海の民会議
昔話を題材に、巻き込まれる人目線で書いてみたものです。怒らせてはいけない人はいるのです。
「姫様が人間の男に惚れたらしい」
その話が出た時、長老たちからため息が聞こえた。
「やれやれ、また面倒なことになったのう」
ここは海の中、人魚たちが集う場所。
海の民の会議の中、頭の痛い案件が出てきたのだ。
「確か先々代の姫は、気に入った人間の男を城に呼んだのだな」
「あの時は魔女が作った薬を使ったのじゃが、人間が陸に戻ると急に年を取ってしまったんじゃ」
「欠陥品じゃないか」
「まあその時の姫様は激怒されてな、魔女は逃げ出したのだ。ところが先代の姫がまた人間の男に惚れてな、どうも隠れていた魔女に薬を頼んだらしい」
「なんとまあ」
「魔女は陸に上がることのできる薬を作ったが、これが酷いもので、喉に不具合が出て声は出ないし、おまけに一月くらいで身体が溶けて消えてしまったんじゃよ」
「なんとけしからん」
「皆怒って魔女を探したが、まんまと逃げおおせたらしい。口惜しいことじゃ」
会議が紛糾していると、扉がバンと開き、なんと噂をしていた魔女が現れたのだった。
魔女は会議に乗り込んで意気揚々と喋り始めた。
「皆の衆、姫様が恋をしたということで再び私が良薬を授けようと思う。今度の薬は完璧だ。この薬を飲めば、陸で口づけすれば陸で暮らせる、海で口づけすれば海で暮らせる万能薬だ」
鼻息荒く自慢する魔女に長老たちは言った。
「そいつを逮捕しろ。牢屋に入れて決して逃がすな」
「うわ何をする、私にこんな扱いをして姫に嫌われれるのはお主らだぞ・・・」
騒ぐ魔女は衛兵たちに連れ出された。
長老の一人が、
「あやつ、新薬を出せば昔の罪が帳消しになるとでも思っていたのか・・・」
と嘆息した。
「魔女のことは後でどうにかしよう。今は姫様の話だ」
すると、長老の一人が言いにくそうに、
「さっきの薬の話の後でいささか気が重いが、実はわしの孫娘が魔女の弟子でな、良い薬を作ったというのだよ」
ざわつく長老たちの前に孫娘が呼び出された。
孫娘は一礼して語った。
「師匠は性格はアレですが、腕と知識は一流です。ただ、思いついたら何でもやってしまって詰めが甘いのです」
それは一流とは言わないだろうと皆は心の中で思ったが、黙って続きを聞いた。
「陸でも海でも息ができる薬は完成しました。何名かで試したので問題ありません。足の方は魔法で変えればよいのです」
あとは皆様で、と孫娘は退席した。
その後長老たちは一週間ぐだぐだと会議を行い、その結果、孫娘の案を採用することに決めた。
姫と人間の男は陸と海を往来することができるようになり、末永く幸せに暮らしましたとさ。
とはならなかった。
「姫様たちのお薬をお持ちしました」
いつものように孫娘が長老たちのところへやってきた。
「ああ、もう薬はいらんのじゃ」
どうやら一年ほどでお互い熱が冷めて別れてしまったらしい。
全く最近の若い者は。
それを聞いた孫娘は怒って帰っていってしまった。
祖父の長老は嘆いた。
「ああ、しばらくは口もきいてくれん。薬も作ってくれんぞ」
それを聞いた長老たちは、慌てて孫娘を追いかけた。
機嫌を直してくれると良いのだが。
「怒らせたら魔女より怖いからのお・・・」