10話 裏切りの森と、大斧の女
「薬草は木の近くに生えている事が多いのよ」
サムは木の下に生えている草を掴むと引っこ抜いた。
緑色というか青緑に近い色。
ただの草と似ていて見分けがつかず素人なら間違えて食べてしまうことも。
薬草であるので、食べて良し、すり潰して良し、煮詰めて良し、水で薄めて良し。傷に貼り付けて良し。
効果のほうは保証される一般回復薬。
ただ、生やペースト状で食べると苦い、何度か経験したので間違いない。
「これですね」
「自分も見つけました! これですね、この緑の草ですね! 抜いても薬草とわからないですよって、草くっさ!」
「ユエル、それは薬草じゃなくただの草だよ」
「えっ本当ですか! 確かに食べてみたら薬草じゃないような……うぇ不味……」
「それにしてもフェルちゃん。よく知ってるね」
「村に居た時に薬草関係は来ていた冒険者の方々に教えてもらっていたので。それで覚えたんです」
村に居た時に覚えた知識や経験が役立った。
「村ねぇ……そういえば、掲示板を見ているとき悩んでいたし、あなたたちは初級冒険者よね?」
「はい、そうですね。サムさんたちと会う前に初めて冒険者になったばかりです」
「自分はフェルよりも早くなりましたが、ちょっと失敗したので似たような似てないような感じです!」
「へぇ、ちなみに村から出て何日目なの?」
「えっと昨日来たばかりなので一日目かな?」
「なら、知り合いとかもいないわけね」
「確かに今はいないと言えばいない……のかな?」
「今は?」
この人達にマヤ姉の事を聞いてみるのもいいかもしれない。
「あの、えと。マーヤ・ディラントという冒険者の事は知りませんか?」
「んー、知らないわね。その人がどうしたの?」
聞いてみたものの見事にハズレ。
「……いえ、あたしの村からその人が王都へと来たはずなのですが行方不明と聞いたので」
「それは可哀想に。なら、あなた来てからは知り合いも居なくて一人きりなの?」
「はい……」
「フェル、自分と知り合いになったからもう一人っきりじゃないですよ!」
「あ、そうだったね。うん、そうだね。あたしはユエルと知り合ったから一人きりじゃないね」
あ、そういえば他にサリエント様がいたけど、あの人からすればあたしはたまたまいたにすぎない。
言うべきかと悩んでいるが、話は先に進む。
「ふーんそうなの……ちなみにタニアちゃんは?」
「自分もまあフェルと似てますね。ただ探し人はいないですが」
「好都合ね」その呟きが耳に入った瞬間、もしかして……とは思ったが。
でも、ユエルの無邪気な笑顔を見ると、自分の考えすぎかもしれないと思い直す。
「あのロムさんはどこにいるのでしょうか?」
「ロムならそこら辺に魔物がいないかどうか探しているはずよ」
あたし達が薬草採取してる際に魔物を退治してくれてるって事かな?
この人達なんて良い人なんだろう。
「そういえば、もう少し奥の方にも結構質の良い薬草が生えていたような。取りに行きましょうか」
「はい!」
後ろを振り向けば王都は完全に見えなくなり、左右を見ても木だらけ。
森の景色はより一層濃くなり、葉が重なるおかげか太陽の光は微かにしか入らず周囲は薄暗くなってきている。
そのせいか森の印象が恐怖に近い。
「もうこの辺でいいかな」
「えと、結構奥にきたようですが。ここら辺に質の良い薬草が?」
「ええ、質の良いのは薬草じゃなくて“獲物”のあなたたちだけどね。ほらあれを見てごらん」
何を言ってるの?
「ロムさん……と誰?」
ロムとその近くには複数人の男女と思わしき人物。
ロムの手に袋が渡され、中身を確認するように取り出したのは硬貨。
サムはあたしとユエルの腕をギュッと掴み動けなくした。
「何するんですか!」
「最近は警戒が強くなって人身売買もままならなくなっていてね。そこで丁度良いカモが現れたってわけ」
「カモってなんですか、カモって! 自分たちそこまで美味しくないですよ! 食べるならほら、あのとても肉が大きくて」
「うるさい、黙りな!」
どうして……。
そういえば受付嬢の人が言っていた初心者狩りって。
「ようやく気付いたわけね。私たちが初心者狩りと呼ばれる者。そしてあの人たちがあなたたちをどこかに売り払う仲介業者ってわけ」
逃げようとするものの、腕をがっちり掴まれ逃げ出せない。
それはユエルも一緒のようだ。
売買人たちが近づく。必死に腕を振りほどこうとしても、力ではとても敵わない。
このまま、どこかに売り飛ばされて二度とマヤ姉のもとには行けなくなる。
……嫌だ!
嫌だ嫌だ嫌だ!
誰か助けて!
「たくよー。本当に初心者狩りに会うとはな!」
地鳴りが響く声。
そして光が通り過ぎた……。
衝撃音が後から聞こえて、草木が無くなり光が差し込み周囲が明るくなる。
何が起きたのか理解が追いつかない。
それはサムも同じ様子だった。
衝撃波の余波のせいだろうか、ロムも他の売買人含め、全員倒れていた。
「話に聞いてたその見た目、もしかしてお前がリーシャの気に入った奴かよ」
あたし達、いや視線からしてあたしに近づく一人の女性。
まず目に飛び込んできたのは、大人一人分もある両刃の大斧だった。
どう見ても女性一人で持ち上げるのは不可能なはずなのだが軽々と片手で持ち運んでいた。
腕から見ると全身屈強な筋肉質だというのが分かる。
おしゃれ用なのか腕には銀色の腕輪をいくつか付けていた。
次に顔に大きな一本の生傷。
傷のせいもあってか男よりも勇ましさを感じる顔立ち。
「あん? どうしたビビッて」
背後でカチカチと音が聞こえた。
サムに視線を向けると恐怖顔からか震えあがって歯を鳴らした。
「そ、その顔の傷……もしかして“セブンズミラー”のライネス」
え?
セブンズミラーだって?




