私は落ちこぼれの魔法使いでいい
「攻撃魔法を発動されたら?」
「に、逃げる」
「いや、守備魔法を使おうよ? 逃げる魔法なんてあったっけ?」
「無いよ?」
「堂々と言われると困るな」
僕はため息を吐き、額に手を当てる。
隣に座る『落ちこぼれ魔法使い』、ティサは恥ずかしそうに頭をかく。
2人きりの教室。
今は、僕のいた元の世界で言うと放課後。
夏休みが近いというのに、この相方は大丈夫なんだろうか?
赤点をとらないで異世界で修行できるのかな?
異世界と言っても、僕のいた世界なんだけど。日本があり、スマホやvtuberも存在する。
異世界人の僕としては、vtuberに触れたくて仕方ないんだけど。
この世界にはないし、ネットすら。
ティサとコンビを組んでいるから、この子が異世界修行できないと僕もできないことになる。
vtuber…。
に×さんじ、あおぎ×高校。
異世界から悪い魔法使いの乱発召喚で運悪く召喚されてしまった僕だけど、そんな僕よりも、この純粋な魔法使いの少女が出来ないのは、正直疑問だ。
「ところでさー」
鉛筆を机の上でコロコロ転がしながら、ティサは言ってくる。
「どうしたの? 休憩する?」
「いや。
小さい頃から疑問だったんだけど、この鳴く虫って何?」
ティサは窓に顔を向ける。
僕も、つられて向ける。
夏だから、セミが合唱をしている。
「セミだよ」
「セミ? 皆はうるさい虫としか言わないよ?」
「異世界、僕のいた世界だね、そこから持ってきたか、召喚したんじゃないかな」
「鉛筆みたいに?」
「そ。その転がしてる鉛筆みたいに。
本当、この世界って色々な異世界のものが混ざってるから面白いよね」
僕は微笑む。
「なんか暑いときしか鳴かないけど、理由あるの?」
「セミはすぐに死ぬんだよね」
「すぐにっ!?」
「夏が終わると死ぬよ、今鳴いてるセミはね」
「マジか」
寂しそうにするティサ。
ティサは、落ちこぼれだ。
けど、『ある魔法』を使うことができる。
それは、この世界に初めからいる純粋な魔法使いにも、僕みたいに召喚され途中から魔法使いになった人にも使えない。ティサと、その親族にしか使えない。
そして、それは秘密。
この魔法学校でも、ティサと僕しか知らない。
けど、その魔法は『禁忌』とされている。
人に使うとこの世界が壊れてしまう。人じゃなくてもバランスが崩れてしまうだろう。
その『禁忌』を使ったことが知られると、殺されてしまうらしい。
かけた人も、かけられたものも。
ティサは息を吐き、微笑み、
「悲しいけど、まあ、死んだら生き返らないのが普通だからね」
「…そうだね」
『死んだものを生き返らせることができる』魔法使いは「ははは」と笑う。
内心、ホッとする。
ティサが殺されてしまうと、すごく悲しいから。
異世界修行、もしかしたら僕の故郷の日本に行くかもしれない。
日本も夏かもしれない。
セミが合唱しているだろう。
どうか、この少女が思想を異世界でも変えませんように。
てか、行けるのかな?
vtuber…。




