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お前が俺と言う忌子を産み落とした!

岩塩鉱山を有する、グルヴァン伯爵家領の荘園ルアーランマ。

そこは自分の生家である、グルヴァン伯爵家の領地だ。

この家の事を軽く説明すると、ハルアーナでも、ナシュドミルでも伯爵で、両国にまたがる広大な領地を持っている。

その領地の中でも、特別豊かな場所がこのルアーランマだ。

叔父はグルヴァン伯爵家の代官として、この地を支配していたのである。


鉱山労働者や塩商人、そして住人や行商人でごった返すこの場所を訪れたのは、モンタプータを出て4日後の事だった。

叔父は大きな成功を収めた、ナシュドミルでも特に裕福な騎士だ。

そしてその邸宅ともなれば、それはそれは立派な豪邸である。

実は自分はこの立派な邸宅に、年に2回は赴いていた。

……これは叔父がグルヴァン家から自分の養育費を貰う代わりに、この地の代官職をする為、扶養者である自分の安否をグルヴァン家の家臣に確認させる為である。




この家を訪れた自分は少し待たされた後、胡散臭(うさんくさ)い笑顔で現れる、この叔父に挨拶をした。


「叔父さん、お久しぶりです」


叔父は昨年よりも肥えたと思った。

変わった事と言えば……でっぷりと丸いお腹と、母には似ていない狡そうな笑顔、そして髪が大分白くなった様だ。


「おお、ヤークセン久しぶりだな。

随分と大きくなった」


成長期の自分は「背丈は176センチになりました」と答え、叔父を驚かせる。


「もう私と背丈は変わらんな、伯爵様(実父の事)も大きいお方だったから、そちらに似たのだろうなぁ。

いや、良かった良かった、顔立ちも少し伯爵様に似て来たじゃないか」


母親似の自分の顔を自分は嫌悪していたので、この言葉“だけ”は純粋に嬉しかった。


「叔父さんは何も変わりなく」

「まぁ、健康には気を付けているよ。

何せこの地の代官職は非常に重要な仕事だ。

何時でも伯爵様の為に働けるように励んでいる」


もう、馬にも乗れそうにない、叔父の恰幅の良い姿を見ながら自分は(でも戦場には行かないでしょ?)と思った。


「ところでヤークセン。

取次の者に聞いたが、エラーコン殿が死んだと言うのは本当か?」

「ええ、つい先日葬儀を終えました。

美しい葬儀でした……」

「辛いだろうなぁ……」

「ええ、何せ12年も一緒に居たのですから」

「そうか、まぁ……気を落とすな。

それよりもだ、お前、私に尋ねたい事があるんだってな」

「はい、自分のこれからの事について相談したいのですが」

「ふむ」

「もう自分も15(歳)になり、そろそろトールスカン家の為に働けないかと思っています。

そこで騎士の修業をしたいのですが、どこかに修行先をご紹介頂けないでしょうか?」

「フーム……」


叔父はそう呟くと、何故か自分を“(うかが)う”様な目で見た。

悪い予感を、この目線に感じる。

すると彼はもったいぶった様にこう言った。


「現状、我が家(トールスカン家)の男子はお前だけだから、そう思ったのかもしれないが……

私の後を継ぐ資格があるのは、まだ他にも居る」

「どう言う事です?」


彼の言葉を聞くと、再び悪い予感が背筋を()いずり回った。


「まぁ、お前も私の後を継ぐ候補なのは間違いない。

だが……(おい)は他にも居る。

この家の家長(かちょう)である私は、もっと広い目で世の中を見て、この家にとって最も正しい選択をしなければならない責任がある」


この言葉を聞く自分は、怒りと焦り、そして悔しさで胸が満たされる。

……そしてお袋もお前も自分を(ないがし)ろにしたいのか、と思った。


「……叔父さん、言いたい事があるなら、はっきり言ってくださいよ」

「……反抗的な目で見るな、お前。

その眼をまず何とかしないと、私の後を継ぐなんて……」

「はっきり言えよ、叔父貴(おじき)……」


怒りでワナワナと震える身体を抑え、自分がそう呻くと、目の色をサッと変えた叔父が苛立ちながら告げた。


「トールスカン家の為を思えば、お前なんかよりもお前の父親違いの弟である、カールフンの方が適任だという事だ」

「カールフン……もしかしてヴァリメンセリ家の?」

「お前の弟だと言っただろう……」


ヴァリメンセリ家と言うのは、母親の再婚先の家の事である。

トールスカン家と同じで、騎士爵を持つ家だ。


「そんな!」


まさかトールスカン家の人間でも無い者に家督(かとく)を継がせるとは思っておらず、自分は愕然(がくぜん)とする。

そんな自分に、叔父は言った。


「何も身寄りがないに等しいお前よりも、騎士家であるヴァリメンセリ家の力を借りた方が、我が領民も助かる。

それに、だ……私の老後の面倒も見てくれると言うしなぁ」

「…………」

「反抗的な目で俺を見たお前に、俺がなんで俺の財産を分け与えなきゃならん。

甘ったれるな、小僧!

これはお前の振る舞いが招いた罰だ!」

「自分のせいだと言うのかッ?」

「聞こえなかったのか、今も俺を睨みやがって……頭を冷やせ‼」

「…………」

「俺だって、鬼じゃない。

もし働く場所が欲しいなら、カールフンに仕えればいい。

そうしたら、お前も食うに困らない。

それが嫌なら、モンタプータで一生を過ごすんだな」


自分は先週母親の家で見た、家族の光景を思い出した。

人柄は穏やかで、憎むべきところが何もなかった母の再婚相手と、その彼の腕に抱かれる6歳の男の子。

この子の兄弟は、もう別の家に小姓として修業を始めている。

この6歳の男の子がカールフンだった。

カールフンを見る母親の目は、(いつく)しみと喜びに満ちている……

それは、自分には向けられないモノだった。


「ああそうか、そうですか……

そこまで自分を嫌うのか、お前も……」

「何ぃ?」

「別にヴァリメンセリ家が悪いとか、嫌いとは思っていない……

カールフンに悪い感情だって無い。

だが叔父貴、アンタは別だ」

「何ぃ?」

「エラーコンが死んだ時、真っ先に母に会いに行ったよ。

まったく歓迎されていなかった……

その理由が分からなくて落ち込んでいた時、母の再婚相手の……カールフンの父親が教えてくれたよ。

『ヤルテルネ(母親の名前)を恨まないでくれ。

アナタの養父である、ペーレン殿が全て悪いのだ。

私達が17歳だった頃、トールスカン家は借金に追い詰められていた。

それで……伯爵様に相談したところ、彼がヤルテルネの美しさ心を奪われ、彼女を愛妾に望んだのだ。

そしてペーレン殿は嫌がる彼女を無理やりハルアーナに送り、伯爵と一緒にさせた。

その後伯爵の前妻はヤルテルネの存在に、気を荒立たせながら死んだ。

そして、伯爵はヤルテルネのお腹の中に居た君の事を考え、彼女を正式な後妻にしたのだ。

勿論この事はヴァリメンセリ家の方でも問題となったし、その騒動の真っただ中にいたヤルテルネには良い思い出は何もない。

そのせいで君に辛く当たるのは申し訳ないよ、彼女の代わりに私が謝る。

彼女だって君が何も悪くない事は分かってる、それでも君の事を見ると、あの辛く孤独だった日々を思い出して仕方がないんだよ』

そう教えてくれた」

「……あいつめ、余計な事を」

「余計な事?

自分が悪い事をしたと思わず、余計な事と言ったのか?

なんて見下げた男なんだ!

それでも騎士かッ?恥ずかしくないのか!」

「なんだと貴様ぁッ!」


そう言うと叔父は腰に下げた剣の柄を握る。


「そこを動くな、貴様っ!」

「斬ると言うなら先に剣を抜けよ……

そうしたら母の代わりに自分がその仇を取ってやる!」


自分も剣の柄に手を添えた。

奴が抜いたら、躊躇(ためら)いも無く殺そうと決めていた。

自分の為に周りをとことん利用しつくした、この男……殺すのに何の制御(おさえ)が必要だろう?


「旦那様っ!」


この時、自分達の口論に割って入る様に、この家の使用人が部屋に飛び込んできた。

……乱入者によって、この部屋の空気が変わる。


「落ち着いて下さい、お二人とも!」


使用人の言葉に、自分たち2人に正気が戻った。

そしてその空気の中で叔父は言う。


「貴様は勘当(かんどう)だ、ヤークセン……

今日から貴様は息子でも一族でも何でもない、二度と俺の前に姿を現すなッ!」

「ああ、自分もアンタと縁を切る。

こんな見下げた男に、頭を下げるつもりなんて毛頭ないんでね」

「恩知らずめ!この歳まで育ててやった恩を忘れやがってッ‼」

「自分を育てたのはアンタじゃない!

エラーコンだ!カン違いするなっ!」

「なんだとォォォォッ!」


そう言うとこいつは俺に飛び掛かろうとする、しかしそれを使用人が(すが)り付いて止めた。

それを見て更に自分は、その様子をせせら笑う。


使用人(コイツ)が横から出てこなかった時は、飛び掛かる事も、剣も抜けなかった奴が、今なら飛び掛かれると言うのか。

勇気も無い名ばかりの商人騎士め」

「貴様ぁぁぁぁッ!」

「お前が戦える者か?腰抜けがァッ!」


叔父は見たことも無いほど顔を真っ赤にして自分を「殺す、殺せっ!」と絶叫した。


「やれるもんならやってみろ!

お前が贅沢(ぜいたく)を覚えていたころ、自分は()てつく大地の上で何万、何千回と剣を振るっていたんだ。

……幾らでも返り討ちにしてやる」


それだけを言うと自分はこの部屋を出た。

背後で叔父が「殺せ、殺せっ!」と数限りなく絶叫する。

それを聞きながら自分は「自分で“(ころ)す”と言いながら、他人に“()れ”て言うのかよ……」と呟いた。

この後自分はカッコ悪い話だが、叔父の逆襲を恐れ、急ぎこのルアーランマを逃げ出した。

こうして自分は騎士家の人間ですら無くなったのである。


……隠れながらルアーランマを抜けるのに、この後自分は2日掛けた。

そして安全になった時、自分は初めて冷静になって今の事を振り返る。


「……ルティアの事を、相談できなかったな」


目的を思い出した自分は、もう何もかもが遅いと知った。


「これからどうしよう……」


今更だが。途方に暮れて呆然(ぼうぜん)とする。

この時、いつの間にか自分は、ルアーランマの隣にある荘園に逃げ込めた事に気が付いた。

そして近くに居た農夫に話しかける。


「ああ、すみません。

ここの領主様はどなたでしょうか?」


モンタプータへ帰る為、道を尋ねようとしてそう聞くと農夫は言った。


「ココはレイヨンプータだよ。

領主様はアルンスロット様だ」


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