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扉の奥で

作者: 石井桃太郎

「夏は暑くて眠れないな」

僕は自分の部屋を出て、トイレに向かった。


「ゆうちゃん。こんな時間に何してるの?」

僕は祖母に声をかけられたので振り向いた。

「ばあちゃん。暑くて眠れないだけだよ」

「そうかい。夜は危険だから、気をつけるんだよ」

「何言ってるの?家なんだから、めったに危険なことないよ」

「そうかい、そうかい。じゃあ、おやすみ」

「はーい、おやすみ」

そう言うと、祖母は部屋に戻った。


「ばあちゃん、こんな時間に何をしてたんだろう?」

僕はそんなことを考えながら用を足した。

トイレから出ると、ガサガサッと変な音が聞こえてきた。

僕はびくっとした。あたりを見渡すと、草むらに何か気配を感じた。



「おい、誰だ!?」

そう言うと、ガサガサガサッと音を鳴らし、ものすごい勢いで動いた。

「にゃあああ」

「なんだ、野良猫か」

僕は安心した。まあ、こんな田舎じゃ何も事件なんて起きないんだけど。


「にゃあ」

猫はかなり興奮していて、家に上がりこんできた。

「なんだ。この猫、しっし」

猫が家にあがると、一目散に祖母の部屋へ向かった。

「おい、待て。勝手に入るな」

僕は祖母の部屋の襖を空けて中に入った。猫は部屋の中で走り回っていた。

「あっち行けよ」

僕は猫を必死で追い払った。しばらくすると、猫は家を出て外に行ってしまった。



「ふう、なんて行儀の悪い猫なんだ。ごめん、ばあちゃん、うるさくしちゃって・・・」

僕は祖母に謝ったが、肝心の祖母がいない。

「あれっ、ばあちゃん、どこ?」

まわりを見渡したが、祖母の姿が見当たらない。

「さっき、部屋に戻っていったはずなのに。んっ、襖が1枚外れてるじゃん」

僕は部屋の襖が1枚外れていることに気づいた。

「言えば、戻すのに」僕はそう思いながら、襖を戻そうとした。


「あれっ、壁に変なくぼみがある」

襖を戻すときに、僕は扉の取っ手のようなくぼみを発見した。

「何だこれは?」

僕はくぼみを見た。よーく見ると、釘が入るくらいの小さな穴が2つ開いていた。

それにその奥から、冷たい風が吹いているような気がした。


まさかとは思ったが、僕はたまたま持っていたボールペンを穴に指した。

まず、押してみた。ビクともしない。では、逆に引いてみた。

すると扉がギギギギギーと音を立てながら、ゆっくりと開いた。



「こんな扉があったなんて」

僕はものすごく驚いた。生まれてから15年近く住んでいる家なのに、こんな隠し扉を知らない。

しかも、階段になっていて、奥に続いているようだった。


僕は非常にワクワクした。

他の家族のみんなにも伝えたいところだが、今日は父と母と姉が親戚と旅行に行ってていない。

僕も行こうと思ったが、一応受験生であり、塾の夏季講習があるので旅行を控えた。

だから、祖母と2人で留守番をすることになっている。

仕方ない。僕は懐中電灯をたよりに、一人で奥へ行くことにした。


「すげー、涼しく感じるな」

僕は階段をゆっくり降りた。まるで洞窟のような感じでひんやりしていた。

ブツブツブツ。なんか奥から声が聞こえてくる。

僕は息をひそめて、そっと近づいた。



「じいさん、元気かい?」

祖母が誰かに語りかけていた。

「今日は、裕也と2人で留守番だーよ」

そこには、ガイコツがあった。


僕は口を手で塞いだ。どうやら、死んだ祖父のガイコツのようだ。

祖父はどこかに行ってしまって戻ってこないと聞いていたが、こんなことがあるなんて。


「じいさんや。私もそろそろ天国が近い。そうなったら、真実を話さないとな。いつまでも、ズルはできん」

んっ、何のことだ?僕は注意深く聞いた。

「もう亡くなって、20年。ずっと年金をもらいっぱなしだからのお」

そっか、まだ生きてることになってるから、年金をもらえてるのか。


「この家も、もうすぐ取り壊すらしい。そしたら、時間の問題かもしれん。じいさん、どうするかい?」

「そうだな。真実をつげて、ここで一緒になろうか」

「なんだ?じいさんが生き返った」

祖母はいきなり声が聞こえてきたので、あたふたしていた。


「いや、神様から許しを得て、ばあさんの心に話しかけてるんだ」

「そうかい。でも、今さら家族にも言えん」

「仕方ない。ずっと隠し続けるのは無理だ。必ず伝えるんだ」

「そんなの無理じゃ」

「今からでも遅くない。お金は仕方ないが、息子たちに返してもらおう」

祖母は、しばらく黙った。


「きっと、悲しむはずじゃ。こんなズルしてること知ったら?」

「大丈夫だ。うちの家族なら分かってくれるはずだ」

「じいさん」

祖母は下を向いて、涙を流していた。


「ばあさん。言うのが無理なら、遺言を残すのじゃ。それなら、大丈夫だろう?」

「そうだわね。もうお金は使わんようにする」

「それでいいんだ、ばあさん」

「じいさん・・・」

「そろそろ時間だ。もう帰らねばならん」

「待って、じいさん」

「なんだ?」

「天国に行っても、一緒になってくれるか?」

「ああ、当たり前だ。俺の生涯で一番愛した女だぞ」

「ありがとう」

祖母は涙を流していた。



数日後、祖母は眠るように亡くなった。老衰だった。

遺言が残されていて、家族全員が驚いた。


20年前に突然の心臓発作か何かで、祖父が死んでいたらしい。

ただ、祖母は信じることができず、この洞窟に運んで生き返らそうとした。

別に生きていることにして、年金を不正に受給するつもりはなかった。

しかし、結果的にお金を使ったので、詐欺に当たる。

家族には悪いがちゃんと返してほしいといったことも綴られていた。


20年も隠していたなんて、ばあちゃん辛かったね。

でも、もう大丈夫だよ、安心して。

お金はちゃんと家族で返すから。僕は家族でも、こんな隠し事があることを知った。

年金不正受給事件を題材にしました。

もしかしたら、こんなこともあるかもしれないですよね。

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― 新着の感想 ―
[一言] タイムリーなネタだなと思ったら、実際一連の事件を題材として書かれたものなのですね。 次々と行方不明の方が見つかって、長寿大国も怪しくなってきているこの頃ですが、文中のような、死を認めたくない…
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