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第4話 鉄鎖

 朧月の光が少女の白銀の髪を淡く照らし、まるで幻影のように際立たせていた。シルクのように滑らかな長髪は、荒廃した世界で清潔を維持するのは難しい。所々に絡まり合い、毛先からは仄かに焦げ跡が窺える。


 手首には重たい鎖が巻きつけられており、無機質な鉄鎖が少女の自由を奪っていた。


 肌は透き通るように白く、暗夜の中で月光を浴びて開花する白い花のようだ。青ざめた顔には不安で揺れる瞳を大きく見開き、双眸は澄んだ氷と炎が左右異なる光を帯びている。怯えながらも、どこか底に秘めた意思を宿しているように思えた。


 銀髪が風に吹かれ、鎖が鈍い音を立てて揺れる。少女はわざとらしい男の足音に気が付くと、緊張で顔を上げた。恐怖の中に僅かな希望の色が浮かぶ。


 その視界には影のように伸びた、ロングコートを羽織る一人の男が立っていた。


 朽葉色の髪から覗く瞳に敵意はない。しかし、好意的な光も瞳孔には宿っていなかった。


「助けて……ください」


 少女の口元からなんとか絞り出した声音は、非力に震えていた。その様子に男は頭を掻くと、熟考するように丁寧に質問する。


「お前は誰だ。どこぞのキャラバン隊の大商人の娘か? なるべく詳しく教えてくれ」


「どうしてここにいるのか。ここがどこなのか。自分が誰なのかもわかりません」


 涙で溢れそうな瞼を必死に少女は堪えながら、それでも男を真っ直ぐに見つめ返していた。


「お願い……助けて……」


 少女の声はほとんど囁きのように弱々しかった。


 淡く差し込む光の下で、手首の鎖を引いて痛みに顔を顰める。だが、それでも男から視線は離さなかった。少女の瞳には、絶望と同時に一縷の希望が宿っていたからだ。


「お願いです。助けてください。わたしは……どうすればいいのか。何を信じればいいのか。何もわからない……!」


 頬を伝う涙が、まるで瞳を輝かせているようだった。


 少女の言葉はただの懇願ではなく、心からの叫びだった。自身の状況を理解できず、無力感に押し潰されそうになっている。


 しかし、眼前に立つ男に対して縋るように助けを求めた。その瞳には希望の火が灯っているが、今にも消えてしまいそうなほどか弱い。


「どうか……助けて……!」


 男は少女の言葉を無言で聞いている。表情には困惑の色が浮かんでいた。記憶喪失、鎖に繋がれた少女、そして、荒れ果てた世界で、どう助ければいいのか、簡単ではないことを知っていた。


「……どうするべきか」


 眉間にしわを寄せて男は低く呟いた。


 男はふと、荒野でバイクを駆ける自身の姿を思い浮かべた。この世界では誰もが自分の力で生き抜かなければならない。それでも、この少女を放っておくわけにはいかない。非力な子供が、一人で生き抜く術を持たないことは明白だったからだ。


「わかった。助けてやるよ」


 ついに男は重い口を開いた。どこか気楽さを装っているように聞こえるが、言葉には確かな決意がある。


「街まで連れて行ってやる。そこなら安全だろう。その先は自分でどうにかするんだ」


 男はそう言いながら少女に向かって歩み寄り、手首に巻かれた鎖を凝視して観察した。鋭い視線で鞘からナイフを取り出すと、一瞬の躊躇もなく鎖を断ち切る。


 金属が弾ける音が割れ、鉄鎖が地面に落ちた瞬間、ついに少女は自由の身になった。


 驚きと安堵の混ざった表情で少女は男を見上げたが、男はその視線をあまり気にすることなく再びナイフを鞘に収めた。そして淡々とした口調で喋る。


「行くぞ。長い道のりだ。さっさと街に着いた方がいいだろう」


 男はゆっくりと歩み出す。少女は鎖に長時間繋がれ、赤黒くなった細い手首を擦りながら質問する。


「あの、お名前はなんて言うんですか? ……わたしは名乗れませんが、よければ……教えてください」


 男は足を止めずに歩き続けていた。しばらくの沈黙の後、視線を交えずに呟く。


「俺の名前はシロウ……ただのシロウだ」


 ロングコートが風に揺れ、闇夜に差し込む朧な光が、一層にその背中を際立たせていた。少女はその背中を見入る。男の名を心の中で何度も繰り返しながら、無言で着いて行った。

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