★駅まで
この学校の生徒のほとんどは駅を利用している。学校の近くに住んでいる人以外、電車が主な通学手段になるからだ。田波も例外ではないし、俺も電車通学だ。
「行くぞ」
未だどこか放心状態の田波の鞄を俺が持ち、田波に一声かけて教室を出る。成り行きを見守っているクラスメートに見られながら。
本来、生徒が生徒を送るのはいかがなものかと思うが、この学校は自由な校風の為いいのだろうと勝手に推測する。というか、推測して無理やりにでも納得させるしかない。
駅までのおよそ10分間、田波と二人並んで駅に向かう。彼女なんて生まれてこの方いたことのない俺は、女子をどこかに送るという行為は初めてで、こんな状況なのにも関わらず若干緊張している。
田波はずっと泣いていて何か言っているが、声が小さすぎて聞き取れない。だから、田波を観察することにした。高1の二学期後半の時期である今になって、女子をここまでよく観察したのは初めてだ。
田波の容姿は、一般的に見て可愛い部類に入ると思う。髪は艶やかな黒のセミロングで、均一に取れている顔のパーツ。ああ、そういえば確か笑うと、可愛らしく笑い笑窪が出来ていたのを思い出す。
うん、男受け良さそうな可愛い子だ。実際に、部活の友人も田波のことを可愛いと言っていた。ここで恋に落ちることはないが、彼女だったら自慢はできると思う。
ふと、田波が必死に泣き止もうとしている姿に気付く。
「松下くん、ごめんね」
ここで初めて田波が俺に向けて声を出す。それは何に向けての謝罪なのか分からなかったが、俺は大丈夫と答えた。そして、気に障らなかったら何があったのか教えてほしいと頼んだ。それを聞いた田波は言おうか言わないか迷っていたが、言うことにしたみたいだ。ゆっくりと口を開く。
「……実はね、今さっき先生に呼ばれたのは従兄にあたるお兄さんが亡くなったからなの。それで、私そのお兄さんを本当の兄だと思ってとても慕っていたから……。動揺しちゃってみっともない姿さらして、松下くんに迷惑かけてごめんね」
と、俺が想像もしていなかった深刻な内容を、田波は話してくれた。
――……そしてここから大きく運命は動き出す。