タイトル未定2025/05/12 23:10
三年前、やってはいけないと知っていながら、人間のクローン化を実現した学者が出現した。彼がネット上でその事実を告白し、宣戦布告を唱える。「我々は何十年もかけて有能な塩基配列を持った人物たちを複製し、クローン人間を誕生させた。もう迷うことはない。我々がこの世界を制するにふさわしい」
その日を境に世界各国で殺人事件が多発した。最初に逮捕されたのはエドワード・スミスという青年だった。彼は囮のようなもので、わざと捕まったようなものだった。彼は警察の取り調べで、「俺が捕まったところで俺と同じDNAを持ったエドワード・スミスはあと五十人いる」そう言い終えたのを皮切りに、手錠を引きちぎり、素手で警官を皆殺し、脱走した。
手錠を引きちぎれる人間などそうそういない。それもまた、エドワード・スミスが残したクローン人間の恐ろしさの一つだった。筋力がゴリラ並みの塩基配列を知れば、簡単に人間に反映できる。頭のいい塩基配列を知れば、簡単に頭のいい人間を作り出せる。成長する過程で訓練させれば尚のことだった。
もはや、作れない人間はいなかったのだ。筋力がゴリラ並みの遺伝子を、核を除去した卵子に移植する。人間が成長する過程だけは縮められない。クローン人間だろうと赤ん坊から成人するまでの過程は通常の人間と同じ時間の経過を持つ。二十年前、学者は、多額の報奨金と引き換えに提供された卵子に大量の遺伝子を植え付けた。彼らが成長して確固とした強さを持つまでに二十年かかる。クローン人間が誕生し一年が経ち、二年が経ち――学者は待ちきれなくなった。
そうか、成長を早める塩基配列を見つけ、組めばいいのだ。
そうか、身体の骨格ができていない子どもは、戦闘員ではなく後援部隊にしよう。
そうして二十年経ち、最初に生まれたクローン人間たちはニ十歳になり、後を追って生まれたクローン人間たちはまだこの世に生まれて五年しか経っていないというのに、二十歳のクローン人間たちと変わらない体の大きさをしていた。通常の人間であれば五歳児である子どもは、パソコンのキーボードを容易に扱った。
さて、世界を制しに行く準備は整った。
一か月後、世界中の人口の八割が消えたとされた。残りの一割はクローン人間たちとクローン人間を操る者たちが多数を占めた。
今現在、この世にクローン人間、クローン人間を操る者たちの支配下に及ばない人間がいるかどうか、定かではない。