06 マッチョが打ったうどん・驚愕の性癖添え
朝飯の後、再びマリアが塩漬けにしたイノバラを持ってきた……しかも30頭分、いやもっとあるな。
いや、何で?
「ベーコンという調味料……あれは絶対に売れる!」
いやいや、見てたんだから解るだろ?
ベーコンは手間暇かけて作るんだぞ?
それに買った分の肉もベーコンにしなきゃならんし、スモークチップが足りるかどうか……
「大丈夫、手間賃はちゃんと払う……足りない材料があるなら私が用意する」
いやいやいや、そういう問題じゃないから!
スモークチップは何とかなるかもしれんけど茶殻が絶対に足りなくなるし。
「何なら……私と一夜を共にしても、いい」
「やらせて頂きます」
こんな美人が潤んだ瞳の上目遣いで一夜を共に、とか言われたらやるしかない。
このチャンスを逃したら二度と訪れないかもしれんからな!
「「……サイッテー」」
うっせー、自覚はしとるわ!
という訳で鉄屑を集めて貰って、これを鉄棒とドラム缶、それと肉を吊るせるフックに金属加工した。
これで大量に仕込む事が出来る。
スモークチップはリンゴが実らなくなった木を粉砕して使う事にしよう。
茶殻に関しては……紅茶の茶殻があった方が香りが良くなるんだが、まあ足りなくなったら諦めるしかない。
この世界には紅茶はおろか茶と名の付く飲み物がないらしいからな……
「それはそうとマリアさん、お店は?」
「読み書きの出来る孤児と用心棒を1日100バランで雇った、問題ない」
それでいいのか……まあ働く本人にしたら日当一万と考えれば割の良い仕事ではあるだろうが。
ふぅ……夕方になってしまったがようやく全部燻せたぞ。
これで明日の朝には食べ頃になってる筈だ。
作ってる所?昨日もやったから割愛だ。
「お疲れ様、ありがとう」
「どういたしまして、報酬は忘れんなよ」
「んで、このベーコンをナンボで売るんや?」
「材料費と人件費、手間賃などを加味して……おひとつ500バラン」
たっか!?
通販だって本格的なベーコンが送料込みで1ブロック五千円……ここの通貨なら50バランで買えるぞ!
いや、それでもバラ肉丸ごとではないけど。
「確かにそれが妥当なお値段やな……美味いし」
タープさん、何で同調しちゃってんの?
俺の作ったベーコンが評価されるのは嬉しいが……金額がデカくて驚愕の方が勝ってるんだが?
「お兄ちゃんはこの世界ならベーコン作るだけで生きていけるんじゃない?」
「かもな……もう永住してもいい気がしてきた」
タープやマリアみたいな美人に頼られるのは悪い気がしないからな。
それに可愛い妹を養うにも、バーベキューするにも金は必要だ。
何よりこの世界なら毎日バーベキュー出来るのが魅力的……うん、帰る必要が全くないな。
流石に疲れたし昨日塩漬けした肉はまだベーコンには出来んから……あ、そうだ。
「苺心、昨日薄力粉を買ったという孤児院に案内してくれ」
「うん、解った」
何故かマリアとタープも着いてきたが……まあいいか。
大量のベーコンを作っていたせいか胸焼けが酷くなってきたからな……正直あんな数を一度に仕込んだのは初めてだ。
俺もまだ修行が足りないらしい……尊敬するピットマスター(故人)に追い付けるのは何時になるやら。
なので夕飯は魚の出汁を使ったアッサリ目のうどんにしたいから小麦粉が欲しい。
薄力粉だけでも美味いうどんになるが少量の強力粉を混ぜてコシを強くしてもいいな。
入れ過ぎるとパスタみたいに固くなっちまうけど。
「あ、あそこだよ」
「これは中々……ボロいな」
雨漏りが酷そうだし、裏手に見える麦畑も痩せてる印象がある。
とはいえ俺は農業の事なんざ一切知らん、だって野菜狂信者じゃないからな。
あくまでも見た感じの印象だ。
「これでも大分マシな方、他の街にある孤児院には畑はおろか屋根がない所もある」
そういやマリアは行商人とか言ってたっけか……なら他の街の孤児院を見る機会だってあるよな。
というか畑はまだしも屋根ぐらいは何とかしとけ、雨が降ったら子供達が風邪引く所か最悪の場合命に関わるぞ。
「あ、イチゴお姉ちゃん!こんにちは!」
「こんにちは、また小麦粉を買いに来たんだけど……」
ふむ、ゲームならここで美人なシスターか初老の院長が出てくるのが定番だが……
出てきたのはイケメンのエルフ、しかも筋トレしてたのか知らんが上半身裸だし。
オマケに両手にダンベル握っていて腹筋が6パックに割れていやがる……これ確実に敵に回しちゃいけない奴だ。
「こんにちは、シェラフさん」
「いらっしゃいイチゴさん、またあのパンも作れない様な小麦粉を買って下さるそうで……本当にありがとうございます」
おいシェラフとやら、話しながらスクワットするのは止めないか?
さっきから汗の臭いが凄いんだが?
「兄ちゃん、もしかしてハーフか?」
「ええ、当時の院長から聞いた話では自分が2歳の時に両親共亡くなったそうで、母は普通の人間だった様です……自分は顔も覚えていませんが」
そりゃ当時2歳じゃな……覚えてたら逆に怖いわ。
というか淋しそうな表情で腕立て伏せするのは止めろ、背中の鬼神が怖い。
「ねえお兄ちゃん、この小麦粉がもっと売れる様にならない?」
「何だ苺心、まさかこういうイケメンがタイプだったか?」
俺が尊敬するピットマスター(故人)も健全な魂が宿っていなければマッチョになれない、と言っていたからな……シェラフの性格は信頼してもいいだろう。
経済面が不安過ぎるが多少の不幸なら殴り飛ばせそうだし、反対はしないぞ?
「シェラフさんはゲイだし、私もそんな気はないよ」
「自分的にお兄さんはもう少し筋肉がついた方が好みなんですが」
あー、シェラフは男以外を愛せないタイプか。
って俺は男同士で恋愛する気はねぇよ!?
まあ可愛い妹の頼みだ……多少は助言してやるか。
「……とまあこれがうどんの打ち方だ、この小麦粉を食うならこれが一番だ」
「ふむふむ」
基本的に水加減と捏ねる、叩く、寝かす、伸ばす、これさえしっかりやれば失敗はしない。
大抵は足踏みまでやってコシを出すがシェラフは力が強そうだし、捏ねるだけで充分だろ。
「それと生地を寝かす前は赤ん坊の耳たぶみたいな固さを意識しとけ、それより固いと仕上がりが悪くなって食えた物じゃなくなる」
「解りました」
バーベキューしか脳のない俺が何でうどんを打てるんだって?
可愛い妹が手打ち麺の焼きうどんを食いたいと言ってたから覚えてみた。
実際そうやって作った焼きうどんを喜んで食っていたぞ。
よし、次はツユだな。
「マリア、すまんが鰹節と醤油を買って来てくれ」
タープがショウユはあると言ってたし、たこ焼きに削り節が乗っていたからな……何処で売ってるのか解らんから任せた。
個人的に昆布も欲しいが海草は全く見掛けないから諦めよう。
「9バラン、ツケにしておく」
細かいな。
まあいい、更に一味足すなら……アレだな。
「タープ、港でイワシを1箱ぐらい貰って来てくれ」
「りょーかいや」
「苺心はこの布を出汁袋にしてくれ、2枚」
「はーい」
よし、竃で大量の湯を沸かしている間にツユの準備だ。
イワシの鱗を取ったら腹を開いて内臓を取り出して洗って、コンロで焦げない様に白焼きにして……布を袋にした出汁袋に入れて出汁を取る。
こいつはいわゆる煮干しの代わりだが、こうやってもいいダシになる。
この場合鱗と内臓はちゃんと取らないと苦味が出るから注意だ。
同じく削った鰹節を別の出汁袋に入れたら一緒に出汁を……と。
出汁袋の利点は出汁殻を直ぐに取り出せて、灰汁を殆ど出さずに澄んだスープが作れる所だな……完全に出ない訳じゃないが直接煮込むよりも少なく済む。
まあどの道、最後に濾してやらなきゃ美味いスープにならんし。
取り出したら醤油で味付けして煮立てて、弱火にしておこう。
このまま麺を茹でてかけうどんでもいいが折角だ、余ったイワシで再びイワシハンバーグ(ベーコン抜き)を作って、焼いて仕上げに乗せてやる。
イワシは栄養があって安くて……この世界じゃタダだったが、凄く美味いからな。
子供の成長にも非常に役立つだろうから作り方を教えておこう。
「これ、おいしい!」
「これ、ほんとうにパンにならないこむぎこでつくったの?」
「ちゅるちゅるしておもしろーい!」
「うえにのってるのがやわらかくておいしー!」
うむ、しっかり食って大きくなるんだぞ。
あ、言っておくが俺は子供は好きだがロリコンではないぞ。
「何やろ……このうどんっちゅーのは初めて食った筈やのに、妙に懐かしい様な気ぃするわ」
関西人はたこ焼きとうどんが好き、というのは一種の偏見ではあるが……実際に好きな奴も居るからな。
多分、関西弁を喋る内に魂が関西寄りになってるんだろう。
「美味しい、これも売れそう」
ガメついなマリア……
黙っていれば美人なのに、その守銭奴じみた性格で台無しになってるぞ?
うん、女神様も含めて俺の周りには黙っていれば美人しか居なかったわ。
可愛い妹は美人というより美少女だからカウントしていない。
「売るとしたらこの孤児院で販売するべきだろう……うどんはここで作っている小麦粉でなければ作れないからな」
「成程……シェラフ、商談がある」
「は、はい」
すまんなシェラフ……俺はバーベキュー以外の料理で稼ぐ気はない、というかそれ以外が普通の味にしかならんのだ。
詳しい作り方なら教えるし売れれば孤児院の助けになる筈だから、まあ頑張れ。
「イチゴお姉ちゃん、孤児院を助けてくれてありがとう!」
「私はただお願いしただけなんだから、お礼なんていいんだよ」
うん、助けになったかどうかはまだ解らないし、実際に手を出したの俺だからな。
可愛い妹が言わなきゃ小麦粉買ってそれでおしまいだったのは確かだが。
「ぼく、大きくなったらイチゴお姉ちゃんとケッコンする!」
何……だと!
「そっかぁ……じゃあ8年後にね」
何その満更ではなさそうな、俺は今まで一度も見た事がなかったはにかみ笑顔!
しかも頬が紅色に染まっているじゃないか!
可愛い妹よ……まさかお前は、ショタコンだったのか!?
※全員黙ってさえいれば……だった件
「ショタコンじゃないもん、好みが年下の男の子なだけだもん!」




