最弱遊び
これは、とある人から聞いた物語。
その語り部と内容に関する、記録の一篇。
あなたも共にこの場へ居合わせて、耳を傾けているかのように読んでくださったら、幸いである。
ん? あれ?
つぶつぶ、あんた聞こえない? やかん特有の「ピー!」ていううっさい音よ。
聞こえない? マジでいってんの? となると……あー、どうやらやってきちゃったみたいね。厄介な遊びが。
つぶつぶ、悪いけど執筆活動はちょっとお休みよ。ちょっとの時間、あたしのわがままに付き合ってもらうわ。
別にギャグでも口説きでもないわよ。あんたの活動が続くかどうかの瀬戸際なんだから、言うとおりにしてちょうだい。
――俺にいったい、なにをやらせるつもりなのかって?
そうね……ありていにいえば、「最弱遊び」ってとこかしら。
あんたにはこれから、史上最弱になってもらう。いや、最弱にならざるを得ない遊び、あるいは呪いの一種かしら。
不幸中の幸いなのは、あたしがここにいたってことね。最弱の音を聞き分けられるあたしが。
前に話したかもだけど、あたしの家ってご先祖様がちょっと知られた神職の人なのよね。その血のおかげなのか、いわゆる霊感系のパワーがそなわっているみたい。
あんたにうらやましがられた覚えもあったけど、あたし本人はそんな嬉しいものだと思っていないわ。だってふつーのひとがヘイヘイボンボーンとスルーできちゃうことを、スルーできないんだから。無視するにしても、それはそれで気を張らなきゃいけない。
そういった苦労が日常で9割。こうして人助けに活用できるのは1割前後ってところかしら? その1割を心の支えにできるほど、あたしは強い人間じゃないってのが難点なんだけど……おっと、きたわね。
つぶつぶ、あんた床に寝っ転がりなさい。いいから、早く。
別に毛布のたぐいとかは必要ないわ。ただ横になっていること……そのまましばらく様子を見るわ。
――なにか、掛けたらヤバいことでも起こるのか?
そうね、すぐ分かるでしょうね、そのあたり。
じゃあ試しに……そのひざ掛けあたりがいいかしら。横になっているあんたの足の指先に、ちょっとだけ乗せるわよ?
どう、めちゃしんどいでしょ?
普段はなんとも思わないひざかけ一枚が、漬物石のごとき重さに感じられる。当たらずとも遠からずじゃない? それじゃ、ひょいっと取りあげて……どう、楽になったでしょ。
これが最弱遊びの内容。いまあんたは、世界最弱の道をばく進中なのよ。これからあの音が鳴りやむまで、弱くなり続けるわ。とはいっても、あんたには聞こえないんでしょ? やっぱり幸せかもね。
昔から同じような現象が起こっていたらしいけれど、聞こえる人じゃなかったら、自分がどうなっているかも判断がつかないから、まず助からないわ。
例えば荷物しょっているとして、急にそれに押しつぶされて死んでしまうなんて、想像できる人がどれだけいるかしら? ほんの先ほどまで苦も無く付き合っていたものに、その命を奪われちゃうなんて……。
あ……つぶつぶ、ちょっと待って。
音が変わったけど……マジ? こんなこと、めったにないんだけど。
つぶつぶ、あたし部屋の隅へ行くからさ、その寝転がった状態のままで机のまわりを這いずってくれない? 身体は起こさず、そのまま足を使ってシャクトリムシみたいにね。
止まらずにぐるぐると、机まわりを回り続けなさい。あ、変なところに力を入れると……ほら、皮が裂けちゃうでしょうが。
いまのあんたは、あたしでさえヘタに手を貸せない状態。いや、むしろ悪化したり、とどめを刺しちゃったりする可能性さえあるわ。どんなにヘンテコで恥ずかしかろうが、死にたくなかったらあんた自身でどうにかしてもらうしかない。
血で汚れるくらいは我慢して。みっともなくても、ぐるぐる回り続けなさい。
ん……どうやら、止んだみたいね。
つぶつぶ、もういいわよ。これで異様な重さを感じたり、簡単に身体が壊れたりすることもないはずよ。血の汚れとかは拭いとくから、あんたはシャワーでも浴びて着替えなさい。
見た目には傷だらけだけど、最初の血さえ止めれば、あっという間に治っちゃうはずよ。最弱遊びでできたものだからね。
――なんで、こんなことをさせているのか?
さあ……ちゃんと神職の勉強をしていない私にはさっぱりね。
重要な儀式なのか、それとも人間が必死になるところ、あるいはぷちっと潰れるところをみたい気まぐれなのかは分からない。
でももし、いきなり目の前で奇矯なふるまいを始める人に出会ったのなら、中にはこのような音を聞いたうえで動いていることもあるかもね。




