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街は息を止めているのか、それとも潜めているのかすでに絶命しているのか。街にある電気で動く類のものは一つ残らずすべて停止していた。喫茶店の看板、スポーツ量販店のネオン、本屋の自動ドア、信号機でさえ息をしていない。神保町、地下鉄への階段を降り、改札口の前に立っても音がしない。改札口手前に誰かの落としていった財布が複数あった。その一つの中からICカードを取り出し翳してみても、反応はない。改札口は閉じられたままであり、それを飛び越えたところで咎める人は誰もいなかった。
駅構内の静けさを背に、ホームへと階段を下る。勿論、電車も動いてなどいないのだから待っていても電車は訪れない。電光掲示板は何も映していなかった。電車が来ないということだろう。心配ない。長谷川は地下鉄の線路へと飛び降りた。
神保町駅から本蓮沼と志村三丁目の間までは距離が長かった。電気がないのだからトンネル内は昼間でも真っ暗だ。途中、何台もの列車が駅ではない線路の上で停車していた。壁と列車との間をすり抜けるように、都営三田線を歩いた。
安全柵に本蓮沼の文字を見つけ、あと少しだと己を鼓舞した。神保町から歩いてきたことを考えれば何ともない距離。志村三丁目の手前、トンネルを抜ける少し手前、そこに停車している列車へと急ぐため、長谷川は走った。「そういえば……」と前にもこんなことがあったな、と回顧した。