始まり、或いは終わり
注意書き
流血表現など残酷描写が多数あります。
苦手な方はご注意ください。
「お兄ちゃん!遊ぼ!」
「お兄ちゃん!また研究室?僕も連れてってよ!」
「お兄ちゃん、まーたどこか行くのー?」
「お兄ちゃん、パパとママはいつ返ってくるの?」
「お兄ちゃん、僕、またお留守番?」
今思えば、ずっと、1人だった。
でも寂しいとは思わなかった。
だって、画面の中にはずっとお兄ちゃんがいるから。
僕のために、この国のために、必死に頑張ってる。
歴史的偉人。
千年に一人の天才。
我が国の宝。
ニュースでお兄ちゃんが取り上げられてるとき、自分のことじゃないのに誇らしかった。
僕もあんな風になりたいって思った。
息を吸う、それだけで肺に酸素が染みてぐずぐずに痛んで、目を開くだけで光に目玉の奥が貫かれるような痛みに襲われる、こんな体に生まれたことなんて忘れてしまうぐらい。
僕にとってはどんなヒーローよりも、お兄ちゃんは光だった。
僕もあんな風にたくさんの人を助けて、たくさんの人にありがとうを言われて、誰かに憧れを抱かれるような人になりたいって思えた。
…思えたんだよ。
そう思って寂しいのも我慢してたんだよ。
痛いのも、我慢してたんだよ。
だからさ、お兄ちゃん。
ごめんね。
枯葉を踏む乾いた音が木々の隙間を通っていく。
まだ時刻は昼過ぎだというのにも関わらず森の中は暮れた後のように薄暗い。
俺たちに課せられたミッションは日没までに可能な限りパラドックスの駆除を行うこと。
ここでサバイバルスキルや能力の扱いを学べという訓練なんだろう。
「まあしかしいきなりこんなとこ放り込むなんてまーじでびっくりだよなぁー。なぁ相棒?」
突拍子もなく相棒と呼んでくるこのオレンジのツンツン頭の男はダクテオン・トキソプラズマ。駆除隊4期生の同期であり今回の訓練のペアだ。
「相棒…?」
「俺のこれまでの人生で培ってきた勘が言ってんだ。俺とお前は最高の相棒だってな。」
「なるほどな。」
面倒くさそうなので適当に流しておいた。初対面なのに距離感がおかしいなこいつ。
「ところで相棒、お前のディスク能力ってなんだ?戦闘に入ったときとか、お互い事前に知っといた方がいいだろ。」
「えっと、身体を刃に変形させる能力…なのかな。…でもごめん。俺自分の能力あんまよくわかってないんだよな。1度使ったことはあるんだけど、すぐ暴走しちゃって覚えてないんだ。」
ダクテオンは真面目な表情で口元に指を当て考える。
「…」
「…なるほど。つまり俺とお前の友情でお前の中の漢を更に磨きをかければいいってことだな。」
「いやそれは絶対に違う。」
もう数キロは奥へ歩いただろうか。
「にしてもパラドックスが見当たらないな。もう先にクリマキエラ達が仕留めてるのか?」
「いや、それは考えづらい。俺たちは北西部、彼らは南東部から攻めている上にこの森は数十キロに及ぶ広さだからな。運が悪いんだろう。」
「まあそうか。」
疲労が溜まってきた足で地面をしっかりと踏みしめ歩き出す。
「…いや、違うな。」
突然ダクテオンが立ち止まった。
「相棒、お前の感じた違和感は正しい。実際、パラドックスどころか生き物の気配すら感じない。まだ寒い時期なのもあるかもしれないが、植物の枯れかたも冬のそれじゃない。まるで病気だとか栄養失調みたいな感じだ。」
「…何かがおかしい。」
嫌な予感がした。
「伏せろ!」
刹那、黒い影と橙色の煌めきが視界に映ると、ダクテオンに抑えられ落ち葉まみれの坂道を転がり落ちる。
何だ…!?
爆発…?
待てよ…どこかで…!
「相棒!無事か!?」
「無問題!」
そう、俺はそれを見たことがある。
爆炎に呑まれた森の中、ぽつんと佇むそれを。
戦ったことがある。
黒煙を身体から漏らしながらこちらを振り向く人型のそれと。
其れを言葉に表すならばこう呼ぶのだろう。
ボムパラドックスと。
「…どうやら聞いてたパラドックスとはひと味もふた味も違うらしいな。」
パラドックスも生き物もなにもいなかった理由。森に蔓延る違和感。全部がわかった。こいつだ。
嵐を感じて生き物たちが安全なところへ隠れるように、パラドックスもまたこいつから逃げて隠れているんだ…!
ボムパラドックスはピピピと機械的な音を鳴らし何度も俺ら目掛けて爆発を打ち込む。
くっそ…近づけばやられるし逃げてても埒が明かない!能力を使ったとしてもこのままだとジリ貧だ…!気を抜けばでかいのを食らうな…。
「相棒!聞こえるか!」
パラドックスを囲うように反対方向に回避したダクテオンが大声で叫ぶ。
「今の爆発で通信機がイカれた!俺の能力でどうにかして本部のマグニさんに気づいてもらう!」
「ただ発動にはかなりのタメがいる!そのために陽動を頼む!」
「応!」
「そんじゃいっちょ、やりますか!」
ディスクを首に切りつけ挿入した。
パラドックスとの距離およそ2m。
爆発を起こすには相手も溜める時間が必要だ。
それを意識しつつ爆発以外の体術を捌き切る。
付かず離れずの距離感を保ち、ダクテオンにヘイトが向かないようにする。
そしてディスクに呑まれ暴走しないようにする。
意識することが多すぎる!
ブンと空気を切る重い音が耳の横を掠める。
危ねぇ!
数瞬でも遅れたら死ぬ!
集中しろ!相手の動きをよく見極めろ!
こいつは確実に頭や首、胴体を狙ってくる。
避けられなければ全てが致命傷になり得る!
上!振り下ろし!
振り下ろされるパラドックスの腕をどうにか間一髪で避ける。
「ダクテオン!まだか!」
その瞬間、振り下ろされた掌が眼前に迫る。
しまっ…!
「待たせたな!反撃の狼煙と行こうか!」
ダクテオンは赤熱した両手の掌をパラドックスの腹に翳す。
『スーパーノヴァ!!』
刹那、炎の柱がパラドックスの体を貫き、灼き尽くすが如く空を仰いだ。
「相棒!」
「応!」
炎に焼かれ怯んだ隙を長剣のように変形させた刃で一刀両断にする。
ダクテオンと俺の攻撃で確実にダメージを与えられる!パラドックスといえどこのダメージなら回復が追いつく暇もない!そして今の火柱に誰か気づけばマグニさんが助けに来る!
…いける。勝てる!このまま!
「「畳み掛けるぞ!」」
回復の隙を与えない!
攻撃を入れられる瞬間を見逃すな!
ダクテオンもさっきの反動か腕が焼かれてあれをもう一度撃つのは難しいはずだ!
その分俺が、削りきる!
確実に仕留めきれ!!
「カゼドラくん!!」
クリマキエラの声!よかった!救援が通じたんだ!!
目を一瞬逸らした。
爆風を感じた。あのときとはまた違う。
攻撃のためじゃない。移動のための爆発。
なんで目を逸らした一瞬のうちに全快してる…?
異常だ。おかしい。なんで何度も切り刻んだはずの腹や腕が全部元通りなんだ。
目を逸らした一瞬に何があった!
いいや問題はそこじゃない!!!
爆発の推進力を使った凄まじい速度の移動!!
その先にいるのは…!!!
「逃げろ!!クリマキエラ!!!!」
パラドックスはそのまま、移動のために爆発させた掌とは逆の赤白く熱を帯びた掌をクリマキエラの顔先に向ける。
「…えっ?」
一瞬の静けさ。喉に張り付く鉄の味を気にもとめずに叫んだ声ですら聞こえないほどの静寂。
そのしじまの中、赤熱した爆発音が真冬の乾いた森の空気を燃やし尽くした。
「おい…。なぁ…!…嘘だろ…!おい!!」
「返事をしてくれよ!!」
「マグニさん!!!」
さっきまで炎に囲まれていたにも関わらず凍てついた空気。
彼は胴に大きな風穴を開け、ほのかににこりと笑みを浮かべる。
漣の止まった凪のように淀んだ空気の中。
マグニフィカス・エニグマ。
彼はなにも言い残すことなく、その心の臓の音を静かに止めた。
お久しぶりです!命懸けご飯です!
前回の投稿からだいぶ経ちました!!すみません!!
個人的にはかなり書きたいシーンだったので最後のシーンは筆が乗りましたね。はい。
次回は今年中に投稿できたらなーと考えてはいます!
考えてはいますね。しかしもう年末ですよ。クリスマスですよ。
読者の皆様も体調に気をつけて良い年末年始をお過ごし下さい。
では!良いお年を!!




