転校は突然に。
ジリリリリリリリリリ――――カチッ
頭上で鳴り響く目覚まし時計を止め、上半身を起こして大きく伸びをする。睡眠時間の所為か、まだねむい。しかし、二度寝するわけにもいかないので二、三度大きく頭を振って眠気を吹き飛ばす。
「航併!さっさと起きろよ!」
突然部屋に響いた低いがよく通る声。
言いながらズカズカと入ってくるこのおっさん、不法侵入とやらで訴えていいかな。いや、もちろん知り合いだけれども。
昨日、俺はこのおっさんになんの前触れもなく引っ越せと言われた。
もちろん、引っ越しの準備など何もしていなかったので、結局、ようやく落ち着いたのが今日の日付に変わって約五時間後。つまり、午前五時頃で、今の時刻が八時。
これで眠くない方がおかしいだろ。
「制服持って来てやったんだぞ」
「持ってこない方が問題だと思うけどな!」
実はこのおっさん、引っ越せとの命令だけにあきたらず、転校せよ、とまで言ってきたのだ。手続きは既に済ませてあるとのことだが、いったいどんな手段を使ったのやら。
とりあえず、制服を受け取って着替えるとする。のんびりしすぎっと遅刻すっから。二学期初日から遅刻とかシャレにならないだろ?
素早く着替え、栄養補給のために冷蔵庫の中からゼリー飲料を取り出し、一気に飲む。十秒チャージならぬ三秒チャージ。
それから顔を洗って眠気を一時的に吹き飛ばし、居間でくつろいでやがるおっさんの前に座る。
「準備完了。で、くわしく説明してもらいたいんですけど。昨日おっさんのとこ卒業したばっかで今日から任務ってわけじゃねーだろ?」
「いや、その通りだ」
…は?
ヤベェ、一瞬呼吸の仕方忘れたよ。落ち着け俺、聞き間違いかも…
「任務の詳細はだな…」
「おっさんストップ!ちょっと時間くれ!」
「そんなこと言ってられるか、登校時間が迫ってんだ」
「登校時間の問題かよ‼」
そもそも、学校は目の前。窓から見える位置にあり、歩いて一分もかからない、はず。学校の土地が無駄に広そうだから断言はできないけど。
それに、学校には八時四十分に登校すればいいはずだし、俺の無駄のない朝の時間の使い方のおかげで、まだ時間はあるはずだ。
ちなみに、この朝の時間の過ごし方は、前に通っていた学校までがバスと電車を駆使してかなりの距離で、もちろんその分時間もかかるということで少しでも睡眠時間を確保しようと考え編み出した、いわば―――
「お前にはこれからそこの学校へ潜入して調査してもらいたい。クラドを発見しだい俺に報告、殲滅をすること。また、任務については極秘。他言無用だ」
うわ、このおっさん俺の思考を遮りやがった。ムカつくなぁ…
「航併、聞いているのか?」
「聞いてたよ」
「じゃあ、俺が言った事を繰り返してみろ」
「はいはい。航併、聞いているのか?」
なんだ?おっさん、怖い顔してじっと見てくるんだけど。俺何か間違った?
「もう一回言ってみろ」
「はいはい。航…」
痛っ‼殴られた…
「やれやれ、養成所をトップで卒業したとは思えんな」
おっさんは額に手を当てて溜息。
俺は頭に氷をのせて溜息。
「だってホラ、智架と一緒だったから」