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二人のゲーム談義?

 その言葉から2か月。

 あの時買ったゲームはフルコンプしたけれど、私は相変わらず、この部屋のパソコンを占領している。

「さすがに……目が疲れたー……」

 椅子の上に胡坐をかいて、画面の向こうで微笑んでいる大本命だった年上の先輩ツンデレを攻略したところで、天井を見上げ、ため息。

 とりあえず目が疲れた、肩が痛い、喉が渇いた、微妙に眠い、おなかすいた。人として麻痺していた部分が正常な感覚を取り戻し、私へ一気に襲い掛かってくる。

 パソコンの時計を確認すると、午後9時を過ぎたあたりだった。えぇっと、私が授業終わってこの家に上がりこんだのが夕方だったから……えっと……時の流れって早いなぁ。

 と、この部屋の住人である新谷氏が、苦笑で私に缶ジュースを差し出す。ありがたく頂戴して一口。微炭酸が口の中に広がり、とりあえず眠気が吹っ飛んだ。

 ベッドの上に腰をおろして同じジュースを飲んでいる彼も、目元を抑えてあくびをかみ殺している様子。

この数時間、同じ室内にいたのだが……特に盛り上がった会話はない。私はイヤホンを使って自分の世界を楽しんでいたし、彼は彼で、シリーズものを一気に読破するために集中していたし。

 趣味に没頭することを目的にした会合なので何の問題もない。ただお互い、相手に無頓着すぎるのかも。

 こんな二人の数時間ぶりの会話は、相変わらず無駄に爽やかな彼の言葉から。

「お疲れさん。今回のは大分一気に進めてるみたいだけど……そんなに面白いのか?」

「んー……まぁ、内容としてはありきたりなんだけど、やっぱりツンデレはブームになってるだけのことはあるわね。ベタだけどギャップに胸キュンよ。キャラ同士の会話にテンポがあって飽きないし、声優さんもメジャーな人が名前変えて出演してるから、変な違和感もないし」

「そりゃよかった。大樹にも伝えておくよ」

 ちなみに大樹とは、彼の友人で……私という存在に興味を示し、ゲームを横流ししてくれる貴重な存在である。

 私はまだ会ったことないんだけど(専門学生で忙しいらしいみたい)、きっと会ったら何時間でも話が出来るんじゃないかな。

 私がプレイしているゲームは毎回、彼を仲介にして借りてきてもらった一品である。しかもほとんどがメーカー通販特典付の初回限定版。特典の小冊子などを読むのも楽しみの一つに増えて、嬉しい誤算だ。

「新谷氏、全部読んだの?」

 私が渡した小説を、彼はテーブルの上に積み重ねている。読書中の本は枕の横に積み重ねるのが癖らしく、この位置にある小説は「違うものと取りかえてほしい」という彼の意志を示しているのだ。読むのが早いのはお互い様。今日は奮発して5冊(とあるシリーズ全巻・外伝は除く)を渡したんだけど……もう全部読むなんて、侮りがたし。

 ちなみにこれらのBL小説は、私も自分の人脈を使って調達している本である。今日は普通の文庫本だが、新書サイズから同人誌まで幅広くレンタルOK。でも、「最近は花嫁がブームなのよ!」と、目をキラキラ輝かせながら言われても……私はどう言葉を返せばいいのやら。とりあえず驚いたけど。

 椅子の上から表紙を見つめ、やっぱり理解できない世界だなぁと、この扉を開くことがあっても、それはまだまだ遠い未来のことだろうと、しみじみ感じてしまうのである。

「……ねぇ、新谷氏?」

 私はいつの間にか、彼のことをそう呼んでいた。ちなみに彼が私を名字で呼び捨てなのは、私がそうしてくれと言ったからである。

「BLの魅力って、何?」

「いきなりだな。それに……そういうことは、いつも沢城に本を貸してくれる人に聞いた方がいいんじゃないか?」

「いや、新谷氏がどうしてBLを読んでるのかな、って。前から素直に気になってたから」

 新谷氏は、何と言うか、BLに性的興奮を求めているわけでもないだろう。その辺は私と同じで――私がギャルゲーの攻略対象ヒロインに欲情せず、突っ込みながら物語を進めるのと同じで、ある程度第三者的な立場から楽しんでいるような、そんな気が、するから。

 私の言葉に、彼は少し考え込んでから、

「綺麗な世界に憧れてるのかもな」

一言、端的にこう言った。

「……は?」

綺麗な、世界?

 真意を理解できずに思わず聞き返した。彼はBLに何を求めているんだろう。まさか、本当に男性が好きで、でも、それを表に出せないから物語の中に自分の理想を探し求めている!? リアルではあんまりそういう世界って受け入れられない傾向が強いから!?

「し、新谷氏……そんなにスーツの上司に責められたいの!?」

「そういうシチュエーションを端から見るのは別に構わないけど、自分が当事者にはなりたくないかな……」

見るのはいいのか!? 気持ちは分かるけど本当にいいのか!?

思わず椅子の上からずり落ちそうになった。私の中では混乱が別の混沌を生みつつ、とりあえず、彼の続きに耳を傾けることに。

「例えば、普通のコミックだと……最初はヒロインのライバルとして出てきたキャラがヒロインを差し置いて主人公とくっついたとしても、最終的には丸く収めようとするだろ?」

「まぁ、基本的には、ねぇ……そういう修羅場を売りにしてるゲームも最近は多いけど」

「ただ実際、男女の関係って奇麗事ばっかりじゃない。だけど、最終回の後日談に不幸な話が描かれることもないし……まぁ、そんなのファンは望んでないんだろうけどさ」

 確かに、本編の一ルートならまだしも……ファンディスクが「特定ルート終了後、残されたヒロイン同士のドロドロした関係をお見せします!」みたいな内容だと……引くな、うん。

「作者は基本的にハッピーエンドやノーマルをフォローしてくれるんだ。だけど、その漫画にだって描かれなかったエピソードがある。その一部がBLだって可能性もあるだろう? だけど、作者はそこまでフォロー出来ないから……公式では扱えないキャラ同士の関係を自分の好きなように空想できることも、魅力の一つであるように思うんだ」

「それが、新谷氏にとっての綺麗な世界なの?」

「俺が自由に想像……いや、妄想出来る、綺麗な世界ってことかな」

「なるほど……まぁ、妄想は心の栄養だからね」

 ……思わず納得してしまった。それは多分、私も彼と同じ世界で楽しんでいるから。

 その渦が大きくなって、みんなが好きな世界を好き勝手に空想して、集合して、BLという一つのジャンルを確立したのだろうか。ある意味では読者が生み出した新境地である。そう考えると凄いかも。

 椅子の上で頷く私に、新谷氏は「まぁ、あくまでも俺の価値観だけど」と付け加える。

 こういう人物だから、一緒にいて互いに窮屈じゃないんだろう。

「いいじゃない。あたしはそういう新谷氏、好きだよ」

 納得したので自分の正直な感想を告げて、私は椅子からおりて立ち上がった。

「うー……でも、こんな生活続けてたら、肩がこるなぁ……」

 そのまま腕を伸ばして思いっきり背伸び。そんな私を新谷氏は無言で見つめている。

「ん? どうかした?」

「あ、いや……何でもない。何か食べるか?」

 私の質問から逃げるように冷蔵庫へ向かう新谷氏に少し疑問を抱きつつ……私はもう少し、柔軟体操を続けるのである。


 とりあえず、この奇妙な関係はもうしばらく現状維持に違いないのだけど。

 お互い、没頭できる趣味があることは……きっと、前向きにとらえれば素晴らしいことに違いないから。

 新谷氏買い置きのレトルトカレーを御馳走になりながら、彼が読んでいた小説をパラパラとめくってみて……私がこの新しい世界に目覚めるのは大分遠い未来になるだろうと改めて実感したのだった。

BLって、美しい世界だと思っています。

新谷氏は見たくもないものを見てきたので、反動が激しかったんですね……嫌いじゃないわ! そう言ってあげてください。

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