3.
私は二人が戦闘を終えるのを待機していた。剣の先を布で拭く。
「ユウ!今よ!」
「おうよ!」
フォリアの身のこなしでゴブリンをユウのリーチの中へ誘導し、一網打尽にする。深手を負った敵にフォリアがとどめを刺す。
「よし、終わり!」
ユウが叫ぶ。
「よし、じゃあ後ろのやつらを__」
フォリアとユウが頷き合い、こちらを向くが、すでに装備の再点検を行う私を見て、呆気に取られる。
「もう終わったかしら?」
私は二人に少し意地悪く言った。師匠としての威厳は保てたかな。
「装備の再点検をしなさい。敵はまだまだいるわよ」
『はい!』
二人は言われるがまま、迅速に作業を行った。
「ねえ、ユウ」
「なんだ」
「見た?あいつらの目」
作業しながらもユウに話しかけるフォリアを横目で見る。
「ああ、見たよ」
ユウは優しい声で答える。
「最悪だった」
「そうだな」
フォリアの声が震えているのが分かる。それをなだめるユウも、自分がしっかりせねばと気丈に振舞っているのが見て取れる。2人とも、ちゃんと怖かったのだ。それでいい。
「この依頼は思っているほど楽じゃないわ。どうする?」
点検を終えた二人に告げる。実際、ゴブリンらが挟み撃ちなど、簡単ながらも連携取っているあたり、シャーマンやロードなど、上位存在がいるのは確実だ。ゴブリンが指揮系統の下で行動するようになれば、その攻略の難易度は一気に上昇する。
初心者向けの依頼として受注したが、思いのほかゴブリンの規模が大きかったようだ。
「行きます」
フォリアが先に答えた。
「フォリアが行くなら、私も」
ユウがそれに呼応する。
「分かった。気合入れなさい」
『はい!』
二人は腹を括ったようで、洞窟の先へ進んでいく。あれ以降襲撃はない。だが、私の勘が最大限の警戒を呼び掛けている。洞窟を進むと、二手に分かれていた。
「洞窟探検の鉄則は?」
私は二人に尋ねる。
「うーんと、何だっけ。思い出せない。えーと」
ユウが頭を抱える。
「空気の流れがある方に進む。ですよね?」
フォリアは余裕綽綽といった感じで答える。ユウはそうだったあ、と悔しがる。
「正解。この場合だと右ね」
空気は右側に流れている。出口はそちらにある。
「じゃあ、右に行くのですか?」
ユウが尋ねる。私は松明を消し、左へ進む。
「ゴブリン退治の場合は逆よ」
私は光魔法を光源に進んでいく。松明を消したのは、一酸化炭素中毒防止と、引火性のガスなどが噴き出ている可能性があるためだ。
「息は鼻で、細く吸いなさい。15分以内にさっきの道に戻るわ」
『はい』
私が指示する以前の段階で、二人は布を口元に当てていた。よし、教えたことはちゃんとできている。
道を進んでいくと、鼻につく嫌なにおいがする。血の匂いは慣れたものだが、それに混じって___。心配になり、二人の方を見る。彼女らも気づいているようで、次第に表情が堅くなってくる。
ゴブリンの討伐は難易度の割に報酬が高い。それでも多くの冒険者はそれを忌避する。その理由がこの先の開けた場所に広がっていた。
「うぷっ」
その光景を目にすると、ユウが耐えられず吐いた。フォリアは最初こそ耐えたものの、ユウの吐く姿に呼応して同じように胃の内容物を吐き出す。
懐かしいなあ、彼女らを見てそう思ってしまう自分に気づく。こんな光景、慣れちゃいけないはずなんだけどな。
そこには女性の下半身のみが散乱していた。