暖炉に“焚べる”の薪
今は冬、大雪山の麓にあるこの温泉旅館はスキー・スノボ客が押し寄せている。
春は黄色の帽子を被った都市部の園児が、親同伴で卒園旅行にやって来る。
その期間を今の女将が改革し、温泉旅館が何処かの文化祭かと思える程に金魚掬いや何たらクエストだのと催し事に追われたが、口伝てに拡がり卒園旅行の人気旅館になって早5年。
夏は登山客が下山後の温泉と共に、半熟温泉たまごと夏季限定の涼を感じる三日月型の和菓子を求めやって来る。
秋は紅葉広がる山とコスモスの咲く丘を見に来る日帰り温泉客ばかりになり、客室が空くからと改修工事を細かに行ないカードキーにするも、管理パスワードを忘れた大女将が穴鍵に戻した。
無駄な修繕費のせいか雑務が増え、昨年までロビーにある暖炉の薪は下足番が割って準備していたのに、今年は仲居の私達まで運ぶ事に、けれどミスばかりの新人仲居がこれに機転を利かせた。
「これ、薪割りも火にかけるのも体験にして、お客様にしてもらえば良くないですかあ?」
即採用した女将も、若女将の修行中に突飛な発想で仲居頭にどやされていたっけ……
とはいえ今夕も、部屋を整え夜食の準備前の小休憩に入ると、メモと紙袋が休憩室に置かれていた。
無論、仲居頭は新人仲居にそれを任せ命じたが、片付けを終えた今それが問題に……
「支配人さん! 私、ちゃんとメモ通りにしました!」
「なら、どうしてのれんが燃やされているんだ!」
「のれんなんて私知りません!」
「・・・き、君、知りませんって、メモ通りにしたなら知ってるだろ!」
何をモメているのか、この温泉旅館ののれんがロビーの暖炉に焚べられ、勢い良く煙を出して燃えているのを見た客から騒ぎ知らされた。
小火の燃え残りからのれんが見付かった事で、怒りに震えた支配人が女将と共に来た所だ。
私は支配人がテーブルにバンッと置いたメモを見て理解した。
【袋の中の暖炉に掛け変えて下さい】
袋の中の新しい暖簾に掛け変えて欲しい旨を伝えたかったのだろう女将が書いたメモ。
凡そ馬鹿にされないようにと漢字で書くも……
この不毛な争いに事実を告げた所で誰にとっても良い結果にはならない。
メモを持つも間違いに気付かない支配人、その支配人に好意を持つ仲居頭、怒りの矛先はきっと……
新人仲居→女将→支配人・仲居頭→私達仲居、と負の連鎖は回り回って私の下へやって来る。
暖簾に腕押しとは思うも、今は新人を庇っておくか、明日は我が身と思えばこそに……
■あとがき
お読みいただき、ありがとうございます。
仲居さんは、子供の頃に行った旅先で初めて知った私の憧れの職業でもあり、規則正しい生活と労力を求められる事から、とても私には出来ないなと諦めるも、ドラマやアニメやで仲居さんモノがあるとついつい観てしまいます。
昔の2時間ドラマや、温泉へ…花咲く…等々。
そういえば、今更に気付いたのですが、旅館モノで仲居さんには憧れるのに、女将さんには憧れない不思議……
仲居さん、旅先での楽しい時間をありがとうございます。
さて、本文にて私の なろうラジオ大賞5参加作の最初の話に通ずる部分に気付いた貴方は、正解です!
ですが、アレはこの温泉旅館の和菓子職人ではありません。
この温泉旅館の板前が作る夏季限定の涼菓子である三日月の和菓子を、前々から噂で気になっていたので悔いを残さぬようにと食いに出向き、その味と造形美に和菓子職人としても悔いなく……
という設定なのです。
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