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彼と彼女の絶妙な出会い

 私と彼の出会いはあまりにも特殊であり、それ故非常に勝手ながら「縁」を感じてしまうのだが……詳細を語り始めると自分が虚しくなるし、一部からはネタにしかされないので、あまり人前で口に出そうとは思わないし、脚色をするしかないのが現状。

 ただ、ある程度は暴露しておかないと物語が進まないので……今回は恥を忍んで、花の女子大生であることを忘れて腐女子になろうと思う。


 ただし、私の場合は、ベクトルの向きが少し違う「腐女子」だと思っているのだが。


 彼――新谷薫との出会いは、もう2ヶ月ほど前だろうか。大学に入学した直後、とあるサークルの入会お試しコンパにて、たまたま隣に座って話したのがキッカケだった。

 新入生だけで20名参加、あくまでも入会を強制しない「お試しコンパ」なので、友達作りを目的に参加している人も多い。かくいう私もその一人だったのだが……お互い新入生であること、私も人と話すのは嫌いじゃないこと、彼は外見と人当たりに関しては、少なくともその場の誰が見てもパーフェクトであることなどの要素もあり、当時は互いの趣味嗜好など知る由もないから、当たり障りのない一般的な話題で近くの席にいた数人と一緒にワイワイガヤガヤと……「大学生っぽく」盛り上がったのだ。それに、女性陣から一番熱い眼差しを向けられていたのも彼だったし……私も正直、いい人だなぁ、と、珍しい感情を抱いたことは事実。だから余計、印象に残っていたのかもしれない。

 ただ、学部が違えばサークル活動でもしない限り接点はない。私の場合、結局サークルには所属せず、バイト学生の道を選んだ。理由は勿論、自由に使えるお金を稼ぎたいからである。年齢的にも無事解禁になったことだし……何に使うかは乙女の秘密ってことで。

 そんな大学生活を送りながら、2度目の遭遇はこれまた偶然、ある授業だった。全学部の1年生がカリキュラムの都合さえつけばまんべんなく受講しているであろう一般教養。

 定員100名弱、学内では中型の講義室。長方形の室内は階段状で後方からもホワイトボードが見えるようになっていて、机が横3列、縦9列に並んでいる。机一つにつき横並び3人掛けなので、親しい友人と一緒に受講しない場合は、大抵が真ん中の席をはさんで両端に座るのがほとんどなのだが、私もその例にもれず、丁度窓側、教室後方の空いていた机に鞄をおいて――気付いた。

席から椅子を一つはさんだ向こう側に、眼鏡をかけて文庫本を読んでいた彼がいたのだ。

前と同じノンフレームの眼鏡に黒いブラウス、下の方までは見えないけど……服装はかっちりしていてクールな印象だが、話しかけてからの雰囲気は相変わらず柔らかい。

 私が偶然その場に座ったその瞬間、周囲から何となく視線を感じるけど、まぁ、どうせこれも単なる偶然。次回からはまたそれぞれ何となく座るだろうし。

 彼がちらりと視線を上げて、私の存在に気がつく。間違いない、あの時の彼だ。

「あ、えっと、この間は……」

 思わず呟いた私に、彼が「この間はお疲れ様」と爽やかに返してくれたのだ。たったあれだけの縁だったにも関わらず、(恐らく)忘れられていなかったことに驚いてしまう。

「文庫、何読んでるの?」

「え? あー……図書館で借りたんだよ。暇つぶしに丁度いいかなって」

 私が興味本位で覗き込んだ本をバタバタと片付けて、「そういえば」と場を仕切りなおす。

「沢城さん、法学部だっけ」

「へ? あ、うん、そうだけど……」

 唐突に名前を呼ばれたことに驚いてしまった。困った、確かにそういう場だったから学部と名前は互いに名乗ったけれど……こっちはそんな彼の情報を脳内から検索出来ないまま話しかけてしまったのに。

 あぁもう! 原画家さんの名前なら忘れないのに! 思い出すんだ沢城都、間違いなく名前も聞いたし印象に残ったはずだ、珍しく年相応にはしゃいだあの日のことを思い出すんだ!

 そして、

「し……新谷君は文学部だっけ? そうだ、結局どこかのサークルには入ったの?」

「いいや。バイト始めたらそっちの方が面白くなっちゃってさ」

 よし間違ってない! よくやった私の記憶力!

何とか愛想笑いも形になった(はず)。もしかしたら少し引きつっていたかもしれないが。

そんな私の心中を察して……いられたら少し困るけど、至近距離で改めて見る新谷君は、どこぞのメジャーな雑誌で読者モデルでもやってるんじゃないかと思うほど、整っていた。色々と。

多分、私が普通の女子大生の感性のみで構成されていたのだとすれば、このまま彼とお近づきになるために話を盛り上げようと努力した、かもしれない。

ただ、今の私を構成するのは……残念ながら、三次元よりも二次元だったのだ。

「新谷君もバイトしてるんだ。どこで?」

「大学近くのファミレス、分かる?」

「あぁうん知ってる。バイトの制服がPiaキャロみたいなところでしょ?」

「ぴあ……?」

 はっ!? ついうっかり本音が出てしまった!?

ちなみに「Piaキャロ」とは、制服の可愛いファミリーレストランを舞台にこれまた可愛い女の子達と親交を深めていく男性向けのゲーム。最近その女の子の数が多くてCGとフラグの回収が大変なんだけど……それはさておき。

怪訝そうな表情でコチラを見つめる彼に、

「あ、えっと……私の実家の近くに、そういう名前で制服の可愛いファミレスがあったの」

 もしかしたらチェーン店かもねー……などとゲームの話を参考に何とか乗り切った、つもり。彼もそれ以上突っ込まなかったからいいことにしよう!

 と、講義開始を告げるチャイムが響く。時間ぴったりに入ってきた教授を合図に、私たちはそれぞれ体を前方に向けたのだった。


そして。


「……新谷、君?」


 講義終了から1時間後。条件反射で名前を呼んでしまった瞬間に激しく後悔する。だが遅い。

 それが、3度目の逢瀬。ライトノベル……の、隣、耽美小説の棚を見つめながら躊躇っている彼と、男性向けゲームや関連雑誌を両手に抱えた私が鉢合わせしたのだった。


 その店は、大学からバスや私鉄を使って数十分、駅や商業施設が密集したターミナルビルの中にある。

 コミックやCDの品揃えは勿論、購買物によってはオリジナルの特典がもらえたり、透明のブックカバーがついてきたり、ポイントに応じたサービスもあるので……ついついここまで足を運んでしまうのだ。だから今日も、本当は大学近くの書店でも買えたのに、ついつい。欲しい雑誌を買うとポストカードがセットでもらえるってことだったから、ついつい。

 それに……普通の書店で買うよりも、ここの方がレジに持っていきやすいし。

 そう、多分それは、彼にとっても同じだったのだろう。

 だからこそ、私たちはこの店内で再会してしまったのだ。

 ただ、その時の気まずさといったら、言葉で表現するのが難しい。私的には、日本の総理大臣と中国の国家主席が靖国神社で鉢合わせするくらいの気まずさだと勝手に思っているけど。

 ……とにかく、鉢合わせしたものはしょうがない。彼がなぜこの棚の前で立ち尽くしていたのかは分からないが、私だって両手に持っている本は、表紙が水着美少女・裏表紙が明らかなエロゲの広告――隠しようがないほど男性向けだ。それらをさりげなーく自分の背中で隠しつつ、

「……お節介かもしれないけど……何か欲しい本、あるの?」

「え?」

それはあくまでも、私が持っている本へ彼の注意を向けないために発した言葉であり、

「いや、さっきから躊躇してるみたいに見えたから。確かにそういう本、男なら買いにくいだろうし……あ、興味があるんだったら代わりに買ってこようか?」

 彼が見つめていたのは明らかに女性向けな書籍ばかりが並んでいる。今、男性向けの雑誌を持っている私だからこそ、その心境は分かる! お願いだから分かった気にさせて! そして私をレジへ行かせて!

「でも、沢城さん……」

「私、カウンターに取り置きもしてもらってるし。それに、今ならレジも女の人だから……さすがに男の人がレジだったら躊躇するけど、比較的この店って可愛い女の子がレジなのよね。だから、新谷君はもっと買いづらいんじゃないかな、って」

 私はもう、この店の中でなら、何も気にしないから。

「いらないなら私のお節介だけど、何か欲しくて棚を眺めてたんじゃないかなーって、思ったから。この時点で私たちってば立派な同類なんだからさ、遠慮なんかしなくてもいいよ」

 私の言葉に、彼は「それは、確かに……」と、苦笑いで納得し、

「じゃあ、悪いけど頼んでいいか? あ、勿論後からちゃんと……」

「分かってるって。ほい、どれですかー?」

 商談成立。とりあえず手近にあった店内用のカゴに自分の欲しい商品をそそくさと突っ込んだ私は、彼が手に取った本数冊の表紙を見つめ――


 表紙から漂うあまりにも美しい世界に、絶句したのである。

こんな出会いをした方がいらっしゃれば、是非是非教えてください。

ちなみに、私もエロゲ雑誌買うのに(場所を選べれば)躊躇しないぜ!(威張るな)

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