52 祭りの準備・熱々のあんまん添え
夕方か夜にもう1本投稿します
遂にワニを捌く時が来た。
解体のやり方は頭に入ったけど実物を上手く捌けるかどうか不安だが……ここまで来たらやるしかない。
「落ち着けボーイ、基本的にクロコダイルと変わらんから丁寧にやればいい」
「お、おう……」
「難しく考えるなよボーイ、アリゲーターを解体する時は美味い肉を食いたいと思っていればいい……それで全てが上手く行く」
「それ、初めて熊やダチョウを解体する時にも聞いたな……解った」
なお可愛い妹はレクタさん達と一緒に野菜狂信者共の捕獲に、タープはいざって時の回復役に向かった。
祭りになれば大勢が集まるからな……野菜狂信者が来るとしたらまだ人数の少ない今日しかない。
「おー、やっとるのう!」
「久しぶりだなウメオ」
「ってマットさんにロ……族長!」
いや、祭りだから他の領土からも来る可能性はあったけど……まさかの登場にビックリしたわ。
「今何を言い掛けたのかは気になるがまあよい、明日は美味い物が食えると聞いてのう……つい来てしもうたわ」
「例のヴィガン族が来る可能性があるとも聞いている、俺も警護に着かせて貰うぞ」
やだこのオーク、素敵過ぎる!
ロリババアは美味い物を食いたいだけらしいけどマットさんの助力は有難い。
「ボーイ、彼等は?」
「ああ、ダニエルさんの孫にあたる……あ、インナーさんとその旦那のマットさんだ」
「お主、ワシの名前を忘れとったんか?」
いや普段から族長かロリババアとしか呼んでなかったんだから仕方ないだろ。
ロリババアの方は口には出してないが。
「ダニエルの……そうか、あの時のレディの」
あの時の?
……非常に気になるが今は聞ける雰囲気じゃない、か。
祭りの後に酒でも飲みながら聞かせて貰おう。
「どうもウメオさん、今日は無料で肉を食べられると聞いて子供達も連れて来ました」
「お前も来たのかシェラフ……」
ってか挨拶のついでと言わんばかりにポージングは止めろや。
特にサイドチェストがキレッキレで上腕二頭筋が輝いていやがる。
後、純粋に汗臭いぞ。
「あー、こいつはペスカタで孤児院を運営してるシェラフだ」
「オゥ、あのボロボロの建物の……マネーは無理だが定期的に採れ過ぎたコーンを寄付しているぜ」
「何と、あのモロコシをくださったお方でしたか!」
そういやジョニーさん、アメリカではシングルファザーや孤児院への支援もしてたとか言ってたな。
母親に良いイメージがないとかでシングルマザーの支援はしてないが。
牧場長のボランティアがあった時は何を置いても必ず駆けつけるし、凄く子供が好きなんだよなぁ。
「丁度いい、また食い頃のコーンが収穫出来そうだからな……祭りが終わったら持って行きな」
「ありがとうございます」
それにしてもトウモロコシの栽培や加工に孤児院の支援、害獣駆除にワニの解体から祭りとかなり手広くやってるな……
「因みにメインの収入源はバーテンダーでな、バーボンを中心とした酒とコンロで焼いた肉を提供していて評判もいいんだぜ」
「売る程バーボン作ってたのかよ!」
バーボンを提供しながらバーベキューとか……絶対楽しいだろそれ!
個人的に思う理想的な老後をそのまま形にしちまいやがって……
とはいえ評判な割にマリアが知らなかったのは……まあトウモロコシがあるからだろうな。
「そういやボーイはダニエルのレシピで作ってるベーコンがあったな……祭りの後で商談をしないか?」
「商談ならマリアも居た方がいい……ってかマリア抜きでやったら何をされるか解らん」
「オゥ、ボーイもワイフの尻に敷かれていたか」
「そういうジョニーさんは……聞くまでもなかったな」
何せ嫁がドワーフレディだからな……絶対に強い。
何て話してたら早くも2頭のワニが来やがったな……
持って来たのは下半身が蛇みたいで腹筋が6パックに割れてた女性だったが、声はやけに可愛い感じだったのが意外だった。
例えるならその声で罵声を浴びたいという耐え難い欲求に悩まされる奴が増えてしまいそうな……そんな声だ。
俺は浴びたくないけど。
「よし、やるぞボーイ」
「おう」
先にクロコダイルを解体したからか聖剣はスイスイと進んでくれる。
個人的にアリゲーターの方が臭みがない様に思うが……やっぱり内臓は食えないんだろうな。
このパワーアップした聖剣ですら脂肪の臭みを消し切れないぐらいだし。
「解体と洗浄が終わったらひとまずこのアリゲーター専用に作っておいた溜め池に入れるんだ、捌いた端から焼いても祭りまで誰も食わないから肉が腐っちまう」
「解った」
溜め池の周囲は新品の鉄で囲ってあるみたいだから泥水になる事はないだろ。
それにしてもジョニーさん、去年までいつも一人でここまでやっていやがったのか?
「今年はボーイのお陰で半分の労力で済むからな、本当に助かったぜ」
まあワニの解体は是非とも覚えたかったし構わんけどな。
「ほら、追加が来るぞ」
「お、おう」
「……動くな」
この妙な懐かしさと倦怠感を感じるセリフにチラッと見えた短剣?
「……また来たのか野菜狂信者共」
「オゥ、今年も懲りずに来やがったなベジマニア共め」
「誰かと思えばまた貴様か!それに毎年邪魔をするジジイも一緒なのか!」
これで3度目なんだが、こいつはどんだけ俺に縁がありやがるんだ?
「で、今回はこのアリゲで何をするってんだ?」
「フン、こいつを手懐ければ祭壇の扉が開くと言われている……そこで女神を放逐するのだ!」
「前回もその前もだが、その伝承とやらはアテにならんから信じない方がいいぞ?」
当の本神とその眷属のお墨付きだからな。
ってかその祭壇って異世界の金属で作った物でないとならない筈だぞ。
「やれやれ、ベジマニアの発言って奴は意味がわからんな……会話が成立する気がしないぜ」
「それは同感だ」
草食獣と肉食獣とでは会話が出来ないのと同じ事って奴だろう。
しかし、こいつは一方的に刃物を持ってるとはいえ何度も遭遇してると俺でも勝てるんじゃないかって感覚が沸いてくるな。
とはいえ戦闘には向かないと女神様の言葉がある、我慢しよう。
「で、ボーイの聞きたい事は聞けたのか?」
「まあ、現時点で必要な事はな……後はふん縛った後で肉を食わせながら尋問するだけだ」
「だそうだ、頼んだぜハニー」
「はいよ!」
ラビナさんにベル……それに可愛い妹までいつの間に!
あっという間に俺とジョニーさんの背後に居た野菜狂信者共をふん縛っちまった……強ぇ。
だが可愛い妹よ……亀甲縛りはどうかと思うぞ?
「ワイフは鍛治や料理が壊滅的な代わりに強いんだ……娘も同様にな」
「ああ……納得したよ」
「しかしストロベリーは空手をやってるとは聞いていたが、娘と同じぐらい強いじゃないか」
「ここまで力を付けたのはこの世界に来てからだけどな……」
とはいえ歳も近そうだしジョニーさんの娘とあれば可愛い妹も仲良くするだろ。
「あ、そうだ……レクタさんの方にも1人来たらしいけど難なく捕まえたって」
「そうか……で、後何人居るんだ?」
「フン、言う訳がないだろう!」
まあ、言わないよな……こいつの口の硬さは中々の物だ。
「……ねぇお兄ちゃん、今回は私がやってもいい?」
「ん?そりゃ構わんしトゥール様もちゃんとカウントしてくれるだろうが……」
って可愛い妹よ……その湯気が昇りまくっている甘い匂いがする真っ白い物体は何だ?
「ここに来る前にロジー君が今日ここに来るって言ってたから、特製のあんまんを作ったんだよ」
成程……冬のコンビニの定番、あんまんか。
生地は強力粉と酵母があれば作れるし小豆は見当たらなかったが幾つか豆があるのも確認済だからな……作ろうと思えば作れるか。
「これを例のトカゲの脂でカラッと揚げて更に熱々にしたら完成だよ」
肉や魚ではないが脂ならセーフだろ、多分。
しかも中身はこしあん……熱々のこしあんは時に強力な武器となる。
「あ、お兄ちゃんとジョニーさんも食べる?揚げてない蒸しただけのあんまん」
「「頂きます」」
「私も食べていい?」
「うん、いいよ」
何か、早くも仲良くなってる様な……悪いよりはいいけど。
「やめっ、熱っ!熱いっ?」
「ラビナさん、ちょっと口をこじ開けてくれますか?」
「ええ、こうかしら?」
「フガッ!フガーッ!」
蒸してそのままカラッと揚げたあんまんとか確実に口の中を火傷するよな。
肉まんやピザまんは熱々を頬張るに限るがあんまんは割って中身を冷ましてからでないと……しかし美味いな。
「甘くて美味しい!」
「やはりストロベリーの作る甘味は美味いな」
「あ、あの……今回来たのは我等含めて5人で、次の目的も話しますから油に入れる前の物で許しては頂けないでしょうか?」
ふむ、こいつはジョニーさんに刃物を突き立てたからな……
それにあんまんだけだとノルマが達成できん。
「大丈夫だよお兄ちゃん、この中身はひよこ豆っぽい豆をベーコンのストックと砂糖で煮込んだ餡子だから……出汁殻はタープさんが食べたから無駄にはなってないよ」
「よし、話せ」
何てやり取りをしている内にマットさんとシェラフも捕まえて来たな……
だがシェラフよ……何でお前の頬は艶々としているんだ?
結局5人に可愛い妹特製のあんまんをおみまいして、次の目的を聞いてから解放してやった。
内1人は3回目だし流石にカウントされないだろうから……後2人か。
本当に先が長過ぎる。
コンビニのあんまんって何であんなに熱いんだろうか……




