2話 家を出る決意と王都の情報の獲得
マヤ姉のように腰まで伸びた黒髪を三つ編みにして、マントを羽織った。
マントの下には、動きやすいように自分で手直しした服を着ていた。
村に来る冒険者の服装を見て学んだおかげで、裁縫の腕も上達した。
可愛いのもあったが過激な服装もあったりとか。
女性は特に……。
「そういや、胸……はマヤ姉は大きかったな……」
自分の胸に手を当てる。少しは膨らみを感じる気がするけど……口に出すのはやめておこう。
数度の深呼吸をしてから心を落ち着け、床に置いてあるショルダーバッグを肩にかけた。
中身には薬草(粉末状にしたもの)の類の入った子瓶、同じく水と少しばかりの干し肉。それと村から借りた針と糸。包帯など聞きかじった品々を入れてみた。
机の上に一枚の手紙が置かれていた。
あたしはその手紙を手に取ると、内容にはこう書かれている。
『フェルへ
元気にしてますか?
お姉ちゃんは王都で順調よ。約束、覚えてるかな。15歳になったら会いに来てね。待ってるから。マーヤより』
これ以外はない、マヤ姉があたし宛てに送ってくれた、たった一枚だけの手紙。
辛くなりそうになってもこの手紙を読んで元気づけられた。
手紙を封筒に包むと、鞄に入れた。
「よし行く……の前にちょっと確認っと」
家の中に等身大の鏡があるので、そこで数度ポーズをとってみた。
胸を強調するようなポーズをとるものの、胸だけじゃなく全体的に幼い印象を受ける。
それは同年代と比べ背も少し低めなせいもあるが。
そういえば昔、マヤ姉はあたしの事をお人形さんみたいと言っていたのを思い出す。
当時はそうかもしれないが今は健康的な小麦色の肌。
気を取り直し、荷支度を終えた。
「それじゃおとうちゃん、おかあちゃん。あたし行くね」
決意を固め、家から出て行こうとするとマントを引っ張られる感触に。
振り向けば心配そうにあたしを見つめている両親がいた。
「フェル。そんなに急がなくても、もう少し村にいてもいいんじゃないか?」
そう言いながらあたしのマントを掴んで離さないおとうちゃん。
大事な一人娘の旅路を心配しているのは分かるが……。
まさか最初に立ちふさがるは両親とは。
あたしはその手を振りほどくように払った。
「おとうちゃん嫌よ。この前言ったじゃない、あたしは王都に行って冒険者になるって」
「だけど、お前にはまだ早いと思うんだよ」
「先に村を出たマヤ姉みたいに活躍するんだから。しかも、あたしくらいの年齢でも王都で活躍できるって、村に来た冒険者たちが言ってたんだよ」
「確かに15となれば一人前の成人ともなるし冒険者の許可も下りるけどもさ。けど一応まだ若い娘なんだから。冒険者って言っても魔物と戦うんでしょ?」
おかあちゃんは頬に手を置き、心配するように困り顔をした。
けれども、あたしにはそれを覆す根拠がある。
「大丈夫だっておかあちゃん。あたしには魔法がある。村近くの魔物も何回か倒したことあるんだよ」
そう……あたしには昔から魔法が使えた。
才能の有無があるそうで魔法は普通の人には使えない。
例えば、血縁関係の親が魔法の才能なくても運が良ければ魔法開花するとのこと。
幸いにもあたしはその才能が持ち合わせて恵まれている。
「魔法が使えるかもしれないけどもさ。それにあんたは魔物を倒す前に別の冒険者と魔法反発して危うかったじゃないか。たまたま強い冒険者だったからよかったけどさ」
「確かにあのときは他の魔法使いとたまたま」
「それに冒険者の前には商人になりたいのやら、薬剤師になりたいのやら色々言ってたじゃないか」
そうあたしはマヤ姉が出発したあと、サポートができるよう色々独学で学んだ。
経営の為の金銭数え方とか。
マヤ姉がいなくなったあと宿の手伝いもたまにして、そこでお金の数え方を覚え、それに引っ張られるように文字の読み書きも身についていった。
他には薬を知るために村近くの山菜と薬草取り等々。
他にも色々あるが村の人達、冒険者、商人からも頼み込むと良い人が多かったおかげか教われたと……思う。
それに両親はこう言っているが、あっちこっちやっているうちに、どことなく応援はしてくれてはいた。
ただ、実際学んでいくうちにそっちのほうが中々むいているんじゃないかと思えたりもしたが……。
「……確かに色々流されたけど、今回は本気だよ」
「世の中危険な事が多いはずよ」
「魔物以上に怖いのなんてないよ、おかあちゃん」
「それもそうだけど……王都に行くんでしょ? あんた騙されやすそうだしねぇ……」
「大丈夫だっておかあちゃん。田舎娘に見られたとしてもそれを覆すように努力してきたんだから。それにマヤ姉がいる。向こうでマヤ姉に会うんだから」
胸を張り、腰に手を当てた。
すると、腰につけていた布袋が揺れ、硬貨特有のジャラジャラと音が鳴る。
中にはこの国の通貨が何枚か入っている。
「けどマヤちゃんは最初のうちは連絡の手紙を送ってたけど、もうここ数年は一向に手紙すら送られてないらしいじゃない」
「マヤ姉は忙しいんだよきっと。それに、あたしが王都についてマヤ姉と会えたら、ちゃんと手紙送るよう言うから」
「心配だけどわかった。まあマヤちゃんがいるなら平気かしら。おとうちゃんもいいね」
気圧されたのかおとうちゃんもしぶしぶ頷いた。
あたしはようやく村から出る事ができた。
村人総出で見送られたのは少し恥ずかしかったけど、それでも皆があたしの事を好きだってのがわかって嬉しかった。
王都までの旅路は村の農夫の馬車に乗せて行ってもらえることになった。
しばらくして、村は完全に遠ざかり景色が変わり辺り一面草原が広がる。
「風が気持ちいいし景色も綺麗」
「ああ、冒険者になるとこんな景色はよく見るようになるさ」
そう同意するのはファステールという村の守護兵のおじさん。
あたしを運ぶ兼農夫と村から取れた野菜を守るために護衛役としてファステールさんが同行している。
「そういやフェルちゃんは王都初めてだっけか?」
「はい、今までは村の周辺や他の村までで王都まで行くことはなかったんだけど、今回が初めて!」
あたしは満面の笑みを浮かべておじさんに話した。
「王都に行って、マヤ姉と一緒に一流の冒険者になるのがあたしの夢です」
「マヤちゃんか、懐かしいな」
「おじさんはマヤ姉が今何しているのか知りませんか?」
おじさんは首を横に振ると知らないと答えた。
あたしはそれを見て少しガッカリはしたが仕方がないと思い直した。
「まあけど王都に行けばそのうち会えるさ。それに長年フェルちゃんを見ていて、そこそこやれるだろうなと思うよ」
「そこそこですか?」
「おじさんも昔、フェルちゃんみたく成り上がろうと思って王都で冒険者をしていたんだ。ある日、とある冒険者と一緒に魔物を討伐することになってパーティーを組んだんだが、その冒険者は尋常じゃなく強く一緒にいたおじさんは才能の差を感じて冒険者を諦めたんだよ」
「その冒険者って?」
「一時的に組んだだけで名前は……ちょっと忘れたが確か、女性で綺麗な人だったな。今は賭場のオーナーをしているとかなんとか」
「カジノ?」
「そうか、フェルちゃん王都の事あんまり知らないんだよね」
確かにあたしは憧れのあまりあんまり王都の事を知らない。
とりあえず王様が居て、そこに大きな街や冒険者になれる場所があるぐらいだ。
あとマヤ姉が活躍する場所としか。
おじさんは冒険者だし、どんな街なのかわかっているはず聞いとく価値はあるはず。
「王都は一人の王様が中心となって各貴族たちがそれぞれの場所を統治しているのさ。もちろん冒険者組合というのもあってそこで冒険者登録する必要がある。冒険者になると依頼を受けて達成すれば報奨金がもらえる。おじさんも実は昔、竜と戦った事あるんだ。実はな――」
おじさんの声が、まるで子守唄のように心地よく聞こえ始めた。あっ、これ……だめ。眠くなるやつ……だ……。




