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女に溺れるエスコート……

……時間が流れ、やがて学校に戻る。


宿舎に戻ると、寒さから逃れるように急ぎ暖炉に火を灯した。

上る煙と、赤い光。

照らされた指先や顔に熱が入り、寒さで震えた吐息が収まる。


少し落ち着くと、コーヒーを沸かし、天井に下げたカンテラに火を灯す。

そして大鹿の毛皮を暖炉の前に敷いた。

もう毛皮の上から動かないつもりだった。


コンコン


この時、扉を叩く音が響く。

もしかしてマーアン?と思って急いで扉を開けると、やはりマーアンだった。


「入っていい?」

「うん」


抑えきれない喜びを胸に、彼女を招き入れる。

そして部屋に入るなり抱きしめた。

彼女の手も自分の体を抱え、その感触が胸を甘い思いで満たしていく。


やがて寒さに追われるように、二人は暖炉の前の毛皮に腰かけた。

自分の肩に乗る、マーアンの頭。

その頭の上に、自分の頬を添えた。


「…………」

「…………」


言葉も無く、揺れる暖炉の炎を見つめる。

黙っていると、彼女が自分の指を手に取り、弄び始める。

それを幸せな思いで見つめていた。

それにも飽きたのかマーアンは「何かあったんじゃないの?」と尋ねる。


「何かって?」

「チーノ、見つかったんでしょ?」

「うん、話を聞いたんだ……」


ステューブハインからだろうか?


「前の人生ではね、ケーシーはチーノとの戦いで命を落とした」

「……そう」


甘い夢から覚め、現実に意識が戻る。


「こめかみ辺りを斬られてね、それで……

ごめんね。こんな話をして」

「…………」

「ケーシーの剣も、チーノの体を貫いていたんだ。

その後の事は分からないけど」

「ん」


パチパチ……パチパチ……


暖炉の中で、薪の燃える音が響く。

途切れた会話。


“なんでそんな話をした?”と尋ねたかった。

もっと甘い話で良かったのに……


「帰って来るよね?」


不安の浮いた声で、尋ねる彼女。

その様子が、自分にも不安を授けた。

胸に沸く怯えとザワツキ。

それは自分から“もちろん”と言う言葉を奪い去った。

だからなのか、しばらくの沈黙の後で、こう告げる。


「明日、もう自分は行かないといけない」

「チーノの所?」

「うん。

捕まえろと言う人もいるけど、自分は殺すつもりだ。

奴は君の名前が記された帳簿を、見ている可能性がある」


マーアンは自分の肩から頭を退けると、張り詰めた目線を自分に投げた。


「彼を尋問に掛けさせる訳にはいかない。

そうしないと(自分は)君と合う事が出来なくなる……」


彼女の唇を奪った。

溺れてる、自分の心を知る。

顔を放して彼女の顔を見ると、安心したかのように笑うマーアンと目が合った。


「私の事が好きなんだ」

「うん、愛してる」


そう言うとマーアンの方が、自分の唇を奪う。

それを抱きしめる。唇を貪る。

勢い余って歯にぶつかり、思わずのけぞるとそのまま彼女に押し倒された。

揺れる暖炉の不安な赤光に照らされ、マーアンの肌が輝く、そして光る白眼。

上から見下ろす、どこか獣じみた彼女の視線と目が合う。


……思わず下から上に、手を伸ばした。

マーアンの胸元、服を結んだ紐を(ほど)いて……


「マーアン……」

「ウフフ、はしたないよね……」


自分の服にも、彼女の手がかかり、剥ぎ取られていく。


◇◇◇◇


快楽と、けだるさ、そして充足感。

きめ細かな皮膚と、マーアンの匂い。


事が終わって裸のマーアンを抱きしめていると「次はいい加減ベッドにしようよ」と彼女が胸元で言った。


「ああ、そうだね……」


こんな事をしている場合ではないと、心の何処か、が呟いた。

だけど、ずっとこうしていたい。

不安を忘れるんだ。

仮初(かりそめ)の安息にふける自分に、マーアンが言葉をかける。


「そうだ、これを上げる」


そう言うと彼女は体を放し、着ていた服のポケットから、一組の騎士と女性の黒い像を取り出した。


「これは?」

「聞いた事は無い?

磁石の人形……離れても帰ってくるように、また一緒になれるようにお互いに持ち合うんだよ」


そう言うとマーアンは嬉しそうに、磁石の人形をくっつけた。

パチッとした小気味の良い音が鳴る。

そして人形を放すと、騎士の人形を自分に与えた。


「本当は女性の像を男は持つんだっけ?

……忘れちゃった」

「アハハ、どっちでもいいよ。

ありがとう、胸のポケットに入れておく」


そう告げて人形を見つめていると、不意に彼女が目を潤ませて自分を見ている事に気が付いた。


「どうしたの?」

「……帰って来てね。

帰ってこなかったら、私次の人生を生きてしまいそう……」

「帰って来るよ、もちろん。帰って来るさ」


身を起して、彼女を抱きしめる。

胸の中で泣きじゃくるマーアン。


「大丈夫、大丈夫、大丈夫……」


背中と後ろ髪を優しく撫でながら、安心させようと声を掛け続ける。

落ち着くまで……


……それから間もなくマーアンは帰った。

見回りが来るからそれまでに、部屋に居ないといけないらしい。


見送った後、一人だけの部屋に漂う、感じたことも無い寂しさ。

どうしてずっと一緒に居られないのか。

それを思って泣きそうになる。


◇◇◇◇


翌日は、朝も早くから白銀宮殿に詰めた。

宮殿の中で、雪中行軍の為に防寒着と鎧櫃を用意していると、バルブロ警部が来た。


「ケーシー、精が出ますな」


倉庫内での作業を中断して、バルブロに顔を向ける。


「ああ、警部。今回は警察も動くのですか?」

「いやいや、警察には首都の外壁の外を捜査する権限がありませんからな。

あくまでも見届け役で。

王族侮辱罪と、その法令に許された復讐権の行使で、チーノを一網打尽にするのはあくまでもアルンスロット公爵様。

ただその……アルンスロット公爵様が捕虜を首都に連れて帰り、そしてそれを警察に差し出す事を“して下さったら”我々も取り調べる事が出来る。

それを期待している、という事ですよ」


「なるほど、アハハ。

それは期待に叶う公算が大きいですね」

「おお、それはありがたい。

もしそうなったら(公爵)殿下に、大いに感謝しなければなりませんな」


そう言って笑うバルブロ警部。

やがて彼は少し真面目な顔でこう語りかけた。


「実は確認したい事がありましてね、エラーコンから何か聞いて無いか?と……

ずっと疑問に思っていたんですがねぇ。

チーノの奴、おかしいのですよ」

「と、言うと?」

「あなたから聞いた外見とは異なり、酷くしなびた老人になっていたと、報告が上がっているんです」

「え?」

「重ねて言いますが、前々から気になっていたんです。

チーノ……アイツ、歳は幾つなのでしょう?

アナタの育ての親、エラーコンの日記を見ると相当以前から奴の記述があるのですよ。

それなのにあの見た目……おかしいと思いましてね」

「……確か30年前の日付でしたね、一番古い奴の記述は」

「若く見られる人間はいますが、アレは少しおかしい。

あの記述が正しいなら、奴の年齢は50近くになっていなければなりませんよ。

(エラーコンから)何か聞いておりませんか?」


「いや、思い出せないですね。

何か聞いていた気もするのですが……」

「そうですか、ま……思い出したら教えてください。

ソレでは、私も公爵様にご挨拶に赴かないといけませんので」


そう言って立ち去るバルブロ。

それを見送った後。自分は用意した防寒着と鎧櫃を見下ろしながら、昔の思い出を探っていった。


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