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短編あげてく  作者: 窓際の箪笥
1/4

密林

ー供養、貪婪と無望に在る私へー

 私は、いつのまにか歩むべき道、いや歩みたい道すらもが分からなくなっていた。

 いや、分からなくなったのではない、恐らく、もうその道に戻れないほど逸れて(・・・)しまったのだろう。

 昔から、どうも私は咄嗟に選ぶということが苦手で、大方選択を間違えていた。

 受験の瀬戸際だったあの時も、好きを失ったーーいや、そもそも端から私の手には無かったのだろうがーーあの時も。

 今に思えば、そんな私は恋愛をすべきではなかったのかもしれない。

 まだ、それが叶わぬとなった時の覚悟ができていなかったのだから。

 掘り返した穴を埋めるかのように、ふと、下を向いていた顔を上げる。

 見えるのは、先程と全く変わらない竹藪、木々、叢。

 踏みだしたころは、まだ(あお)く平坦な草原の中を、胸一杯の希望と共に歩いていた。

 或いは、道中、煕煕攘攘の包んだ街の、端のあまり人目につきにくい道を一人悶々と独り歩いていた。

 しかし、今となってはそれが思慮に浸る以外、全くと言って良い程できることのない、欝蒼立ち籠める密林である。

 一歩進むにも苦労がかかる上、幾ら歩いたとて迎える筈の無いその先。

 さて、私は幾らの歩をここまでで歩いてきただろうか。

 そう、また少し思慮に耽っていると、自分のそれではない草を掻き分ける音が、もの静かな密林に響いた。

 今まで巣穴で眠っていた動物がやってきたのだろうか、いや草等が風に揺られただけかもしれない。

 そう、いくつか思った末、一つの予想に辿り着く。

 もしや、この密林の中には私の様な人間がまだ居るのではないだろうか。

 確かに、この音だけで決してそう判断することは出来ないだろう。

 だが、やはり私は寂しかったのだろう、この可能性が現れた、その事だけで何処か気分が浮ついていくのだ。

 そのもう一人はどんな人だろうか、そもそも一人なのだろうか、複数人なのだろうか。

 やはり、私の好奇心は自制心に勝るようで、一足飛びに思考は私の脳を駆ける。

 その好奇心はいつ会えるかという期待と成ったが、それはやがてまた私を締め付けることとなるだろう。

 拙劣な期待はそれが叶わぬと知った時、絶望と化す。

 これは、私の短い人生の中で学んだ事の一つ。

 今すぐこの期待は消さねばならない。

 さもなくば、私はまた、あの時と同じような脱力、もしくは絶望に襲われるだろう。

 だが、そう躍起になっている内に、未だ僅かに聞こえるその音に期待は毎度膨らんでいっている。

 また一歩、また一歩と希望と共に地を踏みしめる度に近づくその音を聞き、私はふと思った。

 どうせここは永遠に出ることのできない密林、叶わぬ期待の一つや二つ、抱き、そして弾けても別に良いではないか、それどころか、一喜一憂のある方がまだ歩みやすいのではないだろうか。

 そう思った刹那、背に背負った重い鞄が急に幾らか軽くなった。

 それは、確かにただの気の所為かもしれない。

 だが、私にはどうしてもこれが本当の事のように思えてならないのだ。

 それと共に、また何かが叢の中を動く音がした。

 そしてそれを聞いた私は、先程よりは軽やかに、また静かに歩き出した。

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