90 子牛の丸焼き・ドブラジーニャ添え
物々交換まで後3日って所でようやくロリババアから紫芋とコメ酒が届いた。
わざわざマットさん自らが届けに来てくれたが代金は誤魔化したりせんぞ?
ついでに大量の米も来たが……これは多分マリアが頼んだんだろう。
安定期に入るのはもう少し先だしな。
「スマンがハニーから頼まれてな、あのジャガイモという芋を個人用で買いたい」
「ジャガイモならオヤッサンだな……案内するよ」
一応ウチでも育てているが家族で食う分しかないし、それでも足りずオヤッサンに頼ってるぐらいだからな。
しかもウチのはほぼポテチで、キャリやタープのオヤツに消えてしまう。
代金はベーコンで支払ってるけど。
「あ、苺心……サーマかグリルから荷物が来たら受け取りを頼む」
「はーい」
さてオヤッサンは……畑に居たか。
早くも引き取った子供に仕事を教えてたよ。
「おう兄ちゃん、どないしたんや?」
「此方のマットさんがジャガイモを買いたいらしくてな」
「さよか、ほな商談と行こうやないか」
さて、子供達も頑張って覚えようとしてるし後でベーコンでも差し入れてやるか。
いや、子供なら可愛い妹の作ったスイーツの方がいいかな?
「あら、ウメオはんやないか」
「カアチャか……いきなり子供が増えて大変だったな」
「何を言うとるんや、増えた原因はウメオはんにもあるやないの」
それを言われると申し訳なくなるが事実ではある……お詫びはベーコンで払おう。
他に出せる物がないとも言うが。
「別に恨んどらんよ、ウメオはんのお陰でジャガイモにキャベツ、キュウリにオクラといった新しい野菜がようけ売れとるさかい……生活はむしろ楽になったぐらいやわぁ」
子供を合計8人も引き取っておきながら楽になったって……以前はどうだったのかが気になる。
まあ、力になれたんなら良かった。
どうやらセロリは上手く育たなかったらしいが……まあなくても問題はない。
ってかオクラを委託してまだ1週間も経ってないのにもう売れてんのかよ。
「ああせやった、タープちゃんには向かへんけどマリアにこの粕酒を温めてから飲ませたってぇな」
タープに向かない、マリアに飲ませる……酒か?
妊婦に酒は駄目だろ、とは思ったが粕酒って名前的に甘酒かな?
「カーニズに行けばタダで貰えるサケカスっちゅー物をショウガに少しの砂糖と一緒に煮込んで作るんやけどな、身体が暖まるしお酒を飲んだ後みたいな気分に浸れんねん」
ああ、間違いなく甘酒だわ。
どこで作り方を聞いたのかは気になるけど、まあ間違いなく迷い人の知識だろう。
しかし甘酒か……これは盲点だった。
確かにこれなら幾ら飲んでも酔わないし、コメ酒ってか日本酒があるなら酒粕だってあるに決まってるわな。
それに元が米だからか少量の砂糖で充分に甘くなるから可愛い妹も好むし、栄養価も高い。
ただ酒の香りは強いからタープには向かないのも納得だ。
「因みにそのサケカスだかな、塩か醤油を混ぜてからキュウリを漬けて2日ぐらい置いた物を薄切りにして食うと酒に合うぞ」
「ホンマか!」
いわゆる粕漬けっていう漬物の一種で、キュウリの他に大根やカブで作っても美味い。
ご飯のお供には勿論、酒との相性もいい。
まあ、子供には向かないから米との相性は伏せるが。
野菜以外にも鮭の切り身やカマを漬けて焼いてもいいぞ。
マットさんがジャガイモを買って戻ったら……そこに居るのはトングとヘラか?
可愛い妹とベルが荷物を確認してる辺りあの2人が持ってきたんだな。
「あ、お兄ちゃん……」
……ラム肉の下から見える大量の氷ったラズベリーとモンキーバナナは間違いなく可愛い妹が頼んだ物だな。
別に怒りはせんが頼むなら先に一言ぐらい言ってくれ。
「あー、そういや2人は肉を食える様になったのか?」
「あ、はい……ニワ肉や子供のウシなら何とか」
子牛も鶏のささ身みたいに癖のない肉だからな。
その分味も薄いというか淡いというか……牧場長が言うにはイタリア辺りだとその淡さが好まれるらしいけど。
でもバーベキューで焼いて食うなら多少は癖があった方がいいと思う。
「ふむ、マレスが来るとしたら前日だろうし……夕飯の準備をするか」
「え、まだ太陽が真上にありますけど?」
「マットさんにお前達も食って行くだろ?なら準備は早い方がいい」
さて、何を作るかね……
ベルが居るから下手な物は作れん上に妊婦でも食える物って条件があるからなぁ。
ってこれ……ラズベリーやバナナに気をとられて気が付かなかったけど子牛か?
「ジョニーから聞いた……ウメオはこの子供のウシを、美味しく焼けるって、だから注文しておいた」
おいジョニーさん……マリアに何を吹き込みやがった。
しかもこれサイズ的にギリギリ子牛と呼べる大きさだし。
まあこれぐらいなら何とか出来るけどな。
「苺心は車から針金、ベルは裏に積んである鉄屑を持ってきてくれ……久しぶりに作るティーチャー風の丸焼きだ」
「はーい」
幸い必要な物は足りてるからな……
仕上げ方は色々あるが、今回はプルドビーフにして米と一緒に食おう。
それならウェルダンでも柔らかく、妊婦でも安心だ。
「お兄ちゃん、ティーチャー風って事はドブラジーニャも作るんでしょ?それ私が作ってもいい?」
「確かにそのつもりだったが……珍しいな」
「うん、子牛を見たら無性に作りたくなっちゃって」
まあ丸焼きは手間も時間も掛かるからな……頼めるならむしろお願いしたい。
因みにドブラジーニャとはブラジルで食べられている煮込み料理の事で、牛の内臓とインゲンマメをトマトとチキンブイヨンで煮て作るんだがバーベキューで作っても当然美味い。
現地では火曜の昼に食べる習慣があるらしいが……ティーチャーは材料さえあればいつも食ってた気がする。
可愛い妹はティーチャーによくなついてたし、たまにブラジル料理を食べたいと言う事があったからなぁ。
……事実は伏せとけってジョニーさんの指示がなければティーチャーに文句の1つも言いたかった所だよ。
伝える手段なんざないけど。
よし、子牛は皮を着けたまま内臓を抜いて、足を畳んで針金で固定して……鉄の棒を尻の穴から口まで貫通させて縛り付けたら金属加工で作った支柱に通して固定、と。
このまま焚き火をして背中からじっくりと焼いてやる。
ティーチャーから課題を出された時は専用の器具とモーターで子牛を回転させながら全体を焼けたんだが……この世界にはないからな。
代わりに鉄棒の端にハンドルをくっ付けて、絶えずゆっくりと回転させてやろう。
時間と体力を大量に消費するが美味い肉の為ならば仕方ない。
おっと、焼く前に……この注射器もどきで内部に酒とリンゴ果汁に醤油を混ぜた物を注入してやらねば。
確か正式名称はシリンジとか言ってた気がするけど、見た目が完全に注射器だから俺は注射器もどきと呼んでいる。
こうするとリンゴや酒で肉が柔らかくなる上に中心まで味が染みる、更に仕上がりがジューシーになるからな。
ただやり過ぎると仕上がりが穴だらけになっちまうし折角の調味料が溢れて炭火が消えるから注意が必要だ。
因みにこの注射器もどきもさっき作った。
「内臓は持って行くね」
「おう、頼んだ」
しかしアレだな……
これを初めて焼いたのは確か俺が14歳の頃だったが、今更ながらよく焼けたよなぁ。
成長して多少は力が上がった今ですら大変だってのに。
あの時はモーター頼みで回転させていた物を人力でやってるからその分疲れるのもあるが。
ってかマットさん、見ながらメモらずとも聞けば教えるぞ?
何ならこの支柱とハンドルも差し上げるぞ?
ふぅ、やっと焼けた……もう日が沈んじまったな。
タープとマリアも凄い迫力で睨んでいる上にキャリが腹を空かせているし、早く仕上げねば。
仕上げはいつかの空飛ぶイノブタと大して変わらない、皮を剥がしたらベアクローでプルドビーフにしてやればいい。
味付けはすりおろしたリンゴとショウガ、砂糖と醤油を混ぜたタレでつける。
後は熱々のご飯と一緒に食えば……
「はい、ドブラジーニャとライスバンズも出来たよ」
「ライスバンズ……ってよく作れたな?」
「型に詰めて焼くだけだし、手間は焼きおにぎりと一緒だよ」
まあ、ライスバンズに挟む手間は増えたが食いやすさならこの方がいいか。
プルドビーフとドブラジーニャ、それに薄切りのタマネギをライスバンズで挟んでやれば準備完了だ。
後は豪快に噛ればいい。
「この肉、いつもより味が薄いんやけどジューシーやな」
それが子牛の持ち味でもあるんだがな……
トングとヘラも普通に食ってるし、苦労して焼いて良かった。
「薄いけどその分食べやすい、このトマトで煮た肉も美味しいし、粕酒も美味しい」
それは食事と一緒に飲む物ではないと思うんだが……まあ久しぶりの酒だしいいか。
それにしてもドブラジーニャも好評だし、これならモツ煮も作って問題なさそうだな。
ただレバーは妊婦の毒になるとか言ってたし、出産が終わったら大腸を入手して……
「パパ、このクニュクニュしたの噛み切れない!」
……流石にキャリにモツはまだ早かったか。
ベーコンとエビフライは気に入ったのか凄い勢いでがっついてるが、それ以上にレクタさんやマットさんの食いっぷりが凄まじい。
仕方ない、作る時は晩酌のツマミだけにしとこう。
ブラジルの煮込み料理、結構好き




