第0話 賭けの勝敗
『彼らとの冒険をこの日記にしたためる。これはわたしが、わたし宛に送る記録です。どうか恐れないで。擦り切れたページを何度でも捲り直してください。あなたが、わたしとして存在するために。あなたの名前は──』
晴天の陽射しが影を拒むように降り注いでいた。
広大な砂漠が視界の全てを占めている。
熱せられた砂粒たちが靴底を焦がすように、体力と気力を一同から奪い去っていた。
「ねぇ、シロウ? あたしたちさ、もしかして遭難者リストに載っちゃうのかしら?」
赤髪の女性が乾燥した唇から、呆れたように愚痴を吐いた。
自身の深緑色のジャケットを頭から被り、猛暑を堪えている。豊満な胸の谷間が揺れると、汗とともにため息が零れ落ちた。
「……このまま手詰まりなら、そうなるかもしれねぇな。弾薬、燃料、おまけに水も不足してるんだ。順調に死神が近づいて来てるぜ」
黒いロングコートを羽織る男もまた、疲弊した面持ちで軽口を漏らす。口元に余裕はない。自身から伸びた影をじっと覗く瞳は疲れ果てていた。
「シロウさん、レッドさん、そんなに暗い話ばかりだと気持ちがさらに沈んじゃいますよ。何か別の話題に変えませんか?」
砂漠のど真ん中で腰かける二人を、サングラスをかけた少女が慰める。
細いフレームで縁取られたグレー越しの双眸には、赤と青の異なる光彩が煌めいており、今は困り顔でへたり込む両者を見つめていた。
二台のバイクに簡易的なケープを括り付け、薄っすらと伸びた日影が今は唯一の避難場所であった。一同は砂漠の海で途方に暮れている。
「元はと言えば、シロウ、あんたが装甲車の燃料タンクをぶっ飛ばしたのが、そもそもの始まりなのよ! 責任をしっかり取りなさい!」
「うるせぇ! 騒ぐと余計に暑く感じるだろ! ……最初は街で引き受けた簡単な依頼だったはずだろ? ならず者どもの掃討、ゴミ掃除のようなもんだ。それがまさか大規模な徒党を組んだ野党の集団だったなんて俺は知らなかったぜ」
「二人とも喧嘩しないでくださいよ。あんな大爆発の中で、生きてるだけでも運がよかったんですから」
少女が二人の間で宥める。その姿は日常で繰り返された様子だった。
「どうすんのよ。真っ直ぐ街に帰るにも燃料が足りないわ。弾薬も残り僅か、連中のせいで大赤字よ」
レッドは散乱した周囲の瓦礫や鉄屑を恨めしそうに睨む。ならず者たちの成れの果ては、砂丘に埋もれるように転がっていた。
「装甲車の残骸に残ってた発煙筒でも使って、救難信号でも送ってみるか?」
シロウは燃え滓のように真っ黒な鉄塊を指差すと、ロングコートの懐から筒状の品を取り出す。打ち上げ式の発煙筒は奇跡的に無傷で、爆散した車両から飛び出していた。
「本当に僅かな望みね……それに、こんなにだだっ広い砂漠の片隅で、組合の冒険者が来てくれるかしら?」
「賭けてみるか? 発煙筒におびき寄せられたご来客様が、冒険者か、ならず者かでな」
「ふん、いいわね。受けて立つわよ。“ならず者”にあたしの真水の詰まった革袋水筒を賭けるわ」
「それならこっちは“冒険者”だな。俺も同じく真水で勝負だ。俺が勝ったらお前の目の前で飲み干してやるぜ」
「相変わらず良い性格ね。あたしに金を借りてるのに度胸だけは立派だわ」
「俺は賭け事で私情を挟まない主義なんだ。恨みっこなしだ」
両者は不敵な笑みを浮かべると、同時に立ち上がった。少女は耳に手を当てると、騒音に備えて距離を空ける。
その顔にはもはや止めることを放棄した面持ちで、苦笑いを浮かべていた。
そして、シロウは発煙筒に備わった紐を勢いよく引き抜く。
瞬く間に頭上には真っ黒な煙幕が立ち昇ると、それは晴天に残留する煙雲として広がった。
シロウとレッドはそれぞれの武器を構える。嵐の前の静けさのように。
「相棒、そっちはどうだ? 俺はグロックに八発、デザートイーグルに三発。マガジンは店じまいだ」
「あたしの方はドラグノフ狙撃銃に四発、予備のマガジンはないわ」
「えっと、わたしは、.38口径のリボルバーに六発と、──ギフトはまだ使えますっ!」
少女のその一言に、シロウとレッドは食い気味に、勢いよく互いの言葉が被った。
「その力はまだ使う必要はない! 俺たちだけで十分だ」
「その力はまだ使う必要はないわ! あたしたちだけで十分よ」
これまで喧騒を繰り広げていた両者の唐突な連携に、少女は目をパチクリとさせる。そして頬を和らげた。
「絶対に皆さん一緒に、宿屋の美味しいご飯を食べましょうね! わたしは無事に皆で街に辿り着けることに、硬貨を全額賭けます!」
少女の強気な発言に、シロウとレッドもつられて笑みを浮かべた。
シロウは残り僅かなバイクのガソリンタンク容量を確認すると、遠方から揺らめいて現れた黒い影の集団を見つめる。
「さぁ、カモが弾薬と燃料、水をこしらえて来たぞ。作戦はどうする?」
「シロウ、あんたねぇ……それじゃあ、どっちがならず者かわからないわよ! 作戦はいつも通り、サーチ&デストロイ──先手必勝よ!」
「おいおい、俺よりお前の方がよっぽど好戦的だよ。ちゃんと撃つ前に同業の冒険者か否かは確認してくれよ?」
「分かってるわよ。ほら、シロウさん? あちらからご来店されるお客様たちは“ならず者”よ。真水はあたしがもらったわね」
レッドはドラグノフ狙撃銃の四倍率スコープを覗くと、勝気に唇を吊り上げた。
「たくっ……まぁ、いいさ。あいつらから必要な物資を補充すればいいんだからな」
「わたしも、万が一に備えて、準備していますね」
緊張を孕んだ少女の真剣な眼差しに、シロウは視線が交わると軽口を吐く。
「あぁ、期待しとくぜ。お前がうちのパーティーの切り札だ」
その言葉を皮切りに、狂気と騒音は迫り来ていた。
略奪と暴力の化身、この世紀末の世界を体現した存在が、生者の全てを剥ぎ取りに近付いて来る。
三人は息を合わせると、抗うように真っ向から挑んだ。
そこからは派手な銃撃戦が繰り広げられた。
砂塵が舞い上がり、絶叫を上回る銃声が辺りに轟く。乾いた空を切り裂く断末魔が、弾けるように何度も響き渡った。
シロウが真表に捉えたデザートイーグルで、ならず者たちの土手っ腹に風穴を二枚抜きで開けると、今度はレッドが競い合うようにドラグノフ狙撃銃で精密射撃を行う。
一瞬で頭蓋を粉砕された死体が二体転がる頃には、ならず者の半数は蜘蛛の子を散らすように逃げ出していた。
追撃の手を緩めない両者は、冷徹な瞳で獲物を狙う。
シロウの操るアメリカンバイクが、暴れ馬のように砂塵を掻き分けて突き進むと、握られたマチェットの刃が愚鈍なならず者の首を薙ぎ払う。
レッドの極限に研ぎ澄まされた集中力は、曲射のように銃口から吐き出された弾丸を飛翔させて標的の頭部を穿つ。
もはやどちらが略奪者か見間違える光景に、少女は慣れた様子でシロウとレッド、両者を見守り続ける。
広大な砂漠。その一帯の空間に、微かに力の余韻が波紋を広げていた。
少女は静かに見つめる。
時間軸すら歪めるその左右異なる双眸は異質に輝いていた。
──物語は少女が二人と出会う以前に巻き戻る。書き残した日記を読み解くように。
親愛なる友人に、盛り上がりが後半から勢いが増すのは、構造的になろうには向いてないと指摘されて、とてもショックを受けていた作者です。
本日早朝から、物凄いスピードでエピソード0を執筆しました。
この作品は新たな流行、世紀末ブームが巻き起こることを願って執筆した作品です。
全身全霊、全集中、本気で取り組んでいます。肩凝りと眼疲労を抱えながらも書いてます。
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