公子と公子……(後)
『!』
先生の言葉にアナセンたちが驚き、そして口々に言った。
「そんなはずが無い!全員見たんだッ」
「あの教師が嘘をついている!
アイツがアルンスロットと懇意にしているかどうか調べろ!」
「ヤークセンが貴族を脅したんだ!
アイツが身の程も知らずに、貴族を脅したんだ!」
この様子に先生たちは、首を振りそして言った。
「それぞれを引き離して、別々に事情を尋ねます。
それじゃあ……それぞれ空いている応接室に」
こうして自分達はアナセンたちと離れて、近くの応接室に連れていかれた。
しばらくして白銀宮殿から、アルンスロット家の重臣が来て、自分達は彼に事情を説明した……
当然自分は、泣きたくなるほど怒鳴られ、ルカスやヴィクタの代わりにひたすら彼に謝罪を繰り返す。
とは言え、今回の闘争がフライア嬢を守るために起きた事だという事で、納得はしてもらった。
……もし怪我でもさせたら、これ位では済まなかっただろう。
「ケーシー‼今回の事は言い分があってもお前が悪い。
相手は貴族だっ!この国の法律は分かっているなっ」
「……はい」
「お前は2か月間謹慎だ、頭を冷やせ!
それからヴィクタ様に感謝をするように。
お前にこれ以上罰を与えない様にと、ヴィクタ様が強く望んでいる。
……まったく、お前は何と言う事をしでかしたんだ」
理不尽だ、と思ったが、何も言い返すことは許されない。
重臣の方に頭を下げ、彼が立ち去る様を見届ける。
「はぁ……なんてことだ」
喧嘩をしている最中は、現実を忘れられるが、喧嘩が終わるといつもこの国の面白くない現実が待ち構える。
そう思って項垂れていると、自分が叱られる様を近くで見ていたヴィクタが近付いてきて、自分にダガーを差し出した。
「良くやったよケーシー。
君がいれば5人の男に襲われても怖くない」
「ありがとうございます。
ダガーはルカスじゃなくて、ヴィクタ様がお持ちだったんですね」
「ふ、ふふ……僕を調べる様な度胸がある人間はそうはいないからね。
それに僕がダガーを持っているなんて誰も思いもしなかっただろ?」
「ええ……てっきりルカスが、こっそり処分したんだと思ってました」
そう言いながらダガーを受け取り、いつもの様に背中に着けた鞘にしまう。
するとルカスが自分の肩を叩きながら、まじめな顔で語りかけた。
「ケーシー、今日は助かったよ。
フライアもこれで誰からも脅される事は無いだろう」
「ああ……あの子はルカスの彼女だったね」
「恩は必ず返す。約束する」
「これぐらいなら気にしないでくれ。
……ロヴィーサ様に色々教えて頂いた身だ、こちらこそ少し返せたなら嬉しい」
そう答えると、彼は再度親しげに自分の肩をポンポンと叩いた。
「謹慎中はヒマだろうから、何か本でも持って行くよ」
「それは助かる……」
そう言うと、ヴィクタとルカスは勝利に顔を綻ばせながら、この応接室を出て行った。
そして残された自分は頭を抱える……
これから詳しい処分が下されるので、ソレに怯える時間が待っているのだ。
自分は罰則として学校の授業にも、2ヵ月出れない、との処分が下された。
加えて白銀宮殿にも出仕は停止だ……
ただし給料は、ヴィクタが個人的に払ってくれるとの事。
加えて、べアンハート様からも生活支援金を賜われることになった。
なんでもヴィクタを、身を挺して守ったからだそうだ。
……だとしたら、なぜ自分は重臣にあそこまで怒鳴られたのか、教えて欲しい。
だが、それを言ったら失職するので、心の片隅にとどめた。
ヴィクタとルカスはお咎めなし。
まぁ、そうですよね、身分制度万歳……
アナセンたちはあの後、宣言通りルカスやヴィクタに謝罪をする羽目になったそうだ。
ヴィクタも謝罪を受け入れ、これで手打ちにした。
しかし、学校に兵士を勝手に入れた事が問題視され、彼等もまた1ヶ月間の登校停止処分が下される。
彼等の場合はそれ以上に入学して早々に、その名声を地の底に落とした事が問題だろう。
しかも3倍の人間を集めて、逆に敗れたと言う、前代未聞の事を起こしている。
しかも連れてきた兵士が、自家の兵士……
その結果、当たり前だがヤルンヴォルケよりも、アルンスロットの方が強いとの評判が立った。
そしてあのヴィクタの啖呵が、学校中に広まる。
女生徒を脅したヤルンヴォルケと、女生徒守ったアルンスロットの比較もあって、アナセンたちは嫌われ者に落ちた。
これで彼等が、この学校で大きな顔をする事は難しくなる。
こうなるとアナセンにイジメられていた生徒は、自然とヴィクタに従う事を選ぶようになり、ヴィクタの勢力が拡がるだろう。
こうして学校でも、そして宮廷でも、何故か風を受けて進むようにアルンスロットは、躍進を続けていった。
◇◇◇◇
「ケーシー、これが今日のノートね」
「う、うん……」
そしてその謹慎期間中に、マーアンがノートを見せてくれ、そして学校の授業を教えられる範囲で教えてくれると言ってくれた。
正直助かると思って、喜んでいると彼女が上から自分に告げた。
「……ふぅ、本当は此処に来るつもりは無かったんだけどね。
ルカスとヴィクタ様がどうしても……と言うので来たんだ」
「…………」
来るなりそう言った彼女に、自分は心を痛めた。
来たくなかったし、会いたくも無かったんだ……と。
「だったら来なくていいよ」
「!」
冷たい自分の言葉に、彼女は目を丸くした。
自分は?と言えば(お前の従妹を守ったのは自分なのに何て言い草だ!)と、思っていた。
そして彼女に失望と怒りの感情を抱く。
……すぐ傍の人間の感情は、無言の内でも相手に伝わる。
やがて彼女もまた、怒りも露に「それなら帰る」と言って立ち上がった。
自分はその様子を、空っぽの心で見ていた。
あれだけ追いかけた背中が、今日は居なくなって欲しいと思う。
颯爽と出て行く彼女の姿に、さっぱりした思いの自分は、今起きたことを無視する様にコーヒーミルを取り出す。
そしてコンコンと……庭に面した自分の部屋の扉が叩かれる。
マーアンだ……と思った自分は「来なくていいのに」と呟きながら扉を開く。
ところが、扉の向こうに居たのは別の人物だった。
「……リトヴァ様?」
扉の向こうにリトヴァ・エッテランタが居る。
「え、どうしてこちらに?」
「ノートを持ってきたので写させてあげようかと……お邪魔かしら?」
「あ、いえ……大変うれしいです。
えっと……中でコーヒーを淹れるのですが、ご一緒にいかがです?」
何故か誘ってしまった自分。
誰かと話したかったのだろうか?
リトヴァはニコッと微笑むと「それではごちそうになります」と言って中に入った。
招き入れる自分、そして興味深げに入った部屋を見回すリトヴァの後姿。
それを見ながら自分は(マジか……)と、胸の内で呟いた。




