第10話 ベルーガ討伐③
「ロングレンジダッシュスラアアァァァァァッシュッ!!!」
俺はすぐさま『ダッシュ』を発動してボスの背中へと斬り込んで戦線への復帰を果たした。
そしてそこから上半身を振り子のように∞の字に振り続ける。
活目せよ!これぞ某ボクシング漫画のフィニッシュブロー『デンプシーロール』を参考に編み出した必殺技!
「我流滅殺奥義!インフィニティブレイクッッッ!!!」
左へ身体を捻りながら体重移動をして袈裟懸けに斬りつけ、剣の遠心力を利用して弧を描くように左上に振りかぶり、右へ身体を捻りながら体重移動をして逆袈裟懸けに斬り払い、再び剣の遠心力を利用して弧を描くように右上に振りかぶる。
この身体の捻りと体重移動に『ターンステップ』の瞬間発動によるシステムアシストを加えることで身体の切れが増す仕組みになっている。
『インフィニティブレイク』とはこれを繰り返すことで斬撃の威力を高めていき、最終的には凄まじいダメージ効率を叩き出すという対ボスモンスター専用に昨夜編み出したばかりの新必殺技だ。
もちろん『秘剣風車』と比べると断然燃費が良い。
「まだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだッ!!!」
激しい斬撃の嵐を受けて、ボスのHPがついに半分以下に食い込んだ。
「グオオオオオオオオオッッ!!!」
ボスが雄たけびをあげてこちらに振り返った。
どうやら狙いを俺に変更したらしい。
ボスの持つ曲刀がこちらへ向かって振り下ろされる。
しかし俺はこれでも元闘技場常連者!
そんな大振りなんて食らうかよ!
「ターンスラッシュ!ハァッ!たぁ!ターンステップ!おらおらッ!」
フェイントすら織り交ぜないような単純な攻撃が俺に当ると思うなよ!
『ターンステップ』で流れるように敵の攻撃を回避しながら通常攻撃で確実にダメージを積み上げていく。
「ハハッ!そんな攻撃じゃいつまで経っても当たらないぜ!何もできないまま削り殺されるのか!ハッ!せいっ!うはっ、今の動きはリプレイものだろ!」
リプレイとは自分の戦っている姿を第三者視点から撮影して後で見ることができる機能で、VR版ヴァルキリーヘイムにも本来はあったはずの機能だが、ログアウトできない所為か今は使うことができない。
残念にも程がある。
ボスも避け続ける俺を見て通常攻撃では埒が明かないと判断したのか曲刀を大きく振りかぶった。
曲刀を白い風が包み込む。
「範囲攻撃来るぞ!『ガードインパクトッ!』」
ボスの斬撃に合わせて『ダッシュ』で勢いを載せて『ガードインパクト』を放つ。タイミングは完璧だ。
パリンッ!
再び耐え切れなくなった武器が悲鳴を上げて壊された。そしてまた殺し切れなかった衝撃を受けて吹っ飛ばされる。
「『エクストラヒール!』」
しかしすぐに仲間からヒールが飛んで来た。
さすが精鋭だけあって反応が早い。宙を舞ってる間にもうHPが全回だ。
「後は任せなさい。『タウント《こっちよ!》』」
姫が『挑発』を使い再びボスの注意を引き付ける。
俺もすぐに予備の武器へと交換して戦線に復帰。
ボスの背後からコンボに次ぐコンボでボスのHPを削り取っていく。
そしてついにボスのHPが四分の一以下に割り込んだ。
「ウオオオオオオオオオオッッッッ!!!!」
次の瞬間ボスが雄たけびを上げて曲刀を掲げると、全身からどす黒いオーラが立ち昇り、それに巻き込まれた俺を含む周囲の仲間たちが僅かにダメージを受けてノックバックする。
しまった!行動パターンが変化したのか!
『ベルーガ』がぬるりと俺の方へ振り返る。
怒りに染まり赤く濁った眼が俺を捕らえた。
どうやらまた俺に狙い《タゲ》が飛んでしまったようだ。
また範囲攻撃か?
ノックバックから立ち直り剣を構えると、『ベルーガ』が曲刀を振り上げた。
どうやら魔法攻撃ではないようだ。
曲刀を黒い風が包み込む。
これは……斬撃による範囲攻撃の強化版か?
「『ガードインパクト!』」
俺はボスの攻撃に合わせて『ダッシュ』で一歩踏み込み、『ガードインパクト』を発動して剣を振り上げた。
俺の剣が『ベルーガ』の曲刀に触れた瞬間、今までにない力が手に掛かってくる。
そう、例えるならまるで巨大な鉄の塊でも殴りつけたような。
そして『ベルーガ』の曲刀はまるで何の抵抗もないかのように振り下ろされた。
俺はボスの振り下ろした斬撃に耐え切ることができずに地面に叩きつけられてその衝撃で再び身体が宙に跳ね上がる。
「かはっ!」
HPが一気に四分の一へと突入する。
しかしそれで終わりではなかった。
地面へと突き立てられた曲刀から衝撃波が発生し、地面を抉りながらこちらへと迫ってくるのが目に入った。
「「「『エクストラヒール!』」」」
3人のヒーラーたちから同時に回復魔法が飛んでくる。
HPは完全に回復したが、俺は未だバウンド中でとてもじゃないが迎撃なんてできない。
目前に迫る攻撃を防ぐ術は俺には、ない。
俺はあの攻撃に耐えられるのだろうか?
いや、どう考えても無理だ。
単体攻撃に比べ威力が低いとされている範囲攻撃ですらガードインパクトで減衰させてもあれだけのダメージを受けたんだ。
ならばボスのこの強力な単体攻撃が直撃したら……多分俺のキャラクターは耐えられないだろう。
ここまで……なのか。
「『ダイアウルフを生贄に捧げる!代償魔法サクリファイスッ!!』」
目の前に狼の幻影が立ち塞がり、遠吠えをあげた。これは一体……?
するとボスの放った衝撃波は俺の身体へ到達することなく、狼の幻影に当って消えていった。
もしかして、助かった……のか?
「一体の召喚モンスターを犠牲にして一度だけ対象者を守る代償魔法だ。言っただろう?お前は俺たちが守るって」
この声はまさか……。
「師匠!?」
振り返ると師匠が俺の後ろで杖を振り上げていた。
「ほら。姫がまだ戦っている。仕上げて来い!」
「はい!」
ボスは既に姫の『挑発』によって後ろを向いていた。アタッカーたちの攻撃を受けてHPも残り僅かだ。
さっきのお返しだ。俺の中の最高威力のスキルで応えてやろう。
武器をまだ耐久力の削れていない予備の武器へと持ち替え、ボスとの距離を取る。
「てめぇの背中も見飽きたぜ!」
ボスまで一直線に『ダッシュ』を発動させて駆け出す。
「これで終わりだ!」
『ダッシュ』の勢いに乗ったまま飛び上がり、『ターンステップ』の回転力を利用して剣を大きく振りかぶる。
「一刀両断ッ!『アースリッパァァアアアアアアッッ!!!』」
両手剣のアクティブスキル『アースリッパー』は、一刀の下敵を袈裟懸けに切り裂く高威力単体攻撃スキルだ。もちろん再利用時間は設定されているし、フィニッシュブローに分類されるため技後硬直も発生する。
空中を舞う俺の身体が『アースリッパー』のシステムアシストを受けてさらに加速する。
「斬り裂けええええええええええ!!!!」
クレイモアがボスの首下へと食い込み、そのまま抵抗なく身体を切り裂いたと思うと、深く地面へと突き刺さり、大地を抉って星に深い傷跡を残した。まるで大地に出来た巨大なクレバスのようだ。これこそが『星を引き裂く刃』の名を冠する所以だろう。
両手剣によって真っ二つに引き裂かれた『ベルーガ』は、残りわずかだったHPゲージを消滅させ、光の柱となって身体がバラバラに崩れ去っていくようにこの世界から消えていった。
《レイドモンスターリザードマンジェネラル『ベルーガ』の討伐に成功した》
《忍はリザードマンジェネラル『ベルーガ』からユニークアイテム『断鎧のシャムシール』を手に入れた》
《忍はリザードマンジェネラル『ベルーガ』からユニークアイテム『リザードベルーガの皮』を手に入れた》
《忍はリザードマンジェネラル『ベルーガ』からユニークアイテム『海賊の眼帯』を手に入れた》
《忍はリザードマンジェネラル『ベルーガ』からレアアイテム『生命のネックレス』を手に入れた》
《忍はリザードマンジェネラル『ベルーガ』から魔法スクロール『ハイドロエクスプロージョン』を手に入れた》
《忍はリザードマンジェネラル『ベルーガ』から198,373Gを手に入れた》
《リザードマンジェネラル『ベルーガ』討伐に参加したメンバー全員に貢献度100ポイントが与えられます》
《リザードマンジェネラル『ベルーガ』討伐に参加したメンバー全員に『リザードマン討伐隊』の称号が与えられます》
《リザードマンジェネラル『ベルーガ』討伐のMVP『忍』には貢献度500ポイントが与えられます》
システムログにボスのドロップ情報などが流れ続ける。
このログはパーティーを組んでいる他のメンバー全員にも流れるようになっていて、こっそりドロップアイテムを着服するなどといった行為は基本的にできないようになっている。
とは言え、パーティー全員がグルだったり、バレていることを承知の上で持ち逃げする人も中にはいるらしい。
それにしてもすごい数のドロップだ。
ユニークアイテムは一品物。レアアイテムは稀少品といったところだろう。
今までネットゲームでレアアイテムを手にしたことなんて一度もない。
手の震えが全然止まらない……。
これがボス狩りってやつなのか……。何から何まで凄すぎて言葉も出ない……。
俺が感動に打ち震えながらアイテム欄を覗いていると、姫が満面の笑みで歩いてくる。
あぁ、昔は何の役にも立てなかったけど、ここに来てようやくみんなの役に立てたのか。
長い間ネットゲームをやってきて、いや、今まで生きてきてこんなにも充実感に包まれたのは生まれて初めてだ。
ははっ!もしかしなくても褒めてもらえたりなんかしちゃったりして!
俺も姫に笑顔を向けた…………が。
「この!馬鹿!」




