表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
67/76

自分が、大人になった夜(後)

「寒いね」


座ったはいいが気の()いた言葉がどこにも見当たらない。


「うん……」と答えたまま、暖炉で踊る、赤々とした炎を見つめる。


そして彼女の横顔を見ていると、いよいよ何を言って良いのか分からず、変な事を聞いた。


「今日、ステューヴハインが来た」

「…………」

「マーアンの事をどう思っているのか聞かれたから、いつか領地を貰ったら一緒に領地経営をしてほしいと言ったんだ」

「うん」

「一緒に、どうでしょうか?」

「はい?」


その質問は想定してなかったらしく、彼女は初めて呆気(あっけ)にとられた表情をこちらに向けた。

このまま黙って互いに見合わせていると、根負(こんま)けしたかのようにマーアンは吹き出した。

そして笑いながら自分の頭をクシャクシャかき乱し「思ったより、君は馬鹿だね!」と嬉しそうに言い放つ。

身分や立場の違い……それを思いながら自分は、彼女の体を抱きすくめた。

手の位置が自分の頭にあった為か、勢いのまま自分の頭を抱えてしまった彼女の胸元で(ささや)く。


「自分は本気なんだ。

ずっと居られたらいいと思ってる」


気が(はや)って、どうかしてしまう自分。

クシャクシャと自分の髪をかき乱していた彼女の手が落ちて、肩のどこかに降りた。


「私のドコが良いの?」


思わず顔を上げると、不安げに、そして楽しそうに笑う彼女の顔があった。


「全部、君といると楽しいんだ。安らげるし頭も良いし……かわいい」

「ありがと」


そう言うと、彼女は勝者のような笑みを浮かべて顔を近づけた。

思わず口づけを求めると、マーアンの唇は離れ、代わりに鼻と鼻を何度もこすりつける。

求めるものが手に入らず、()れる自分。

その様子を観察して、からかうように「ふ、ふふ……」と笑う彼女に頭がおかしくなりそうだった。


「私、18までしか生きられないんだよ。

それでもいいの?」

「君を守るよ、守ってみせるよ」


手に入るなら何でもする。

胸の内が狂ったようにそんな叫び声で(あふ)れ返った。


「別れの時が辛いかもよ、それでも……」


そう言った彼女を押し倒した。汚れた床の上に。

もう逃げられなくなった彼女の唇を強引に奪う。

もう、ロマンも何もない。

マーアンが欲しかった。

床に広がる乱れ髪と、それでも勝ち誇ったような彼女の笑顔。

笑いながら目閉じると、次に(おび)えたような顔を見せ、女の声が部屋に響いた。


「ケーシー、優しくして。

私……優しくされるのが好きなの」


言われるがままだった……

望まれるままに優しく抱きしめ、もう一度唇を吸う。


「良いんだよねケーシー、後悔しても」

「構わない」


揺れる火の光と、燃える焦げた木の匂い。

潤む眼を薄く開け、恐れているのか笑っているのか良く分からないマーアンが、自分の腹の下で大人しい。

スッ……スッ……とすれる衣擦(きぬず)れの音。

ボタンを外した。耳に生々しく響いた欲望の声。

燃え上がり、()ぜる(まき)の音の中でも、やけに大きく聞こえる互いの呼吸。

甘く乳臭(ちちくさ)い匂いが彼女の体から立ち上り、自分の汗の匂いと混じる。

皮膚の質感に驚いた、柔らかくて肌理(きめ)が細かい。

(あらわ)になる彼女の裸、自分も服を脱ぎ捨てる。

(たぎ)る欲望のまま、彼女を自分のモノにした。


時間が経ち、互いに子供から大人に変わった頃。

綺麗なタオルで互いにクスクス笑いながら、裸を拭き合っていた。

タオルを汚す、欲望の(あと)……


「タオル(これ)、どうするの?」

「暖炉の中に放り込もう」

「もったいなくない?」

「じゃあ、記念に取っとく」


そう答えると、ニッと笑った裸の彼女が暖炉の中にタオルを投げ入れた。

布は火の中で燃え盛る。


「記念にしなくていいよ」

「ああ……」


マーアンは顔を近づけてもう一度口づけを交わすと、可愛く甘えてきた。

抱きしめながら、可愛い彼女の唇を(むさぼ)る。


「ケーシー、私もう行かなきゃ」

「え、なんで?」

「朝になって私が部屋に居なかったら問題になるモノ」

「もう少し居ようよ」

「駄目、わがまま言わないで……」


そう言うと彼女は裸で床に座る自分を、尻目に服を着始める。


「ケーシーは優しいね……」


服を着ながらそう言った彼女に、自分は血に飢えた見せられない姿を思いながら「そんな事無いよ」と返した。


「ケーシー、私の名前を帳簿で見たって言ったよね」

「うん」

「誰にもその事を話して無いよね」

「うん……」


服を着替え終わった彼女は、顔を外に向けて言った。


「名簿はまだあるの?

もし私の名前を他の人が見つけたら、私……終わりかもしれない」

「名簿は見つからないよ。絶対に」

「…………」

「心配かい?安心していいよ。

君を(おびや)かすものはもう無いから」


振り返って驚いた様子の彼女、安心させるために笑って見せた。


「もう怖がらないで、誰にも言わない、これからも、これまでも。

君が口を開くまで、自分は沈黙を誓う」

「本当?」

「うん、だから18までしか生きられないと言わないで。

これまで君を殺したのは、あのチーノとか言う奴なんだろ。

アイツは間もなく終わりだ、そして奴が死んだら、君を殺す死神は居なくなる。

そう思わないか?」

「そう……かな?」

「君はまた死んでも次の人生で、また自分に逢えるけど。自分にとっては一度きり、一人だけなんだ。

だから、イヤなんだよ」


思いを熱意で(くる)んで伝える。

するとマーアンは自分にしがみついた。

思わず抱きしめるとマーアンは「良いよ、ずっといようね」と耳元で囁いた。


「ずっと仲良く居れたらいいね」


喧嘩ばかりしていたことを思い出しながらそう告げると、マーアンは「そうだねと返した。




間もなくマーアンは部屋から出て行った。

一人であることが気楽に思えたり、また会いたくてたまらなくなったり、残り香が彼女の裸身(らしん)を思い出させて、心をおかしくさせる。

……コーヒーを沸かした。安らぎを求めて。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ