★終わりは
最終話です。
その言葉は、更に俺達を混乱に陥れる。謎が解けるかと期待したものの、逆に新たな謎に悩まされることになった。
「……どういうこと?」
田波が、なぜここに死んだはずのあなたがいるのか、その言葉の意味は何なのか、恐らくこの2つの意味を持たせて目の前の男の人に問うた。彼はその言葉を予期していたかのように、話し出す。
「驚かせてしまって済まない。きっとそっちは僕が死んだことになっているのだろう? だけど事実は違う。僕は死んでなんかいないんだ。死のうと思ったけれど、やっぱり優香を手に入れたくて。だから、迎えに来たんだ」
少し言葉を切り、初めて彼は俺の方に視線を合わせた。
「君は誰だい?」
言葉こそ穏やかなものの、多少刺々しく聴こえてきた。俺を見る目も見定めるように鋭い気がする。彼のその問いに今度は田波が答える。
「この人は私のクラスメートよ。優斗兄さんが思っているような関係じゃないからね」
その言葉を聞いた彼は、そう、とだけ呟く。どうやら既に俺への興味は消えたようだ。その証拠にもう田波の方に視線を向けていた。
「優香。僕のことを異常だと思ってるかい? 僕のことを軽蔑したかい? でもね、」
"それは全て優香を愛しているからなんだ"
その言葉を聞いた瞬間、俺は瞬時に怖いと感じた。その眼は本気で田波を愛し、何が何でも手に入れたいと望んでいる眼そのもの。
田波はどんな返事を返すのだろうか。
ふとそんなことを思っていると、田波は考えていたらしく答えを返す。
「優斗兄さん……。兄さんの気持ちは痛いほど伝わった。そんなに私を愛してくれる兄さんを軽蔑なんかしたりしない。嬉しい。ただその感情だけ。だから、私は兄さんについていくよ」
その答えに驚愕した俺は田波に、
「お前、正気か!?」
と勢いよく問うと、そうだよ、と何の迷いもなく言い切った。そして俺に、静かに告げた。
「邪魔しないでね」
田波の返答に目の前の男性――優斗兄さんは嬉しそうに口元を緩め、
「さぁ、行こうか」
と田波の手を取る。それに対して、ええ、行きましょうと頷いて手を握り返した田波。混乱とこの状況に呆然としている俺に対し、最後田波は俺の方に振り返り、
「このことは、誰にも言わないでね?」
と念を押し、改札口の方に消えていった。
――そしてこの後の2人の行方を知っている者は誰一人としていなかった。
田波たちが改札を通ってしばらく。俺は取り敢えず教室に戻ることにして、頭の中を整理しながら教室に戻った。その間で、俺は2人のことは絶対に言わないことに決めた。
何故なら、あの時田波の言葉の裏に気付いてしまったのだから。田波は恐ろしいことに、誰にも言うな、それを破ると何が起きても知らないよ、と脅しをかけていた。
だから俺は、学校に戻ったその足で担任のいる職員室に向かい駅まで無事に送り届けました、と事実と嘘を織り交ぜながら報告した。勿論、夜には田波が家に帰っていないことがバレて優斗兄さんが関わっていることが明るみに出る訳で。二人の扱いは失踪ということになり、警察も捜査し始め、最後に田波といた俺も事情聴取を受けた。
「松下くん、彼女から何か聞いていないか? もしくは、最近どこか変わった様子だったとか知っていることがあれば教えてほしいんだ」
「すみません、普段田波さんと関わっていないので何も知りません。それに道中は彼女の精神が不安定だったので、転ばないよう支えているだけで会話は特になかったです。彼女が改札を通ったことを確認して学校に戻ったので、駅以降のことは何も分かりません」
何度も同じことを尋ねてくる警察の質問に対して、俺は一点張りで何も知らないことを伝え、真実を闇に葬り去った。
――俺は今でも田波が選んだ決断を正しいとは思わないが、この先の二人に幸せがあることを静かに祈っている。




