星のいちご園
たいへんなことに、なった……。
ぼくは、りゅうちゃん2歳
こっちは、めいちゃん5歳
「パパ? ママ? どこー?」
ぼくたちは、てをつないでいた
まわりは、まっくらな森の中
いつもはいるはずのお月さまも、空にいなかった
さっきまで車にのっていたはずなのに…
パパとママも一緒にいちご狩りにいくところだったのに
きがついたら、ぼくとめいちゃんだけ暗い森の中に立っていた
「りゅうちゃん、なかないで。おねえちゃんがいるからね」
めいちゃんの手が、ぎゅっとぼくの手をにぎる
つめたくて、ちょっとふるえていた
ぼくは、めいちゃんの手をぎゅっとにぎりかえした
そのとき
ガサガサ、ガサガサ……
「?!」 「パパ? ママ? いるの?」
でも、返事はない
ガサガサ!ガサガサ!!
音がだんだんと大きくなった
「……あ!」
ぼくは、めいちゃんの後ろに隠れた
白い大きな何かが立っている
「お、おばけだ……!」
ぼくたちが逃げようとしたとき、そのおばけから変な音が聞こえてきた
『シクシク……シクシク……』
「あれ? 泣いてる?」
おばけは、地面にうずくまって、悲しそうに震えている
「りゅうちゃんあの子泣いてるよ。どうしたのかな」
「う、うん……」
ぼくたちは勇気を出して、おばけに近づいた。
「ねえ、どうしたの? どこかいたいの?」
すると、おばけがゆらりと動いた
『……ぼく、こんな体になっちゃったんだ』
白いシーツの下には真っ黒な姿のおばけがいた
『真っ黒に汚れちゃって、これじゃお家に帰れないんだよ。体を治すには「星のいちご」を食べなきゃいけないんだけど……。暗いし、怖いし、どうしても見つからないんだよぉ』
おばけは、また『うええーん』と泣き出してしまった
ぼくたちも、パパとママにはぐれて悲しい
怖い
でも、このおばけさんは、もっと悲しそうだ
「おばけさん、いっしょに探そ」
ぼくが言うと、めいちゃんも大きくうなずいた
「そうだね。私たちも探してあげるからもう泣かないで」
ぼくたちは、おばけの手を握った
「いこっ」
ぼくたちは3人で手をつないで、真っ暗な森の奥へと歩き出した
バサバサッ! 「うわっ!」
コウモリが飛んでくる
ホー、ホー。 フクロウの声が響く
しょうじき暗くて怖い…
ぼくは涙をこらえて、足を踏み出した。
めいちゃんも、しっかりとぼくの手を引いてくれる
「……あ! あそこ、何か光ってる!」
めいちゃんが指差した
暗い森の向こうに、ポウッとオレンジ色のあかりが見えた。
きがつくとおばけさんも一緒に走ってた
近づいていくと、あまーい、いい匂いがしてくる
暗い森の中でそこだけキラキラ光る不思議なおうちがあった
屋根も壁もガラスでできてるみたいにピカピカしてる
入り口に大きな看板があった。
「ほしのいちごえん?」
「ようこそ。おや……?」
おうちの入り口に、黒猫が立っていた
金色の目を丸くして、ぼくたちを見ている
しっぽの先についているランタンが、カチャン、カチャンと揺れた
「珍しい! こんな時間に、ちいさなお客様ではないですか。それと…」
黒猫さんは、ヒゲをピクピクさせて、ぼくたちと、おばけを交互に見た
そして、すべてを察したように深くうなずいた
「なるほど。ずいぶんとお困りのようですね。こちらへ」
黒猫さんが、ガラスの扉をキィーッと開けると
その瞬間、光の風がふわっと吹き抜けた。
「うわぁ…!!」
そこには見渡す限りの光るいちご畑が広がっていた
でもいつも食べている
いちごとは違う
ピンク、みずいろ、金色…
色とりどりのいちごが、まるで空からお星さまが落ちてきたみたいにキラキラと瞬いている
黒猫さんは畑の真ん中まで歩いていくと一番大きな金色のいちごを摘み取った
「さあ、これを召し上がれ。とれたての一番星ですよ」
『あ、ありがとう……』
おばけがパクッと食べたその瞬間だった
カッ――!!!
シーツの内側から、ものすごい光があふれ出した!
「わあ、まぶしい!」
ぼくとめいちゃんは、思わず目を閉じた
光はどんどん強くなって、森の隅々まで照らし出す
なんとおばけの正体はピカピカに光る、まんまるのお月さまだった
「ええーっ!!」
「おばけじゃなくて、お月さまだったの?!」
ぼくたちはびっくりして声を上げた。
真っ黒だった体は、きれいな金色に戻っている
お月さまは、ニコニコとやさしい顔でぼくたちを見た
『ほんとうにありがとう。やっと元の姿に戻れたよ。これでお空に帰ることができる』
お月さまが体をゆらすと、ふたつのやわらかい光が、ふわわんとぼくたちの手のひらに降りてきた
「わあ……きれい」
それは、お月さまの光をそのまま固めたような、まんまるで光るビー玉だった
ぼんやりと黄色く光っていて、とっても温かい
『私からのお礼だよ。これを持っていれば、夜道だって暗くない』
「ありがとう、お月さま!」
ぼくとめいちゃんは、その光るビー玉を大事にポケットにしまった
すると、黒猫さんがトコトコと近づいてきた
ヒゲをうれしそうにゆらしている
「さあ、案内してくれた小さなお客様。君たちも、ごほうびをどうぞ」
黒猫さんは、畑になっているキラキラのいちごを指さした
「この『星のいちご』を食べれば、お家へ帰れますよ」
ぼくたちは、一番キラキラしているいちごを選んで手に取った
宝石みたいだけど、甘くていい匂いがする
「いただきます!」
ぼくたちは、大きな口でいちごをパクリと食べた。
しゅわっ、ふわっ……。
「ん〜っ!」
ソーダみたいにシュワシュワして、わたあめみたいにフワフワだ
なんだか、とっても幸せな気持ちが体いっぱいに広がっていく
怖かったことも、寂しかったことも、全部とけていくみたい
まぶたがトロンと重くなってきた
そのとき
『――りゅう! めい!』
パパとママの声が聞こえた気がした
お月さまと黒猫さんが、にっこりと笑って手を振っている
まわりの景色が、優しい光にとけこんでいく――
………
「――りゅう! めい!」
「ん……?」
目が覚めると、ぼくはとっても暖かい場所にいた
まわりから、あまーい、いい匂いがする
パチクリと目をあけると、そこは広くて明るいいちごハウスの中だった
目の前には、真っ赤ないちごが、たーくさんぶらさがっている
「おはよう、お寝坊さんたち」
ママが笑顔でのぞきこんでいる。パパもニカッと笑った
「いちご狩りについたよ!」
「わあ……!」
ぼくもめいちゃんも、飛び起きた。 夢じゃなかった、本物のいちご畑だ!
「あれ……?」
でも、おくちの中がなんだか甘い
あの「しゅわっ、ふわっ」とした幸せな味が、まだ残っているんだ
ぼくは、こっそりズボンのポケットに手を入れた
(……あった!)
そっとのぞくと、ポケットの奥で【お月さまのビー玉】が、ポウッと小さな光を放っていた
となりを見ると、めいちゃんもポケットをぎゅっと握りしめて、ニシシと笑った
「さあ、いちご食べるぞー!」
「おー!」
ぼくたちは元気にお返事をして、真っ赤ないちごに向かって走り出した
(おわり)




