22話 降格を賭けた再戦と、酔いどれの百人抜き
「まさか、ユエルあなたが勝ち残るとは思わなかったわね」
「自分はフェルの指示に従ったから勝てたんです」
「ええ、あなたの信頼した所は素敵だったわよ。そしてフェル、私はあなたが勝つと思っていたのだけど。あなたの欲しがってた情報は欲しい?」
あたしは横に首を振った。
差し出された報酬を受け取っても価値はないと思ったからだ。
「いえ、いいんです。あたしは初めからギャンブルなんて似合わなかった。それにユエルに勝ってほしかったからそっちに全力を注いだまでですよ。情報は確かに欲しいですが……冒険者を続けていればそのうち手に入るかなって」
「ふふ、そう。なるほどそうなのね。私の考えが間違っていたようね。あなたはそう言う人なの、なるほどね」
何かを納得するようにリーシャ様は不敵な笑みを見せた。
「さて、それじゃあムエルニ。あなたの処遇を決めましょう」
リーシャ様の指はムエルニの背中を這うように動かすと、ムエルニはビクっとして肩を震わす。
顔を上げられない、いやイカサマ含めて恐怖からか顔を見られないと言ったほうが正解だろうか。
子供が親に怒られ縮こまっている。そんな風にあたしは見えた。
「あの、リーシャ様。ムエルニさんの処遇なんですが、取りやめて貰ってもいいでしょうか?」
「どうしてかしら? イカサマを見抜かれた時点で彼女はギャンブラーとして失格でもあるの。それに彼女自身自ら二人を相手にして倒すって宣言したのよ」
「そうかもしれません。けど……」
どうしよう……。
リーシャ様のあの目は本気だ。本気でムエルニさんをどう堕とすか考えてる。
あ、そうだ。こうすれば……とあたしの中で閃きが走る。
「あの、ユエルが勝てたから職員になるのはわかります。だけどムエルニさんはまだあたしには負けていません。つまりは半々と言う事で今回は互いに勝てたから、ユエルは職員にムエルニさんは降格せずって事はどうでしょう」
ムエルニは力の限り強く台を叩いた。
「馬鹿にしないで! 私はリーシャ様の顔に泥を塗った。期待に応えなかった。もしリーシャ様に死ねと言われれば私は死ぬし。消えろと言われれば私は消える」
あたしの提案を拒絶する。
自尊心を傷つけてしまったのだろうか。
だけど、これ以上どう収まるかをあたしは考えつかない。
「そうね。今のままだとギルド内にいる一般職員にも、見ていた客や貴族からも納得せず。なら、日を改めてムエルニとフェル。あなたたちの再戦を行う事のほうがうまく収まると思うの」
「再戦?」
「ゲームは今回行われたサーティーンズ・デス。台などは変更して今回みたいな不正ができないようにしましょう。そしてフェル、あなたが勝てばユエルとともにギルドに正式に入団。そしてムエルニは負ければ降格。ムエルニ、名誉挽回のチャンスをあなたはものに出来るかしら?」
「はいできます!」
先ほどの子供のような身震いはなくなり、負けじとばかりの強気。
鬼の形相であたしを睨みつけ、気迫で周囲の貴族や護衛者の人達を黙らせる。
そんな中、一人恐る恐る手を挙げる。
ユエルだ。
「何かしら?」
「あの……自分って入団するって事になったと思っていいんでしょうか?」
「そうね。あなたはこのギャンブルで宣言通りに勝利を手にしたのだから、入団を許可しましょう」
誰もが彼女の言葉に納得した。
実際最後に勝ち上がったのはユエルなのだから。
「いえ、あのその……自分はまだ保留……したいなって」
「……どうしてかしら? 理由を訊いても?」
あたしもユエルがどうして急に保留になったのか知りたい。
あれだけ家族の為に頑張ったのに……。
「自分、まだ勝ててないんですよ。いや、勝てたには勝てた。ただまだ勝ててないというか。実際あの時、フェルに勝ちを譲ってもらったのを拾っただけ勝利をつかんだのに納得しません」
「ふぅん。ならあなたもこの子と同じように再戦を希望と言う事ね」
「いえ、再戦はしません。したらまた同じことになりそうで。だから」
ユエルは顔をあたしに向け、手を差し出す。
「自分はフェルに賭けます!」
表情は満面な笑みを浮かべ、自信満々にそう宣言した。
「そう、つまりフェル・ラグンダルトとムエルニの一騎打ちで彼女が勝てばあなたと入団するって事ね」
「はいっす!」
「では本日のメインイベントはここまで。日程が決まり次第、使いの者を寄こすわね」
鶴の一声、言い終えると各々歓談。談笑。
こちらに来ると言うよりもリーシャ様に向かい話す貴族達。
誰もあたし達には見向きもしない様子。
そのままあたしとユエルはセブンズミラーの建物外へと出ていく。
建物から出ていく途中、好奇の目で見る者が多かったがあたしもユエルも気には止めなかった。
と言うよりもそれ以上に鬱陶しい存在が近くにいるからだ。
「いやー、面白かったぜ。お前たちのギャンブル。やっぱ俺様が見立てた通りだったぜ」
近づく者みなライネスが睨みつけるため閑散とする。
ライネスは体格、性格、見た目、そして知名度の全てが高圧的なためむしろ近づく者はほとんどいないだろう。あたし達を除けば。
「そうですよ。フェルはすごいんですから! それにあんなイカサマ見つける知識もありますし。尊敬しますよ!」
「たまたまだよ。あれだって知り合いになった商人の人に教えてもらえただけだし。それにあくまであのジョーカーのみだったのが運が良かっただけだよ」
「謙遜しないでくださいよ。あの度胸と気迫。自分には無理ですよ」
目をキラキラさせながらあたしの事を語るユエルは生き生きとしていた。
逆にあたしはユエルの中で大きな存在になっている事に気恥ずかしさを感じる。
「てかもう真っ暗ですね。夜とはたまげました」
ユエルの言う通り建物を出ると外は夜になっていた。
入った時はまだ明るいと思っていたが、意外と時間が経っていた。
周囲を見回してみると、煌びやかな光を放ち、まるで別世界に来たかのようであった。
「ところでお前たちどこで寝てるんだ?」
あたしは泊まっている宿の事を言う。
「あそこか、なら安心だな」
「知り合いなの?」
「あそこの亭主とはちょっとな。逆によくそんな所へ泊れたな」
「ここに来るときに、おじさんに案内されてね」
「そっか、なら感謝しろよ。んで、ユエル、お前はどうなんだよ」
「あー、自分は別の宿があるから大丈夫。明日フェルの泊まっている宿に行きます」
そう言い残し急ぎ足でユエルは去ろうとするが、あたしはユエルの腕を掴んだ。
「あたしはもっとユエルと話したい。せっかく友達になったんだし」
「けど、このあと予定が」
予定なら仕方がないのかな。
そう思い手を離そうとすると、逃さんとばかりにライネスがあたしとユエルの肩を掴む。
「あー! ケチケチすんじゃねえよ! いいじゃねえか今日ぐらい。予定なんて後回しだ、祝勝会するぞ!」
「祝勝会って、まだ勝ったわけじゃ。それに今回は保留なわけで」
「ムエルニ相手にあそこまでやりあったんだ。とにかく酒だ。さっさと行くぞ」
酒飲みたいだけじゃ……。
まあいいか、三人でワイワイとするのも楽しそう。
この時あたしはまだユエルが抱えている問題に気づけないでいた。
あたし達はあたしが泊まっている宿へと着くと、ライネスは勢いよくドアを開けた。
中の一階は食事処となっているためか、数台あるテーブルは何ヶ所か客で埋まっていた。
ライネスの登場で客はざわつく。
そんなライネスは気にする様子もなく席に座った。
「ようマスター。くたばってないようだな」
近くにいた宿の主人がこちらを見る。
「お前……ライネスか? どうしてここに」
「なに、こいつの祝勝会をしようと思ってな」
「お嬢ちゃんはファステールが連れてきた……。昨日の今日で連続して足を踏み入れるとはな。てか改めて聞くが二人とも未成年じゃないよな?」
「冒険者組合に登録できてるからこいつら成人だ。と言うわけだ、とりあえず三人分の酒くれ。酒ってお前たちもそんな所に突っ立てないで座れよ」
あたしとユエルは言われたまま席に座る。
少しして木のジョッキの酒が三つ置かれ、ライネスはそのまま口の中に勢いよく飲み始めた。
「あたしお酒って初めてかも」
「自分は何度か飲んだことありますが味はあんまり好きじゃないですね。けど酔った時の感覚と雰囲気は好きですよ」
「二人してなに飲まずに喋ってんだよ。早く飲めって、ここの酒は中々いけるぞ」
「そうだね。飲んでみようかな」
「おお、いけいけ!」
あたしは一口、飲んでみた。
喉にシュワっとした感覚が残り、舌には少し苦味が広がる。それでも何故かすっきりする。
二口目、三口目と続くように飲み込んで、台の上に置いたジョッキは空になった。
そんな飲みっぷりにピューと口笛を吹くライネス。
「良いのみっぷり。親父追加で酒持ってこい!」
「だ、大丈夫ですか?」
心配するようにこちらの様子を見に来るユエル。
何だか気持ちが軽くなるのか無性にユエルに触りたくなる。
「じょーぶ、じょーぶ。あたしは、へーきへーき。それにしてもユエル可愛いね~」
「ちょ、本当に平気ですか」
あたしの言葉に照れるようにユエルが少しもじもじする。
可愛い。あたしはユエルの顔を引き寄せ、頭を撫でた。
ユエルは嫌がる素振りもみせず無抵抗でされるがままだった。
再び酒が入ったジョッキが置かれるとあたしは勢いよく飲み干した、と思う。
そこからは意識が遠のいてく感覚があったからだ。
「ここは?」
目を覚ましたら、あたしはベッドの上だった。
床にはショルダーバッグが置かれていたので、ここは宿の一室だろう。
昨日の事は少しだけ覚えている、何杯かお酒を飲んでから何かゲームをしたような?
仕方がないと思い、あたしはそのまま扉を開け一階に降りる。
すると見慣れぬ強面の男の人達があたしを見つけると即座に目の前に列をなして現れた。
硬直する。女性はあたし一人、宿の主人もライネスも見当たらない。襲われたら助けてくれる人はいない。
『姉さん、おはようございます!』
「え?」
頭を下げ声を揃えて挨拶をした男の人達。
あたしは思わず間の抜けた声を上げた。
「いやー、昨日は素晴らしいギャンブルでした。まさに天性の才能と言うべきか」
「あ、あのどう言う事でしょうか?」
「あれ? 姉さん覚えてませんか? ここで昨日ポーカー勝負をしたって言うのは」
昨日の事、確かに何かしたって言うのは覚えているがそれがまさかギャンブルとは。
けどそれで何であたしがこんなに慕われるように?
「それにしてもすごかったですよ。百人抜き。不動の強さ。あのライネスさえ驚かせるとは、ご友人のタニアさんが止めに入らなければ俺たち無一文になっていましたってあれ? またお休みですか?」
急いで部屋に戻るとあたしはその場にへたり込む。
何それ……。
あんな話を聞いて頭が混乱する。
昨日のあたしは何したのよ、そう思いつつ頭を悩ませるのであった。




