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第8話 旅の始まり

 夜の森が次第に白々とした朝露に染まり始めていた。木々の間から淡い光が差し込み、冷たい空気が一層冴えわたる。


 早朝の静寂に包まれた森は夜の緊張感を残しながらも、次第に雰囲気を和らげていく。吐く息は白くなり、一同はその冷気を肌で感じていた。


 シロウとレッドは見張りを交代しながら仮眠をとり、早朝のひんやりとした風が体を震わせながら一同を睡眠から覚めさせた。


 焚火の残り火は、微かな温もりを保ちながら燃え尽きようとしている。一同は体をほぐし、冷たい空気を胸いっぱいに吸い込んで、頭をすっきりさせた。


 シロウとレッドはそれぞれ戦利品を詰め込む。膨れ上がった大容量のリュックを手に取り、バイクの後部座席の位置に慎重に積み上げていた。


 リュックの中身は銃や弾薬、装備、食料、外付けにガソリンで満たしたポリタンクなどを、バイクのリアフェンダーから生えるように細く伸びたシーシーバーに、ロープでしっかりと括り付けて固定している。


「積載量が多いから、雑貨品は必要最低限以外は置いて行こう」


 シロウがレッドに促すと、アメリカンバイクに載せる荷物を各々選別する。荷物の重みが旅の成果を物語っていた。


 シロウは傷んで汚れているロングコートの裾を捲ると、大男の亡骸に残された鞘付きのマチェットを革ベルトに備え付ける。不気味な輝きを放つ得物は刃こぼれなどは一切ない。


 装備の準備を終えて、再び整理した荷物をバイクに積み込み始める。


 しかし、バイク後部座席にナナを乗せるため、レッドのバイクに少し多めに荷物を積んでもらう必要があった。


「悪いが、少しこっちの荷物も頼む」


 シロウは軽く肩を竦めて申し訳なさそうに頼んだ。


「もちろんよ」


 心置きなく了承したレッドは、力強い手で戦利品が詰まった袋を、もう一つ自身のバイクに積み込んだ。


 シロウはナナに視線を向けると「こっちだ」と声をかけて乗るように促す。ナナは少し不安そうな顔色をしていたが、腕を借りることでゆっくりとバイク後部座席に跨った。


 シロウは自慢のアメリカンバイクに触れる。剥き出しになっているV字型のツインエンジンは土汚れなどで本来のメタリックな輝きを失っていたが、幾度も使い込んだ頼もしい旅の相棒だ。自身もバイクに跨ると、しっかりとハンドルを握り締める。


 足元のキックペダルに視線を落とし、ゆっくりと腰を落ち着けた。


「行くぞ」


 低く呟く。跨ったまま一度右足をキックペダルに乗せると、体重をかけて力強く踏み込む。半月を描くようにキックペダルは重く沈み込み、エンジンが唸りを上げる。


 “ヴゥルン……ヴルルルン……!”まるで地を這うような轟轟しい響き。次第にエンジンが滑らかに動き出す。重く深い不規則なリズムを刻み、バイクの鼓動を揺らした。


 シロウは次第に力強くなるエンジンの重低音を心地よく感じた。


 アメリカンバイクが荒野の静寂を打ち破る振動と暖かみが体に伝わり、寒さが少し和らぐような気がする。


 白々と肌を刺すような冷たい風が吹く中、早朝の風に揺れる木漏れ日の森で、二台のバイクは戦利品と少女、そして希望を積み込んで荒野へと走り出した。

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