凸撃!貴方に晩ご飯!?(本番編)
終わりませんでした…。まだ続きます。
ガチで動画一本分の内容になりそうです。
「オリーブオイル、ニンニク、トマト、海老、カマンベールチーズ……よし!全部ありました!」
飯テロ企画本番当日。ジュイロのキッチンスタジオにて。
企画を始める2時間前に入り、黒田さんと材料の確認を行っていた。
まさか本当に頼んだ物を全部ジュイロ負担で用意してくれるとは…。マジ感謝。
……一つだけ企画内だけど企画外の物が混じってるけど、まぁこの後ダメだった時用に別のを買いに行けば良いだろう。
「OK。それじゃあ私はこれで失礼するわね。……そうそう。一つ良い知らせがあるわよ」
「良い知らせ?」
「ええ。貴方にはまだマネージャーが就いていなかったわよね?」
「あー。そうですね」
本来。事務所所属の配信者にはマネージャーが一人就いて、その人の配信活動をサポートをするのだが、俺にはまだマネージャーが就いていなかった。
「いやー。うちって面白い子をバンバン入れちゃうからさぁ。その分のマネージャーを確保するのがもう大変で…。遅れちゃってごめんねぇ。マネージャーたちにも、掛け持ちはなるべくさせたくなくて」
「いえ。それは別に気にしてないですけど、その話を持ち出すってことは…」
「ええ。一人いい子が見つかったわよ。まだ成り立てのマネージャーだけど、きっとノヴァちゃんと気が合うと思うわ」
おー。いよいよ俺にもマネージャーが就くのか。なんか芸能人になった気分。
どんな人なんだろうか?
「あと一時間もすれば来るはずだから、収録まで適当に雑談でもして親睦でも深めなさいな。それとその人なんだけど……」
───コンコン。
黒田さんからマネージャーのことを聞かされていると、扉がノックされた。
「はーい。入って良いわよ」
「失礼します」
入って来たのは、スーツに身を包んだ爽やかなイケメン男性だった。
身長は180くらいかな?モテそう。
「あら?早いわね」
「はい。ノヴァさんがもう来てると連絡が来ましたので、僕も早めにと思いまして」
「そうなの?別に伝えた時間通りで良かったのに。あ!ノヴァちゃん。紹介するわね。この人が貴方のマネージャーになる……」
「九重胡桃です。よろしくお願いいたします。貴方があのノヴァさんですか?聞いてはいましたが、本当に女性のような方ですね…」
丁寧にお辞儀で挨拶してくれる九重さん。
どうやらこの人が俺のマネージャーになってくれる人のようだ。
真面目で誠実そうな人だ。スーツはビシッとしてるし、髪はよく整えられている。
顔も髭なんか生えたことないのでは?と思えるくらい綺麗だ。あと童顔っぽい。
「はじめまして。スハ・ノヴァです。……ちなみに本名は名乗る必要って……」
「そこは好きにしていいわよ。たまーにマネージャーにも本名を言いたくない人もいるから」
「では普通に。本名は櫻葉優です。これから末長くよろしくお願いいたします」
「えっ。プロポーズ?」
「あはははははw気にしないで九重ちゃん。彼は日常的によくボケるのよ」
「失礼な。“よく”はボケてないですよ」
「ボケはしてるんですね…」
「それじゃあ今度こそ私は失礼するわ。他社のVTuber事務所と企画会議に行かなきゃだから、何かあったらまぁ……昴にでも連絡して」
※ジュイロの社長。
「「いやダメでしょ!?」」
日常的によくボケてんのは黒田さんの方だろ…。
「えー。コホン。では改めてよろしくお願いいたします。これからは何かあれば僕に連絡してください。お使いからスケジュール管理、企画の相談など僕に出来ることならなんでもします」
「それじゃあ納豆を一時間混ぜてもらうところから……」
「嫌ですよそんな苦行!?」
「だってなんでもって言うから」
「限度があります…」
そんな小ボケを挟みつつ、気持ちを切り替えて……九重さんは俺のサポートをしてくれるとのことなので、さっそく一つ頼むことにしよう。
「それじゃあ九重さん。さっそく頼まれてくれますか?」
「はい。なんでしょうか?」
「あと2時間くらいで花刃蕾寧々さんとテンペスト・シュナイダーさんがご来店いたします」
「ご来店…」
「そのお二人に俺の料理を振る舞って好感度を上げる……じゃない。親睦を深めようという企画をやります。題して『凸撃!貴方に晩ご飯!?』です。さすがに自宅にお邪魔はしませんけど」
「最初の目的はどうか冗談であって欲しい…。ネットで話題になってましたけど、本当にジュイロ2トップのお二人に料理を振る舞うんですね。ジュイロはずっと『自由なライバー活動』を方針に運営していますが、ここまで自由な人は初めて見たかもしれません」
「そんな褒めるなよ~♪」
「別に褒めてはいないのですけど…。だからと言って貶してる訳でもありませんが」
この人。ツッコミ適性が高いぞ。
まずいな。ボケずにはいられなくなってしまう。
「それで九重さんに頼みたいことなのですが、カメラマンをやっていただきたいのです。料理中はホルダーで固定しようかと考えてたのですが、やはり料理してる時に邪魔になってしまうので…」
アヒージョとカレーを試作してる時に使ったが、腕にぶつかるわ俺が小さいせいで頭にもぶつかるわで邪魔でしかなかった。
さすがに自分のチャンネルの撮影でカメラマンを用意してもらうのは気が引けたから頼めなかったが、せっかく俺をサポートするマネージャーが就いたんだ。有効活用しない手はない。こういう使い方をするのは合ってるのか知らんが!
「かしこまりました。では撮影時の希望などはありますか?何かこだわりがあれば合わせますよ」
「うーん。とりあえずこれから具材の下処理に入りますので、まずはそれを九重さんは自由に撮ってみてください。ぶっちゃけ俺も映える撮影というのはよく理解してないですし…」
「かしこまりました。それではさっそく始めますか?」
「はい。よろしくお願いします。……と言っても、ただ切ったりヘタを取ったりするだけですけど」
という訳で、九重さんに撮ってもらいながら、カレーとアヒージョに使う具材を切ったりなどの下処理をしていく。
彼は色々な角度から撮ってくれる。そのおかげでどの角度が一番見やすくて映えるかよくわかった。
結論としては、俺から見て左斜め前が一番良さげだということ。包丁で物を切れてるところがよく見えるし、工程がわかりやすそうだった。
そういえば料理番組でもこの角度が多いイメージだな。
「では本番はこのように撮りますね」
「はい。よろしくお願いします」
「……それにしても、台に乗って料理してる光景はなんというかその……可愛いですね」
「触れないでよそこには…。使わなきゃ料理しづらいんです」
ちょっとだけね。出来なくはないけど、やっぱ高さがあった方がやりやすい…。
道具の確認と手入れ。改めて材料の確認などを行いつつ九重さんと談笑していると、あっという間に2時間が経過した。
時間は17時半。晩ご飯を作るには良い時間帯だ。
スタジオの扉がノックされる音が響く。どうやらお客様がいらっしゃったようだ。
「はーい。どうぞー」
「失礼しま~す」
「失礼します」
入ってきたのは、露出の多い格好をしたスタイルの良い綺麗な女性とキリッとした顔立ちのイケメンの男性だった。
「どうも~。花刃蕾寧々で~す」
「テンペスト・シュナイダーです。本日は招待していただき、ありがとうございます」
「ちょっとお堅いよテンペスト。もっとフランクに行きなぁ」
「君はフランク過ぎると思うよ…」
「スハ・ノヴァです。本日はよろしくお願いいたします」
「お?キミがあのノヴァくん?……ヤッバ。ちょー可愛いじゃん」
花刃蕾さんは、髪を金髪に染めている派手めのギャルみたいな感じだ。身長は170を越えてるくらい。女性にしては高め。
自身のスタイルに相当自信があるのだろう。胸の谷間がガッツリ見えてる上に、お腹も思い切り出してるノースリーブのシャツを着ている。しかもパーカーを二の腕を出すようにして羽織っており、叡智さが半端じゃない。白い素肌が眩しい。
超短いジーンズタイプのパンツを履いていて、鼠径部が見えている…。俺のVモデルみたいな着こなし方だな。
「こんなにエロい人を、俺は他に知らない」
「ノヴァさん!?」
「ノヴァくん!?」
「おっとつい心の声が…」
率直な感想がつい口から出てしまった。
まずいな。俺終わったか?
「アハハハハハ♪いいじゃんキミ~。正直な子は好きだよ。てかノヴァ“くん”で本当に合ってんの?最初こっちの人が中身なのかと思った」
よかった。心が広い人だった…。
「(ほっ)ノヴァさんのマネージャーの九重胡桃です。よろしくお願いいたします」
「へぇ~…。そう。じゃあ本当にこの子がねぇ……」
花刃蕾さんがジーッと、頭の天辺から爪先まで俺を値踏みするように見つめてくる。
……なんかこそ痒く感じるな…。それに美人にこんなに見つめられるとドキドキする。
(まずい。ノヴァくんの容姿が完全に寧々の性癖に刺さってしまっている…!)
「そ、それで。もう撮影の準備は出来ているのかい?」
「あ。はい。お二人が良ければ、いつでも始めれます」
テンペストさんは普通にカジュアルな格好をしている。身長は平均くらいはあるだろうか?
白のジャケットの中に黒のシャツ。下は楽な方が好みなのか、ジャージという組み合わせだ。
花刃蕾さんとは対照的に、かなり落ち着いた格好だな。
「それじゃあさっそく頼めるかい?食い意地を張るようで申し訳ないけど、お昼は案件で忙しくて食べられてないんだ。もうお腹が減って仕方がなくて…」
「かしこまりました。では準備が整い次第、さっそく始めましょう!」
挨拶もそこそこに、二人が準備してる間にこちらもカメラと道具の最終確認を行うことにする。
いよいよ本番。まぁいつも通りにやるだけだ。あとは撮影中お二人と雑談することも意識してね。
「……テンペスト?」
「ごめんよ、邪魔して。でもあのまま放っておいたら、君がノヴァくんに何しでかすかわからなかったからさ…」
「まぁぶっちゃけストライクゾーンではあるけどさ。別にそこまで節操なしって訳じゃないんだから、アンタが不安になることなんかないっての」
「それならいいんだけどね…」
「凸撃!貴方に晩ご飯ーーー!?本番当日です!まずは今回のゲストのご挨拶からどうぞ」
「やっほー。今日もゆるーっく生きてる、花刃蕾寧々だよぉ」
「今日も皆を守る盾になる。テンペスト・シュナイダーです。よろしくノヴァくん」
「はい!こちらこそよろしくお願いします」
皆の準備が整い、撮影を開始した。
スイッチが入ったからか、二人の雰囲気が一気に変わった気がするな。
そんな二人に呑まれないように、しっかり料理企画を遂行するとしよう。
「いやー、まずは謝罪を。記念すべき第一回で、まさかジュイロ2トップのお二人にそうとは知らず凸撃してしまった勉強不足の不出来な新人をどうかお許しください…」
「いやまぁ、それは別に気にしてないんだけどさぁwでも本当に驚いたよあれ?配信してたら急に電話掛かって来てさ。誰かな?って思ったら今話題の期待の新人くんだった訳だから」
「私も収録現場で待機してる時に『え?なんで私に電話を!?』ってビックリしちゃって、最初出れなかったんだよね…。すぐにチャットを送ったけど」
「アンタ初対面にすげぇ緊張するタイプのコミュ障だもんね~」
「うるさい」
「いや本当に申し訳ないです…。ですがそれはそれ!これはこれ!相手が箱内トップだろうが日本一のVTuberだろうが関係なくもてなして交流を深め、好感度を稼いでいくのがこの企画の目的ですからね。特に好感度を稼いどけばいざっていう時に助けてくれますからね。頑張っちゃいますよ俺」
「好感度云々を言う必要ある!?」
「アハハハハハ♪おっもしろいこの子w」
適当に小ボケを挟んだことだし、さっそくリクエスト発表してもらって料理パートに行くとするか。
テンペストさんがお腹ペコペコらしいんでね。
「本来ならもう少し雑談を挟むべきなんでしょうけども、さっきお二人と挨拶した時にですね。テンペストさんが『腹減ってるから早く食いたい!早く始めろっ!』と食い意地を張ってましたのでね。もうさっそくリクエストの方を言ってもらってもよろしいですか?」
「それだけ聞くと私クソ野郎じゃないかい!?事実っちゃあ事実だけど、言い方が悪すぎるよ!誤解を招かないかそれ!?」
「いや実際テンペストはそういう奴だよ」
「違うよ!?え?違うよね…?」
「否定しといてすぐに不安になんなよぉw」
「さっきも圧が凄かったですからね。どこぞの圧王と圧神もビックリなくらい怖かった」
「やめてよ!?本当に私が最低な奴みたいになっちゃうじゃないか!仕事の関係でお昼を食べれなかったから、早く食べたいって食い意地張っちゃったけどさ…。多少は大目に見てくださいよ二人とも」
「はいwすみません悪ふざけが過ぎましたwじゃあ結局少し雑談しちゃいましたが、リクエストの発表の方をお願いします!」
「了解~」
俺がリクエストを促すと、二人は声を揃えてリクエストを発表する。
「「カレーとアヒージョをお願いします」」
「はい!ありがとうございます。承りました~。という訳で第一回目は、テンペストさんがカレー。花刃蕾さんがアヒージョをご所望でございます!ちなみに花刃蕾さんは激辛アヒージョが食べたいということなので、ただただテンペストさんが犠牲になってしまいますね」
「え?」
「お可愛そうに。明日はテンペストさんのお尻が大変なことになりそうです」
「うそでしょ!?え?私も激辛アヒージョを食べるの?普通にカレーだけ食べる気でいたんだけど???」
「アハハハハハwww」
「すみません、さすがに冗談ですwテンペストさんの分はまた別で作りますので安心してくださいwその証拠にほら。スキレットのフライパンを二つご用意してますんで」
九重さんに二つ並べたスキレットを撮ってもらう。
アヒージョといえばスキレットをそのまま皿にして食べるのが醍醐味だと個人的に思うのでね。良いのを二つも買っちゃった♪
「はぁ~、よかった…。割とマジで焦ったよ」
「いやーwうちはちょっと食べてみて欲しかったけどねw」
「冗談じゃない…。こっちは激辛料理を食べてる君を見てるだけで汗が出るんだよ」
「それでは調理を開始したい思います!と言ってもある一つの食材を除いて、このようにほとんど下処理は終わらせてあるんですけどね。というのもですね、その下処理してない食材がとんでもないものでございまして。他を先に終わらせておかないとかなり時間が掛かると思ったんで事前にやっときました。その食材がこちらのデッカい発泡スチロールの中に入ってるんですけども…」
九重さんに発泡スチロールを映してもらう。
明らかに普通の大きさではなく、業務用か何かにしか見えないものだ。
「あー。それさっきから気になってた。何入ってんのそれぇ?」
発泡スチロールの箱を開けて、中からアヒージョの材料となるとんでもない大きさの魚を取り出す。その魚とは……
「よっこいしょッ!じゃーん!サーモンです!まずはこちらを捌いていきたいと思います!!!くっそ重いッ!?」
「「えーーー!?」」
「正気かい?そんなのを使うの!?」
「うそでしょぉ?デッカぁ!?どのくらいの大きさなのそれ?」
「120センチ!いやー、これ。俺は小ぶりで良いって言ったのに、ディレクターさんが知り合いの養殖家の方からこんな大物を取り寄せやがったんですよ…。こっちの方が映えるだろうって。俺の労力のことを全く考えちゃくれねぇあの人。こんなん捌くの初めてだっつーの」
((絶対黒田だ…))
ここまでの大きさになるとまな板なんてほぼ無いに等しいので、テーブルの上にラップを三重くらいにして敷いてそこに置いた。
いやマジでデカいなこれ…。絶対余るじゃん。余ったら刺身にして事務所の人とかに渡そう。
台も持ってきて高さを稼ぎ、さぁいざ始まります!サーモンの解体ショー!!!
「それじゃあさっそく捌いていきますか。まずは鱗取りからですねぇ。結構気持ちいいですよこれ」
「台に乗って身長稼いでるwちょー可愛いんだけどw」
「そこツッコまないで欲しかったなー!結構恥ずかしいんですからねこれ!?」
「はははははw寧々がごめんねー」
出刃包丁を手に取り、鱗の流れに逆らうようにしてジャリジャリと取り除いていく。
大きい分当然、鱗の量も半端じゃない。2、30秒もすれば小さな鱗の山が出来た。
「おー。確かにこれは気持ち良いね。私、生で解体ショー見るの初めてだけどさ。既になんか楽しいねこれ」
「わかるぅ。解体ショーってこの時点で見てて楽しいもんなんだね。……なんかうちアレを肴に酒飲みたくなってきた」
「あとにしてね…」
およそ10分ほど時間をかけて、鱗を取り除いた。
取れてない鱗が無いかよくチェックし、いよいよサーモンを本格的に捌いていく。
「サーモンを捌く時は、まず顎下辺りから腹を切っていきます。そしたら内臓を取り出しまーす。一応内臓はモザイク処理しときますねぇ」
そうだ。皆の守る盾らしいし、テンペストさんのVモデルで隠そう。そうしよう。
手早く慣れた手付きで腹を切り、内臓を取り出していく。
大きいから苦労すると思ったけど、意外とそんなんでもなさそう?ただ時間が掛かるだけで、小さい魚を捌くのとなんも変わらない気がする。
「おー。思ったよりグロくないねぇ。牛とか豚の内臓だと結構グロく感じんだけど」
「そう?私はそっちも特に何も感じないから、よくわからないな」
「アンタ昔からグロゲーよくやってるもんね…」
「そんで内臓を取り出しましたら、次に血合いに包丁を入れて水洗いしていきまーす。ちなみにお二人は『血合い』って何か知ってます?」
「え?……知らないな。寧々は?」
「うちもよく知らんけど、血管のことじゃないの?」
「まぁ血合いって聞いたら血管か何かだと思いますよね。実は血合いって筋肉なんですよ」
「「筋肉!?」」
「はい。あのー、赤身ってあるじゃないですか?赤身に多く含まれてるのが血合い、もしくは血合肉と呼ばれる筋肉なんですね。“サーモンは白身魚”なのでそんなに多くは含まれてませんけど、あるにはありますね。俺は食べたことないですけど、珍味らしいです」
「待って待って。そんなにうちの頭じゃ理解が追い付かないことをバンバン言わないで…。え?サーモンって白身魚なん?」
「うっそ。あんな赤っぽいのに?」
「あー、はい。そうですよ。鮭やサーモンって食ってる物の成分で身が赤くなるだけで、立派な白身魚の仲間ですよ。実際産まれたては身が白いですし。赤鼻のトナカイの群れの中に青鼻のトナカイが混じってるようなもんですね。見た目は違うけど本質は一緒」
「「へぇー」」
「ノヴァちゃんって詳しいんだね~」
(いつの間にか“ちゃん”付けに戻ってる…)
サーモンの解説を挟んでるうちに、水洗いまで終わらせる。
キッチンペーパーで綺麗に水気を拭き取った後、頭を落とす作業に移る。
「次に頭を切り落とすんですけど、背中をこっち側に向けてですね。サーモンの背びれが頭に残るようにして、斜めに包丁を入れて中骨まで切っちゃいます。そしたらひっくり返して、こちらも斜めに切って頭を完全に落とします。遠慮なく介錯してやってください」
「切腹したのそのサーモンw」
「とっくにノヴァくんの手で切腹されてるよねw」
「そんで次に、腹から中骨に沿って包丁を入れて~。尻尾の手前まで行ったら、尻尾の根元部分を上から包丁を入れていきます。そしたら今度は背中側を中骨に沿って包丁を入れていけば~……よいしょ!これでまず一枚おろせました!いやー切るのは問題ないけど、持つのが大変だこれ…」
「「おーーー!」」
二人から細やかな拍手が送られる。
サーモン特有の鮮やかなオレンジ色が輝いて見えるぜ。
「反対側もですね。同様に中骨と身の間を沿うように切れば、三枚おろしの完成でございます」
三枚におろした後は小骨抜きの作業とか地味な物なので、やりながら花刃蕾さんとテンペストさんと適当に雑談でもするか。
「お二人はかなり親しげですけど、昔からの付き合いなんですか?」
「そうねぇ。うちとテンペストは幼馴染みだからさぁ。よく一緒にご飯食べに行ったりしてんだよね~」
「寧々が一人でお洒落なカフェやカラオケに行くのは恥ずかしいからって、無理矢理私を連行してただけなんだけどね…」
「休日は出不精のテンペストには良いお出かけになってると思うけど?」
「そのせいで私と君が付き合ってると周りからよく冷やかされてたけどね…。あと理不尽な男子の嫉妬の視線がヤバかった」
「テンペストさんマジで苦労人なんですね。花刃蕾さんに対しては」
幼馴染みかぁ。だから二人はこんなに仲が良い訳だ。
「やっぱりあれなんですか?幼馴染みは恋愛には発展しないんですか?」
「「しないなー」」
「私は強引でギャルな女の子はちょっと…」
「うちは小さい男の子が大好物だから。でも現実は合法ショタってのがいないせいで、全然相手が見つかんないんだよねぇ…」
わお。花刃蕾さんまさかのガチショタコン!
非合法に手を出してないだけまだ偉いとか言われてそうだな。
「ジュイロって恋愛OKなんですか?」
「社内も社外も恋愛OKだよ、うちは。マジフリーな事務所だから」
「社内で誰と誰が付き合ったとか別れたとかいう話を聞くのは、あまり良い気分じゃないけどね…。よくこれで皆仲良くやれてると常々思うよ」
「とか言って、実は裏では不仲ってやつですねわかります」
「それは聞いたことないけど、実際ありそうだから怖い…」
「大丈夫だってぇ。仮に不仲だったとしても、仕事とプライベートはしっかり分けられてるってことだしさぁ。気にせずやってこうよ。……ちなみにノヴァちゃんは恋愛経験とかあんの?」
サーモンの小骨抜きが終わったタイミングで花刃蕾さんに聞かれる。
アヒージョに使う分を切り分けながら答えていく。
「地球のことをよく知る為に、中学生に扮してた時に一回だけ好きな女の子が出来たことありますよ。その子めっちゃ優しい上に可愛かったし」
「お?マジで。告ったりしたの?」
(宇宙人設定を忘れずにいられるの凄いな…。私なんて自分の設定が騎士以外ほぼ忘れまくってるのに)
「その前に、恐らく俺の可愛さに嫉妬して虐めて来た女子連中のリーダーだったことがわかって、百年の恋なんてする前に冷めましたね」
「「あ~…」」
「なんかあるあるらしいね、それ…。虐めの場面があるアニメとか、トゥイッターで共感の声がよく上がってるし」
「確かにノヴァちゃん。女の子のくだらない嫉妬を受けそうなくらい可愛い顔立ちしてるもんね…。そんなことする暇あんなら自分磨けばいいのに。災難だったね?」
「いやー。そうでもないですよ?それ以降は性格悪い女に騙されることは無くなりましたからね。良い経験でした」
「「ポジティブ~…」」
「まぁディレクターさんやイルミネーションのお二人が、俺はガチで可愛い男の娘系だって教えてくれましたからねぇ。おかげで“アイツら男の俺に嫉妬してたんだ!ぷぷーwダッサ♪”って今も心の中で馬鹿にしてやってますからね!」
「「いやつっよwww」」
「メンタル強すぎでしょwそんなメンタルうちにも欲しいわ~」
「素直に見習いたいwその姿勢はw」
暗い話で終わりにはせず、最後には無理矢理笑い話に持っていく。
実際。ちょっとトラウマではあるが、良い経験だったのは間違いない。配信や動画のネタに出来るからね!
まぁあんま多用するべきではないから、時々しか話題に上げないけど。
「さぁ!やーっとサーモンの下処理が完了しましたっ!こっちの切り身はアヒージョに。残りは適当に刺身にでもして、今事務所にいるライバーさんとかスタッフさんたちに押し付けたいと思います!」
「お裾分けするんじゃなくて!?」
「アハハハハハ♪言い方悪くしないと気が済まないのかなこの子w」
「さて。サーモンの他に入れる具材ですが。ニンニクはもちろんのこと。ブロッコリーにトマト、エリンギに海老ですね。そしてローズマリーも入れたいと思います」
「はぁい先生~。ローズマリーは何の為に入れるんですかぁ?」
「良い質問だ花刃蕾くん!ローズマリーは血行促進の効果があるハーブの一種でね。香り付けにも便利だから、料理人から重宝されてるのさ!」
「なるほど~。そうなんですねぇ♪」
「なんのキャラやってんだい二人とも?」
「ちなみにこれ生で食えるんですよ。テンペストさん、試しに一つかじってみてくださいよ。ちょっと癖がありますが、バカ旨いっすよこれ」
「そうなのかい?じゃあお言葉に甘えて……」
実はちょっとした冗談だったのだが、まさか素直に受け取ってしまうとは思ってなかった。
だから止める間もなく彼はローズマリーを口に入れて……
「ゴフッ!?なにこ、れブフー!?ゴホ、ゲホ!?全然ちょっとじゃな……ゴホォ!?」
「アハハハハハハハハハwwwバッカじゃないのテンペストwハーブは生で食うもんじゃないってぇwwwうちでも知ってるよw」
「す、すみませんテンペストさんwまさか本当にかじるとは思わずwあっははははははwww」
「だって美味しいって言うんだも~ん…(泣)騙したなー!?」
「だって普通ハーブを生で食おうとは思いませんもんw騙したつもりはなかったんですってwww」
「あーもうダメぇwお腹痛いwww」
「もー絶対美味しいカレーとアヒージョを作ってもらうからね!?じゃないと許さないよ!」
「あーもう、そこは任せてくださいw全力でやらせていただきますwとりあえず水どうぞw」
そんなプチ事件もありつつ、いよいよ具材をオリーブオイルで煮込む行程に移る。
「さて気を取り直して。スキレットにオリーブオイル、ニンニク、ローズマリーを入れて弱火で熱して香りを抽出していきます。アヒージョって煮込む段階まで来たら後はもう凄く簡単でございます。なんせ熱したオリーブオイルに具材を入れれば良いだけですからね。お洒落な名前してるから難しそうって思う人がちらほらいるんですけど、全然そんなことはありません。だって下処理済みの野菜とか海鮮とか肉とか買って、適当にオリーブオイルの中に放り込むだけで良いんですから」
「「あ~」」
「そう聞くとめっちゃ簡単そうだね」
「全然料理しないうちでも出来そうだわぁ」
二つのスキレットを使って同時進行で進めていく。
だが片方はもう一つばかり食材を……というよりスパイスを入れなければならない。それは……
「えっと…。花刃蕾さんにお聞きしたいのですが。激辛アヒージョの為にですね。ディレクターさんには唐辛子を用意して欲しいってお願いしたんですよね」
「あー、まぁやっぱ激辛の定番だよねぇ。唐辛子は」
「はい。そうなんですけども……本当に“これ”。入れます???」
花刃蕾さんとテンペストさんに、皿に乗っけた唐辛子を見せる。
それはやや丸っこく、シワシワな見た目をした唐辛子だ。一見大したことなさそうだが……
「えぇ!?それってもしかして……」
「なんだいそれ?唐辛子、なのかい?初めて見るけど」
「やはり花刃蕾さんは知ってましたか。打ち合わせの時に“うんっと辛くして”と言うだけのことはありますね。……こちら。知らないテンペストさんとカメラを持ってくれている、同じく顔に『?』を浮かべている俺のマネージャーさんの為に説明させていただきますとですね。『キャロライナ・リーパー』という、世界トップクラスに辛い唐辛子の一つでございます!」
「「えっ?」」
「やっぱりー!うちそれめっちゃ好きなやつ~♪」
「「「うそでしょ???」」」
思わず九重さんも一緒になって声を上げた。
「え?そんな喜びます?てか好きって……」
「うん!めっちゃ嬉しい~♪それ使った激辛料理店とかよく行くからさぁ」
「うそだろ…w化け物だったこの人w」
「えっと……ちなみにそれ、どのくらい辛いんだい?世界トップクラスとか言ってたけど…」
「あのー。普通の唐辛子のスコヴィル値……要は辛さの値なんですけど。それが5万~10万とからしいんですよ。辛い料理を作るなら、それ一本でもう十分なんですけども…。それに対してこのキャロライナ・リーパーというのはスコヴィル値160万とかいう、およそ人が食うもんじゃない辛さしてるみたいなんですよ。どれくらいヤバいかって言うと、たぶん汁かな?素手で触れたら腫れるそうです」
「ヤッバ!?完全に危険物じゃんそれ!」
「はい。なんなら噂だと死人も出てるそうなんです。それをあのディレクターさんは取り寄せやがったんですよ」
「黒田ーーー!?!?!?」
「黒田~♪ありがとうー♪うちマジめっちゃ嬉しいー!」
「ディレクターさんの名前を出さないでくださーい…。それで、えっと……花刃蕾さん?どうやら貴女様は相当こちらがお好きなようですが、どのくらい入れますか?」
「入れれるだけ入れて♪」
「「うそだろ…」」
入れれるだけ…?こんな触れるだけでもアウトな物をか?
化け物かこの人?
「下手したら喉と食道と胃と腸とお尻がダメになりますよ?最悪、肺と肝臓もやられかねない」
「大丈夫だってぇ。うちマジで辛い物はいくらでもいけちゃうんだ~♪」
「激辛好きなのは昔からだったけど、まさかここまでだったとは私も知らなかったよ…」
凄く気が引けるが、お客様がご所望なんだ。
ただなるべく見映えだけでも良くしたいし、五つ入れて線で結んだら星……というより五芒星の形になるようにするか。
「五つも入れたら単純計算800万スコヴィル行きますよ…。体調崩しても知りませんからね?」
「平気平気ぃ。その証拠をすぐに見せたげるからさぁ♪」
という訳で花刃蕾さんのスキレットにサーモン以外の各種具材とキャロライナ・リーパーを投入。サーモンは他が煮詰まってから入れるから後回し。
「ッ!?!?!?あ゛ーーー!ヤバい!?匂いがヤバいっすもう!?汗がブワー出てきた!!!」
「私もダメ私もダメ!?どっかのスタジオに空気洗浄器置いてあったはずだから持ってくるわ!」
「大袈裟だなぁ、二人とも。こんなに良い匂いなのに」
「「この化け物がよぉ!?」」
この後サプライズ食材みたいな感じでカマンベールチーズを入れる予定だったのに、思い切り霞むじゃねぇか…。
この話だけで1万2000字ですよ?長いっすね…。
自分ゼン○ロやってるんですが、新キャラくっそ強いし楽しいしで最高ですね。
ちなみにお冷めな娘はこれからも全然使います。使いたい時に使えるのはアクションゲームの良いところですな~。




