6.
駆け引きを無視して私はロードとの距離を詰め、強引に敵の剣ごと切った。ロードは倒れる。ヒーラーは残ったシャーマンに防御のバフをかける。だがそれは悪手だ。そのままのシャーマンを切る。これでも勇者だ。並大抵の防御魔法では、私の剣は防げない。
サポート役のヒーラーも、容易に首を切り落とした。
だが、冷静さを欠いた__。私は脇腹に一撃被弾してしまった。ヒーラーは防御をせずに、短剣で私を刺した。油断した、後衛でしかも魔法使いのヒーラーが、物理的に攻撃してくるとは思わなかった。
誰かの入れ知恵か?
「回復魔法」
不得手だが、初級の回復魔法を施しておく。このゴブリンは何かがおかしい。早く、二人を助けて体勢を立て直さねば。
二人の状況は芳しくなかった。ゴブリンの数はあまり減っていない。やはり、こいつらは強すぎる。
二人の援護のため、剣を再び握ろうとするが、剣は床に落ちた。金属がぶつかる音が洞窟に響く。
「あれ?」
屈んでもう一度剣を取ろうとするが、力が入らない。足の力も抜けてきて、歩行すら危うくなってくる。
「これは__毒?」
ゴブリンは武器に毒を塗ることも少なくない。しかし知識はないため、よく分からない毒を何種類も付けることもある。それが逆に一般人にとって解毒を難しくさせ、聖職者らに頼まないと命の危機となる。
しかし、ゴブリンが使用する毒は、基本的に微弱だ。それなりに経験を積んだ冒険者ならば、大した脅威にはならないはずだ。私も例に漏れず、低レベルの毒ならば影響はないはずなのだが__。
私の身体からは一気に汗が吹き出し、呼吸ができなくなる。まずい、二人の援護に回れない。死ぬことはないが、まともに体が動かない。
ふと昔のことが思い出された。私は傷口に手を当て、詠唱する。
「聖なる光」
すると、身体の毒は消えた。体力はだいぶ持ってかれたが、身体に力が入るようになった。毒に、闇が混ぜ込まれていた。こんなくどいことをする奴を私は一人しか知らない。
「聖なる大光」
私の光は辺りを照らした。すると壁の端に、黒いローブを被った人影が現れた。
やはりか。
魔族には珍しく搦め手が得意で、頭脳と狡猾さで四天王に成り上がった男__スライ・デビルだ。なぜこんな辺境の洞窟に奴がいるのかわからない。だが、このダンジョンに入ってからの違和感に、これですべて説明がつく。
やけに強いゴブリン、連携をとる上級のゴブリン、ゴブリン・ヒーラーの不意打ち、闇を含んだ毒。
変わらないな。お前は。
「久しぶりだな。スライ」
私はそのローブの人影に声を掛ける。
「お見事。さすがは勇者様だ」
奴は拍手をしながら言った。もちろん皮肉だ。私の仲間を皆殺しにしといて、それでも私を勇者と呼ぶ。
腹の中で憎悪が渦巻く。好都合だ。私のプライドや仲間を奪った憎き敵。ここで仇を討ってやる。
私の身体は考えるよりも先に、奴に飛びかかっていた。