一言
短編です
それを言われたとき、素直に殺意が湧いたのは覚えている。
何も知らないくせに、上から目線で言いやがって、ふざけるな。
そんな、私に似つかわしくない感情が、ふつふつと湧き上がるのを感じた。
そのあと、私がどうしたかは、あんまり覚えてない。
ただ、気が付いた時には、彼女は鼻から血を流して、怯えた様子で私を見ていた。私は手が少し痛むのを感じた。よく見ると。手の甲の、骨が出っ張っているところに、血が滲んでいる。ありゃ、擦りむいちゃった、みたいな軽い感想が頭に浮かんだ。
「・・・な、なにふんのひょ!」
怯えた顔のまま、鼻の辺りを抑えた彼女が情けない声で叫ぶ。その瞬間、上の前歯が、真ん中を残して二本、ポロリと零れ落ちた。
「・・・ひ、やぁぁぁ!」
彼女の顔が悲壮感に包まれて、情けない叫びをあげた。その様子があまりにおかしくて、私は思わず笑ってしまっていた。
「はは・・・は、・・・あはははははは!」
お腹を抱えて笑う私を彼女が目をまん丸にして見ている。あはは、変な顔。あぁ~、なんかすっきりしたかも~!
仲の良い友達のふりして、あたしの彼氏を誘惑して、奪った女の末路。サイコー。あたしが彼氏の浮気を相談したときにはもう関係持ってたくせに、「えぇ~怪しいよぉ~別れたほうが良いよぉ~、アンタにはもっと良い人いるもぉん」なんて言ってたくせに。あぁ~、本当に虫唾が走る。
なぁにがアタシ男運ないんだ~だよ!全部自分のせいだろうが。
思い返してみれば、学生時代からそうだった。他人の男を奪っては捨て、奪っては捨て。そんなただれた生活をしておいて、よく今まで平気で生きてこられたもんだ。
「いつかしっぺ返し喰らうよ」
なぁんて、あの頃は心配してそう言ってやってたけど、その心配を仇で返しやがってこの女!
あーら、大好きなブランド物のコートに鼻血ついてるわよぉ?無様ねぇ~!
薄いピンクの可愛らしいコートに真っ赤な血、素敵ねぇ~!ソレどこのブランドぉ?
あぁ、さっきから意地の悪い言葉ばかりが頭をめぐる。
呆けるあの女に、私はどう声をかけたらすっきりするかしらねぇ・・・。
私の目が、あの女の目とぶつかった。
「ひ・・・」
あぁ、怯え方まで情けない。こんな阿婆擦れ、友達だと思ってたなんて、私もなかなか残念な女だわ。
「あんたの忠告通り、アイツと別れるの正解だったみたい」
「へ、ぇ・・・」
「あんたみたいに、頭も股もゆるゆるな女が好みのタイプだったなんて、全然知らなかったぁ!教えてくれてありがとうねぇ、貴方のおかげ!感謝してる!あのクズと、阿婆擦れのアンタ、すっごくお似合い!最高のカップルだと思う~!」
狂ったように笑いながら話す私を見る阿婆擦れの顔ったらないわ。今日は本当に気分が良い。最高だわ。
「あぁ、そう言えば、あたしも言ったよね?いつかしっぺ返し喰らうよって?」
わざとらしく人差し指を顎につけて考える顔をする。阿婆擦れがよくやっていたぶりっこのポーズ。ついさっきもこれやられて、私の怒りがマックスになったんだっけねぇ。
こんなバカみたいな行動でさえも、可愛く見えるんだろうな、あのクズには。
ちょっとだけ、笑顔がひきつった気がする。でも、これだけは言っておきたい。
——だから言ったのにぃ——
たった一言なんですけどねぇ。




