルドホールを揺るがせるほどの歓声が響き渡った。
この場にいられたことが今はただただ嬉しい。
このとき俺は安易にそんなことを考えていた。
振り返れば鬼が手薬煉引いて待っていることも知らずに……。




