大物爆誕。大先輩だろうと動じない。
時は遡り、昨晩の配信終了後のこと。
ベッドの上で、初配信でいきなり事故ったことによる羞恥心で超新星爆発してた時のこと。ただ暴れてただけとも言う。
黒田さんから電話が掛かってきて、笑いながら慰められた。
『いやーw初配信からいきなり事故るとか、ドンマイだねぇ。ノヴァくんw』
「観てたんなら電話くださいよ…。大恥かいちゃったじゃないですか」
『それは君の自己責任というものよ。それに面白かったし、あのままにした方がいい気がしたしね。ネットじゃ大バズりよ?結果オーライでいいじゃない』
「釈然としないな~…」
『それはそうと……』
黒田さんが一呼吸置いて、空気を入れ替えたのを感じる。ここからは大事な話っぽい。
『明日は暇かしら?』
「え?まぁ暇ですけど…。適当にゲーム実況でもしようかな~って思ってました」
『そう。じゃあちょっと朝からうちのスタジオ来れるかしら?さっき料理の紹介してたところを観て、いい企画を思い付いちゃってさ』
「いいですけど…。一体何をする気ですか?」
そう聞くと、電話越しにも関わらず黒田さんがニヤっと口角を歪めたのを感じた。
『食材はこっちで適当に用意しておくから、キッチンスタジオで料理を作って欲しいの。そしたらそれを、イルミネーションにお任せあれ!の新人紹介企画の時に出すの。大型新人を盛大に売り込む、絶好の機会だと思わない?』
それで引き受けたは良いものの……まさか現場に着いた途端に女性スタッフに成りすましてと言われるとは思わなかったな…。そして全然男とすら思われないほど自分が女顔だったことに驚いた。
楽しかったけど、なんか複雑だったな~…。
「改めまして、スハ・ノヴァさんです~!」
「いぇ~い♪」
一度カットを挟み、二人に挟まれる形で再開してユウタさんに紹介され、それに合わせてピースをする。
俺はまだ動かせるのが頭と胴体だけで、ピースしても意味ないのだが…。
ちなみにイルミネーションの二人の中身だが、ユウタさんは髪が肩まで伸びている優しそうな顔をしたイケメン男性だ。身長はVモデルよりも高く、普通に平均くらいはありそうだ。
ショウタさんはVモデルは優しいお兄さんみたいな感じだが、中身は意外と強面系だ。元ヤンに見えるくらいには目付きが鋭い。身長はVモデル同様、高身長だ。180は余裕で越えてるだろう。見上げるの辛い。
「あ~。やーっと長ズボン脱げた!俺には暑いのよねあれ!?」
「「ぶふっ!」」
撮影再開早々、己のキャラデザを活かしたボケを入れる。
実際の俺は長ズボンを履いたままである。
「そうなんだwズボン履いてるとそんなに暑いの?」
「そうなんですよ~。俺ってば太陽の熱とは無縁の星の爆発で産まれたもんですから、ちょっとでも着込むとすぐ熱が籠るんですよ…。だからなるべく“凄い格好だけど、まぁ割と見掛けなくはない涼しい格好”で過ごす様にしてますね」
「なるほどな~w(設定しっかりしてんな…)。てことはアレなんだ?ノヴァ様は気温が全体的にめっちゃ低い星から産まれたから、熱とかには弱いんだ?」
「あ!正しくその通りです。勘の良いショウタさんは嫌いじゃないですよ~」
「本当?やったー!」
「ノヴァ様呼びには突っ込まないのねw」
「いやもう、俺への呼び方についてはどうぞご自由にって感じですね。本当に好きに呼んじゃってください」
「マジで?じゃあこれからも様付けで呼ぶわ」
「完全に定着した頃になってご新規さんが見たら、ノヴァくんの方が先輩だって勘違いしちゃうねこれ…」
確かにジュイロをまだ知らない人からすれば、そう思う人はいるだろうな。
ならばユウタさんのその言葉をフリと捉えよう。
「おいショウタ!俺がこうしたら煙草だろうが?さっさとしろやテメェこらナメてんのか、ああん!?」
「「ぶっははははははwww」」
「す、すみませんwww今、お持ちしますw」
「ああいや、俺吸わないんでガチで持って来る必要ないですよw」
「ああそうですかwわかりましたwww」
「いやー。本当に凄い子が来たなぁwww」
突然のキャラの変貌ぶりに思わずと言った様子で笑う二人。
イル任の動画や配信の切り抜きを観て思った通り、ウケ狙いの失礼な態度には寛容なようだ。むしろ好ましく思ってそう。
「ノヴァ様ってマジで面白いな。実は結構、こういう場に慣れてる感じ?」
どうやらショウタさんはマジで様付けで定着させる気のようだ。
「全然?あのー、配信活動自体は本当に昨日からですし。人前でこういう面白いことをやる~ってのも一度もやったことがないですねぇ」
「えーウソだぁwだとしたらノヴァくん天才すぎるでしょ?なんかやってたことないの?人前で何かするような仕事とか」
「あー、いや。自分リーマンでしたけど別に営業経験とかなかったんで…。3年でやめちゃいましたし」
「「3年!」」
「え。でも3年もやってたら営業とかやるもんじゃないの?」
「うーん。ほとんどデスクで資料作ったり纏めたりしてばっかでしたからねぇ。上司にめっちゃ仕事押し付けられてましたし」
「うわ!?ブラック企業ってやつだ!ちょっと会社名教えてくれよノヴァ様。俺が潰して来るからよ!?」
「野蛮だな~…」
「いやそんな悪いですよ…。しかもミーチューブに投稿されるんですよこれ?そんな会社名なんて言えるはずないじゃないですか…」
「まぁやっぱそうだよな。じゃあ後で裏でこっそり」
「○✕△□(自主規制)って会社なんですけどね」
「「言うんかいwww」」
ジュイロ発足時から活動している大先輩二人を相手に堂々とボケまくる。
こうやって誰かと楽しく喋るなんて、本当に久し振りだ…。
「まぁ一旦雑談は置いといて、大事な本題に入りましょうかw」
「本題?楽しくお喋りするのが目的じゃないんですか?」
「いやそれも目的だけどねwていうかずっと僕らがやってたこと見てたでしょ貴方w」
「ああそうでしたw」
「まぁもう一度言いますけど、本来はこれお悩み相談なんですよ。なのでノヴァさん。何か僕らに相談したいこととかありますか?」
「ない」
「「ない…?」」
新しい職に就けた今。悩みらしい悩みは俺にはない。
強いて言うなら動画と配信の企画が思い付かないことだが、それは自分でなんとかすることなので相談するようなことではないだろう。
「はい。他の新人さんみたいに“どうやったら売れるか?”なんて悩みはないですね。マジで」
「えーマジか。じゃあノヴァくんはもうどうやって自分を売っていくかとか決めてるの?」
「あったり前じゃないですか。そうじゃなきゃこんなこと言いませんよ」
「「おー!」」
「まぁ何のプランもないんですけどねwww」
「「おいっ!?」」
「でもそういうのは自分で解決することですから。もちろん“こういう企画やりたいんで、手を貸してくれませんか?”とかコラボのお誘いしたり、逆に受けたりはするでしょうけど、でもそこはやっぱり自分のチャンネル。謂わば自分一人で切り持っていく番組じゃないですか?」
「あ~。確かにそうとも言えるな」
ショウタさんが俺の意見に賛同してくれた。
「でしょう?だったらもう、とにかくまずは自分のやりたいことをやる。且つ視聴者も一緒に盛り上がれる動画を作ったり配信したりしたいなと。それでVTuberとしての自分の在り方を確立していきたいな~って考えておりますね」
「「お~~~!」」
一人のVTuberとして所信表明のようなことをすると、二人から拍手が送られる。
「確かにね。俺たちにアドバイスを求める前に自分で考えて動画を出したり、配信するってのが一番大事なことなのかもしれないね。それで自分に合ったスタイルを見つける。とても良いこと言ったねぇ、ノヴァ様」
「そうだね。自分のやりたいことをやるのが配信者だもんね。もちろんラインを敷く必要はあるけど」
「ラインですか~……俺がちゃんと男だってことを“証明する行為”は?」
「「アウトだよ!?」」
「思い切りライン越えだわ!?」
「さっきあんな良いこと言っといて、ボケに急ハンドル切らないでよもう…w」
少々呆れたような顔でツッコミを入れてくる二人だが、その顔にはどこかスッキリした様子が窺えた。
「それじゃあ悩みは特にないということで、次の質問なんですけども。ノヴァくんの僕たちイルミネーションに対する印象を聞かせていただいてもいいです?」
「印象?……え。ガチで思ってることでいいんですか?」
「もちろん。俺たちに対する素直な気持ちを言ってくれていいよ」
「わかりました。えっと……ユウタさんが、なんか胡散臭い少年って感じで~」
「胡散臭い!?どこが?」
「少年のあどけなさを利用して、視聴者を騙してそう」
「美少女顔を利用してる君にだけは言われたくないな!?」
「本当だ!じゃあ俺も胡散臭いじゃん!?えっ。じゃあナカーマ!」
「いや勝手に仲間にしないでよ!?別に騙してないし僕!」
「いや俺も別に騙してねぇよ!?」
「ぶわっはははははははwww」
「んでショウタさんが、可愛ければ男でも行ける口なんだなっていう……」
「おい!?どこをどう見たらそう見えるんだよ!!!」
「だって貴方、さっき俺を女性スタッフって勘違いしてた時に惚れそうって言ってたじゃないですか!?バッチリ聞こえてましたからねアレ!」
「やめろーーー!?アレは君が美少女顔なのがいけないんだー!」
「あはははははははwww」
「あ!もしかして“惚”れそうじゃなくて、こっちの“掘”れそうっていう意味で……」
「違うわっ!?!?!?人を勝手にホモにすんじゃねぇ!!!」
「いやーw本当に大物だわこの子。先輩だろうとお構いなしにズケズケ言ってくるw」
その後も俺がボケたり時々毒を吐いて、二人がツッコミという感じでトークを進めていく。
そして思い出したようにユウタさんが今回のドッキリのことを聞いてきた。
「そういえばさ。僕たちへのサプライズドッキリって言ったらいいのかな?ご飯食べさせてもらったし」
「ああ、しかもほぼ出来立てだったしな」
「うん。で、こうやって話してみたらさ。もう嬉々として引き受けそうな性格してるってのはわかったけど、実際どんな気持ちだった?僕たちにドッキリしないか~って言われて」
「あ~…。実は最初、断ろうとはしたんですよ」
「マジで?やっぱ俺たち大先輩を相手にするのは緊張するから?」
「あー。そう思いたいならそう思っていただいても…」
「え。急に冷たい…」
「あははははwww」
「あははwまぁ実際は、他の新人さんたちに申し訳ないな~って思ってたんですよ」
デビュー前に俺の他に3人の新人ライバーがいるというのは聞いていた。
だからせっかくの新人紹介企画といえども、いやだからこそ俺だけなんか特別枠みたいな感じにするのは良くないんじゃないか?と思っていた。
「でもディレクターさん曰く。元から他3人はまた別で大きく売り出す予定だからってことと、『構わん。やれ』と良い声でしつこく説得されたので引き受けざるを得なくなりましたねぇ。そんで腹を括って、今この場にいます」
「腹を括ってw」
「それでこんな堂々としていられるのも凄いけどなw」
((たぶんこれ黒田だな…))
「でも他の新人さんのことも考えられるなんて、素敵だね~なんか。ノヴァくん顔も可愛いしさ。女子に結構モテてたんじゃないの?」
「全然。むしろ嫌われてましたよ?」
「「嫌われてた!?」」
「はい。顔キモいって」
「「どこが!?」」
「どこもキモくねぇよwノヴァ様でキモかったら俺とユウタの顔どうなるんだよwww超絶ブサイクってことになるじゃんよw」
「うわ~。たぶん嫉妬だね~…。ノヴァくん、ショウタみたいに何も知らない男の子とかにモテそうだもん」
「おいやめろ。脳が壊れる…」
二人から「君は全然キモくないよ」と慰められて、ややこそばゆい気持ちになった。
ただちょっと……本当にちょっとだけ。心がスッと軽くなった気がした。
どうやら俺は意外と学生時代のことを引き摺っていたようだ。
「……ありがとうございます」
「「お、おう…」」
笑顔でお礼を言うと、二人とも少しドモった。
それからはまた普通に雑談したり、料理のお礼を言われたりと。楽しいトークの時間を互いに満喫した。
「そういえばさ。長々と話してるけど、ショウタは次の仕事大丈夫なの?」
「ん?あれね……あと30分で遅刻だわw」
「笑ってる場合か!?もう十分話したし、さっさと締めるよ!?」
「イヤだ!!!もっとノヴァ様と話していたいよー!どうせ次の現場は割とすぐそこだし!」
「子どもかよwこれからいくらでも話す機会あるんですから、ちゃんと仕事行ってくださいよ…。早く行かないとマズいですよ」
「い~や~だ~!」
「スイー○トウ○ョウかよこの人w」
「ほらもうショウタ…。ノヴァくんに呆れられてるよ?」
「じゃあ『いってらっしゃい。ショウタお兄ちゃん♪』ってノヴァ様が言ったら行く」
「キッショwショウタお前マジでキッショいwww」
ネタなのかガチなのかはわからないが、どうやらショウタさんは俺のことを本当に気に入ってくれたようだ。
仕方ない。ここは要望に……答えないっ!
「こらショウター!さっさと仕事行けやテメェこら、いい加減にしろ!?」
───スパァーンッ!
割と強めにショウタさんのケツをひっぱたいてやった。
「いってー!?あ。でもこれはこれで…♡」
「うわキッショ…」
「ごめん待って。ガチなのは傷つく…」
「はいじゃあもう時間ないので、イルミネーションにお任せあれ!また来週~!」
「じゃあマジで時間ないから俺もう行くわ!またなノヴァ様っ!今度マジでコラボしようなー!」
───ビューン!
「はっやあの人w」
「面白いでしょ?アイツ。キショいけど」
「そうっすね。キショいけど」
「……普段はああじゃないからねっ?」
「ああはいwわかってますよw」
「なら良かったwジュイロはあんな面白い人たちばっかだからさ。企画とかに困ったら、気軽にコラボとか頼んで良いからね。もちろん僕にも」
「うんっ!よろしくね。ユウタお兄ちゃん♪」
不意打ちでユウタさんに、手首を曲げた両手を肩の前にやって首を傾げる可愛い妹を演じてみた。
「ン゛ン゛ン゛ッ!!!思ったより破壊力あるんだけどこれ、ガチで!?」
こうして俺の初コラボ?は無事に終えることが出来た。
まさか入って早々、他のライバーさんに自分の手料理を食べさせることになるとは思わなかったな…。
でも喜んでもらえて良かった。ちょくちょく誰かに飯を食わせる企画とかするのも面白そうだな。
『これぞ本当の飯テロだ!』って。
ブクマや評価、感想ありがとうございます。励みになります。
おかげさまで日間ランキング2位、週間15位。さらには始まって間もないのに月間58位になってました。
頑張ります。




