30話 カオスな祝福と、幹部の思惑
場所は変わり、ラウンジの一角にユエルとライネス、そしてあたしの三人は集まっていた。
廊下に出てから迷っている所に従業員の一人がやってきて、二人がラウンジで待っていると知らせを受けた。今は興奮冷めやらぬ状況で下手に広間に出ようものなら間違いなく押しつぶされるだろうとライネスが言っていたそうだ。
「すごいっす! すごいっす! 二度も勝つなんて流石フェル!」
主人とじゃれ合う犬のように飛び回るユエル。
「そうだぜ。あのムエルニを下したんだ。誇っていいぞお前」
ユエルと肩を組み、ライネスはガハハと笑いながらあたしの頭をバンバン叩いた。
あたしも二人のように勝利に浸りたいけどライネスの巨大な手にたいして痛みのほうが勝つ……。
「ああ、すまんすまん。正直俺様はフェル、お前が負けるんじゃないかと予想していたけどまさか勝てるとは」
「ちょっとちょっとちょっと! ライネスなんでフェルが負けると思ってるの。実力は折り紙付きだって対決して知っていたでしょ」
「そら知っていたさ。知っていたからこそ俺様はムエルニの実力も知っていた。あいつは本物であると」
ライネスは彼女の事を高く評価している。
それだけギャンブルの腕や才能において信用しているんだろうな。
「ううん、正直あたしも勝てる自信はなかったよ。ただ……ただね、あの時ユエルが言ってくれた言葉があたしを前に押してくれたの」
そう、対戦の前に言ってくれたユエルの励ましがあたしに力をくれた。
あの時、あれがなかったらあたしは気持ち的にも負けていたと思う。
「ちょ、ちょっとちょっと! フェルなに泣いてるんですか!」
あたしは感極まって思わず涙ぐんでしまった。
ユエルは慌てふためき、ライネスはガハハと笑う。
第三者から見たら間違いなくカオスな状況だろう。
そんなカオスが起きてるとき、扉が開く音が聞こえると二人の男女が入ってきた。
「ここに今回の主役様がいると聞いたがって、なんなんだよこのカオスな状況」
涙を拭きとり入ってきた人を視認すると。
声の男性は麦の穂のような金髪の短髪、緑の瞳、顔立ちからしてお兄さん。
もう一人の女性は同じく麦の穂のような金髪で後ろでひとつに束ねた髪が跳ねるように揺れる。同一ぐらいの年齢だろうけど綺麗な女性だなと印象を受けた。
「ライネスまでいるのか」
「いちゃ悪いのかよダリオ」
「ライネス、この人って誰っすか?」
「ああ、こいつは俺様と同じセブンズミラー幹部の一人。ダリオ=ラングレーだ」
「主にギルドの資金管理関係がメインで今は資材フロア管理も担当してるよ。あ、こっちはミラン。君がフェル・ラグンダルトだねよろしくー」
握手を求めてきたので、握り返すと力いっぱい上下に振り回された。
「あ、あ、あ、あうあうあうあう」
「ちょっと、フェルが困ってるじゃないの。放して」
ユエルが間に挟まり放してくれたおかげであたしは難を逃れた。
最初の印象は落ち着いたお兄さんかと思いきや、今はどこか子どもっぽさを残した人と言った感じ。
そして握られた手が痛い……。
「んで、お前どうしてここにいるんだよ。まさか会うためだけに来たんじゃないよな?」
「あー……ああ! リーシャ様に言われて来たんだった。フェル・ラグンダルトとユエル・タニアに制服を支給するようにって」
「あの制服っすね! だけど自分が見た感じダリオの制服は他とは違うような」
「俺のは幹部だからな。他の一般職員と一緒にしてちゃまずいって事で制服は特別仕様っさ!」
腕の腕章を自慢するように見せつける。
それが特別の証なのかな?
「んで、こいつらの制服どこだよ」
「あー、まだ届いてないんだ。というか採寸とか仕立てとかが必要で出来たときに当日渡すって感じにはなるのかな」
「もしかしてその服装みたいなの着るんすか?」
二人とも身に着けている服装は漆黒のジャケットは体に吸い付くようにフィットし、襟やボタンの縁に沿って走る金色のラインが、カジノの煌びやかな光を静かに反射する。内側には柔らかなフリルのブラウスが覗き、堅苦しくなりがちな印象に、ほのかな愛らしさを添えていた。女性の方の膝丈のスカートは、動きやすさと品格を両立させている。
制服調の重厚感が薄まり、軽やかで日常着に近い雰囲気。街中を歩いたり友達と過ごすような「日常っぽさ」が強調されている。
胸にはセブンスターの紋章が入り、腕にはラングレーさんのみ腕章をつけている。
上下ともに黒で統一しているが、所々光を反射してほのかに色が変わる繊維、高価そうと印象を受けた。
以前村に来た魔法使いの人に似たようなきらめきの服を着ていたので聞いてみた所、暑さ寒さに耐久性伸縮性に優れて、汚れにくい魔法繊維を組み込んでいると。中には貴族や王族にも使われているらしく、差異はあるものの超超超高級とのこと。値段なんて想像に難くない。
あたしには縁もゆかりもないものだと思っていたけど。
とりあえず、今後働くとしたらこれを着るのは少しワクワクする。
「そうだねー。王国に正式に認められてるギャンブルギルドだし。服装に関しては三種類あるよ。俺と彼女のとスカートじゃなくズボンタイプの三種類。まあ服装自体ライネスみたいな一部例外はあるんだけどね」
「まあな、そもそも俺様がそれを着たらかたっ苦しくて破いちまう」
鬼の形相でビリっと破けく服、想像も容易にできた。
非力なあたしはそういった事はできないだろうけど、制服を着たのを想像すると少しワクワクはするかな。
そう言えばラングレーさんが持っているのはメジャーって事はつまり?
「えっと、さっき採寸と言ってましたが、もしかしてラングレーさんが計測する……んですか?」
「違う違う。俺じゃなくミランが測るんだよ。女の子だし俺が測るわけにもいかないだろ? ただ、どうしてもと言うなら俺でも構わな」
言い終わる前にライネスがダリオの顔面を殴り飛ばし、続けるようにミランが空中から腹に叩きこませた。強い衝撃音とともに机と椅子がバラバラに散乱する。
「この馬鹿は俺様が連れてくからお前たちは済ませとけ」
ラングレーさんを持ち上げメジャーをミランに渡しラウンジから二人は出ていく。
あの後、あたしとユエルは採寸を測ってもらったが身長は伸びてたので嬉しかった。ただし胸は……。
制服は出来次第、宿に手紙が届くので、次の日に取りに来ると同時にギルド職員として働くことになるとのこと。スタッフ用の出入口まで案内されて外に出た。
外は暗く夜中だとわかるが街並みは明るく昼間のようだった。
「フェル楽しみですね」
「うん」
フェルとユエルがギルドから出てからしばらく経ち、ラウンジから出てとある一室にて、ライネスが無理やりダリオ=ラングレーを放り投げた。
「んでお前いつまで気絶してるフリをしてんだ殺すぞ」
「あら、バレちゃった?」
「バレバレのバレバレだ。たく、俺様の攻撃を受け流すとかこれだからお前は嫌いなんだよ」
「受け流すって言っても痛いものは痛いよ。特に腹は回避できなかった」
「そいつは俺様じゃねえよ」
まじかー、この男は腹をさすりながら呟いた。
手加減したとは言え俺様は確実にこいつの顔面を殴り飛ばした。
ただそれと同時にこいつは床を飛び跳ねて威力を減らした結果、手応えはないのは確信していた。
そんなこいつは平気そうにヘラヘラとしてやがる。なにを考えているのわからないから気味の悪さが勝つ。
「枠も空いたし選定戦は彼女たちも参加するんだよな?」
「ああ、仮に嫌だと言っても無理やりださせる」
「ムエルニちゃんに勝ってフェルちゃんとユエルちゃんは大注目。ギルド内でも取り入ろう、潰し合いの発生ってね」
「はっ、あいつらは俺様が認めた奴だ順当に勝ち上がるさ」
そう言い残しライネスは部屋を出て行った。
「ま、俺はどっちでもいいけどね。彼女たちが活躍すれば活躍するほど金が動くわけだし――それに動くのは金だけじゃないんだけどね」
彼の口元は笑っていた。




