4話 バニーハウス
見上げれば微笑み返してくれる笑顔の素敵な男性。
優しい……まるで王子様のよう。
並んで歩くあたしはまるで恋人みたい……あたしはそんな錯覚に酔っていた。
それにしてもいつまで歩くんだろ?
「あの、いったいどちらまで行くんでしょうか? 先ほどの場所と何だか雰囲気が違ってるような」
「ああ、俺がお勧めしたい店はもうこの先にあるよ」
ピタリと足が止まり、あたしは見上げるとバニーハウスという文字の看板と、その隣の不安に駆られる絵が目に入る。
人の姿をして頭には長い耳を付けて、尻尾には丸いモフモフしたもの。
足には黒い靴をして、確かバニー姿というんだろうか。
村にきた冒険者の話を聞いてると貴族が人を獣人の擬似姿にして遊ばせるとかなんとか。
こんな所に本当にマヤ姉がいるの?
背中を押され中に入ると、店の外と中の雰囲気がまるで違うのを感じた。
みんながみんな何かにのめり込んでいるような。
台の上で何かコインのやり取りが見えた。
店の看板と同じバニー姿の女性達が、あたしを見て何か憐れむような目をしている。
まるで外とは別世界のような雰囲気を醸し出してて、不安が胸をかき乱す。
「ほらこっちだよ」
腕を掴まれ、勢いよく引きずられるように中へ押し込まれた。
えっ……え?
顔を見ると爽やかな笑顔とうって変わってニタリとした気持ち悪い表情。
怖い……。
「は、放して。放してください!」
体を後ろに引き、必死に抵抗しながら思わず叫んだ。
「うるせえな。ここまできたんなら諦めろよ」
「え……トワイラさん?」
「全くお前みたいな田舎から来たイモ女に対してこうも優しくすれば信用するんだからチョロいな。確かマ……マーヤなんちゃらって人を探してるんだっけか? んな名前の奴いるわけねえだろバーカ」
何言ってるの?
「理解してない様子だな。こうも演技すれば騙せるってのは扱いやすいぜ」
あたし騙されたの……?
あれも演技……?
ふと一つのテーブルに視線を向けると、あたしとぶつかって布袋を盗んだ大男が席に座っていた。
「ようやく気付いたか?」
「全くよ、お前もあくどい事するぜ」
「お前がやるよりも俺の方が成功確率高いんだし当然だろ」
「ちっ、まあいい。お嬢ちゃん。ここがどこだかわかるか?」
あたしは首を横に振る。
初めて見る場所なのだから当然。
「ここはカジノ。つまりは勝負する場だ」
「勝負?」
「まあ本来なら金のやり取りするんだが、ここまで来た馬鹿な嬢ちゃんだ。もし勝てばここから出してやる」
「勝てば?」
「そう勝てば。だけど負けたらそこの雌どもと同じ姿になって一生奴隷として働いてもらう。まあ逃げようとしてももう遅いがな。お前みたいな女でもどこかしら需要はあるだろう」
全員が俯きこちらを見ずにいた。
バニー姿にされている女性の人みんな同じように挑まれて負けてこんな姿に晒されてしまったんだ。
あたしの中でふつふつと怒りが湧き上がるのを感じた。
「も……もし、もしあたしが勝てば、ここにいる女の人。あたし含め全て解放して下さい!」
「ほう、いいねー。その心意気気に入ったよ。こっちに来な」
任せて。そう強気な表情をして女性達に視線を向けた。
バニー姿の女性達が、あたしを見て首を小さく横に振っている。まるで「無駄よ」と言いたげな表情で。
あたしは不安を感じつつも、男の後を追った。
広間の一つにテーブルと、丸椅子が対面するように二つ置かれていた。
テーブルの中央には無地のカードの束が一つ。
「本当にいいんだな? いいなら座りな」
最終通告なのだろう。
拒否などできない、どの道あたしに選択権はない。
あたしは椅子に座るともう片方の椅子には大男ではなくトワイラが座る。
大男ではなくトワイラが座るのはあたしを負かすためだろう。
対面するトワイラはニヤけ面であたしの事を見ていた。
馬鹿にする行為に、よりいっそう怒りが湧き上がる。
絶対負かしてやるんだから!




