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第9話 砂漠を越えて

 広大な森林を二台のアメリカンバイクが、エンジン音を響かせながら走っていた。


 見渡す限り続く森林をひたすら駆け、アクセルを握る手に疲労を感じずにはいられない。


 独自の進化を遂げた醜く歪んだ植物や、空の青さを包み隠すほどの長さに成長を遂げた樹木が多く立ち並び、瞬く間に過ぎ去っていく。


 ナナは眼前に広がる光景が幻想的で、どこか不気味に感じた。道らしい道はほとんどなく、バイクから伝わる悪路が全身を突き抜ける。


 何時間走り続けたのか、ナナは憶えてはいない。シロウとレッドは疲れを感じさせない強い眼差しで前方を見据えていた。


「もうすぐ抜けるぞ」


 シロウの短い言葉にナナが反応したタイミングで、暗く囲むような木々から一同は通り過ぎていく。


 ──たちまち、強烈に射し込む青の曇り一つない燦々たる空は、早朝の肌寒さを吹き飛ばすほどの熱波で一同を襲った。


 太陽が頭上に昇り、容赦なく照りつける熱が荒れた地面を焦がす。


 遠くには陽炎が揺らいでいる。この世界の時間とともに、刻々と変わる気温の波を肌身で感じさせた。


 一帯は黄金の如く輝き、風に靡く砂漠が無情なまでに広がり、灼熱の光に砂粒がきらきらと反射して地平線の輪郭をぼやけて見せた。


 一同が通り過ぎたタイヤ痕が砂の上に刻まれ、砂埃が後輪の後を巻き上げる。衣服の裾が荒々しく吹かれ、走り続けるうちに時間の感覚が徐々に薄れていく。


 朝だったのがいつの間にか昼になり、やがて夕方の気配が訪れ始める。


 空は赤みに染まり、遠くの砂丘が柔らかい影に包まれていく。太陽はゆっくりと地平線に沈み、影は引き伸ばされて辺りの景色が次第に静寂と暗闇に成り代わる。


 砂丘を越えた先に崩れ去った建物が見え、亡霊のように廃墟が多く建ち並んでいた。


「今日はここで泊まろう!」


 前方を走るレッドが、シロウに廃墟を指しながら承諾を求めた。


 乾ききった砂が果てまで地表を覆い、白い砂は棘のような冷気を帯びて気流とともに砂塵が辺りを飄々と踊っている。一同の体力は限界を迎えていた。


 窓やドアが朽ち果てた空虚な剥き出しのコンクリート壁が、今は最低限の安全地帯に思えた。辺りの一番倒壊の恐れが低い建物内に、一同は乗っていたバイクごと乗り込む。


 入り口付近にアメリカンバイクを停め、積み込んだ荷物は荷降ろしせずに降りると、いつの間にか夜空は深い黒と星々の輝きが増していた。


 薄く波打つカーテンのようなオーロラが深い緑色に染め上げ、星明りが建物内に差し込むほどに天井は大きく吹き抜けになっている。


「いやー、走った走った」


 大きく体を伸ばすと、ドラグノフ狙撃銃のスリングベルトを携えたレッドは、慣れた動きで辺りを警戒しながらクリアリングしていく。


 遮蔽物などに注意を怠らず、いつでも自身の左レッグホルスターに収めた八連発マグナムのTRR8を抜き放てる状態にしていた。


 建物内の至る所を確認すると「クリア」無機質で手短にシロウに合図を送る。建物入り口の砂埃が出入りしている場所に構え、辺りを覗いていたシロウは警戒を解いた。


 アメリカンバイクの後部座席に、シロウは載せていた大容量リュックに括り付けた簡易シートを取り外すと、砂だらけの床に広げて焚火の準備を始める。


「疲れただろう。横になってな」


 シロウに促されるまま、ナナは用意されたシートの上に座ると、粗いコンクリートの壁に背中を預けて休息をとる。


 砂埃ばかりの床に散在する瓦礫や石の中から、シロウは使えそうな物を選び、簡易シート前に円形に並べて囲うと即席の焚火場を作った。


 レッドは森を抜ける前に採取していた枝木などを石の囲いの中央に並べる。細い枝を下に置き、太めの枝を上に重ねるように組み上げていく。


 その動作に迷いはない。長年の経験から自然と身についた手順だった。冷え込んできた空気に包まれる中で、焚火の明かりと温もりが一同は待ち遠しく感じる。


「火を入れるぞ」


 シロウは煙草用に所持している使い捨てのマッチ箱を取り出すと、一本を指の間に挟み、廃墟のコンクリート壁に擦る。


 粗く、硬いコンクリートの表面がマッチの先端に摩擦されて“シュッ”と乾いた音で、橙色に輝いて燃えていく。


 シロウはマッチの火を細い枝で集められた囲いに投じる。


 乾いた枝に火が落ちると、小さな炎がじわじわと広がり始め、やがて枝木が弾ける音を立てながら燃え上がった。


 焚火の明かりが、廃墟の無機質な壁や瓦礫に揺らめく影を映し出す。


 薄暗い建物内に温もりを感じさせ、揺らめく炎が顔を照らす。自然と一同の表情に笑みが浮かんでいた。


 疲れた顔色を柔らかく包み込むように光を浴びせ、焚火がぽかぽかと廃墟を暖かさで広げていく。体に蓄積された疲労も少しずつ溶けていくようだった。“パチパチ”と枝が爆ぜる音が心地よく響き、一同はしばしの安息をこの廃墟内で寛いだ。

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