36 マッチョ領主の審査・酔っぱらいガニ添え
あっという間に祭りの本番……
俺に出来る事は全てやったし、念のためロジーには例の奴と面識がないキャリを助手に着けてやったからな。
後は結果を見守るだけだ。
「ウメオ、イチゴならともかくキャリを助手にして大丈夫なの?」
「大丈夫だ、キャリはタープより安心して見ていられる」
「どーゆー意味や!?」
絶対に口には出さないが、タープの料理の腕はお子様以下って意味だ。
まあ料理が下手な奴というのは少なからず存在するから気にする事はないぞ。
しかもキャリは料理の才能があったらしく、あのカニの殻を面白いぐらい早く剥いていたからな……しかも素手で。
近い内に色んな料理を教えてみるか。
「それにしても……クラブにあんな食べ方があるとは思わなかった」
「それな、作っとる所を見たらホンマにビックリしたんよ……最初はウメオがトチ狂ったか思うたわ」
教えた料理はある意味残酷な描写だからな……それは認める。
だがそんなカニを1人で5杯も食ったタープにだけは言われたくない。
「来た、あの人が新任の領主で、名前は確かナニワ・マントルという……」
ほう……貴族というぐらいだから裕福な腹をしてるかと思ったらあの腕の鍛えられた筋肉、ただ者じゃないな。
ってか本当にこの世界の男はマッチョだらけだな。
「大丈夫、ウメオのお腹もうっすらと6つに割れかけてる」
「最近は毎朝鍛えとるし、もうちょいやね」
嫁達の優しさが辛い……6パックを目指して頑張るよ。
「お、始まったで」
「参加者の大半がお酒の他は塩と味噌しか用意していない、これなら楽勝」
まあ大抵の奴等には勝てるだろうが、問題は例の奴だな。
金に物を言わせて良い材料を確保しているだろうし、酒を唯一販売する権限があるなら選び放題だろう。
問題は他の調味料だが、あれはエールって酒だったか?
それに塩といつぞやの赤いソースがあるな……確かにあのカニなら辛いソースも合うだろうが人を選ぶぞ?
俺やマリアなら平気だろうが。
さて、調理過程はすっ飛ばして……
どいつもこいつもカニの足に塩を振って酒で溶いた味噌を塗って焼くか、酒蒸ししたカニの足に塩と味噌を塗って出すかしかない。
それはそれで美味いのは解るし、あのカニは下手に手を加えたら持ち味を損なうのも理解しているが……もう少しぐらい工夫しようぜ?
「お、次はキャリ達の出番やな」
てっきり最後かと思いきやその1つ前だったか……
まあ、あの辛味しかないソースの前で良かったと思うべきだな。
下手をしたらあの辛味で領主の味覚が麻痺していた可能性もある。
「……ほぅ、クラブの殻を皿代わりにするとは」
正確には鍋代わりと言って貰いたい所だがまあいい。
俺が教えたのはカニの甲羅にカニミソを混ぜた酒を注いで、殻を剥いた足やハサミを入れて焼き、食べる……酔っぱらいガニの甲羅焼きという料理だ。
尊敬するピットマスターが冬によく食っていた、かつ簡単に作れる……この世界のカニはデカいから大変だった。
流石にキャリやロジーだけじゃ運べないぐらいデカいから可愛い妹が配膳したけど、それぐらいなら構うまい。
「おお……これ程に甘く柔らかいクラブは初めてだ!それにこの酒も見た目は悪いが酒精が強く味もいい!」
可愛い妹と嫁が作ったどぶろくだからな、不味い筈がない。
見た目の悪さは否定しないが酒にしては珍しく栄養価も高いんだぞ。
そんなどぶろくに2晩も漬け込んだカニは非常に柔らかく甘いだろう。
アルコールは焼いた時に飛ぶから子供でも安心して食えるぞ。
因みに領主に出したどぶろくはそのままだが、料理に使った酒は麦麹が残ってると失格になるかもしれんからと濾して清酒にしてある。
「だが……この酒の他に塩とショウガが入っているのは解るが、あと一味……この強い旨味が解らん!一体何を使ったのだ?」
「え、えっと……それはカニミソの味です!」
甲羅焼きの最大の利点……それはカニミソを余さず食えるという事だ。
松葉ガニに限った話じゃないが、カニで一番美味い部位は何処だと聞かれれば100人中50人が答える……それがカニミソだ。
だが海で採れるカニのミソは緩いから、料理する段階で4分の1が無駄になる事が割とあったりするんだよな。
それに川のカニにはないが海のカニには独特の苦味があったりするから好き嫌いが別れる。
だがこの甲羅焼きなら酒が苦味を消してくれるし、むしろカニの甘味を引き立てる要素にもなる。
余談だが尊敬するピットマスターはバーボンの入った樽に大量のワタリガニを漬けて、ビールで甲羅焼きにして、それを肴に日本酒を飲んでいた。
「ふぅ……久しぶりに満足した」
おい領主さんよ、まだ1人残ってるぞ。
個人的に忘れてくれて構わない相手だが審査は平等にやっとけ。
「最後は……赤いな」
そりゃあの激辛ソースを使ったんなら赤いだろう。
というかコッチと同じく甲羅の中にカニの身を入れて出しているが……まさか盗み見してたのか?
「……この辛味がクラブの甘味を引き立ててはいる、だがそれだけだな」
あの辛味しかない激辛ソースにも負けない甘味を持つカニか……やはり凄いポテンシャルがあったんだな。
しかしあの料理は見た感じだとハサミの身しか使っていなさそうだし、折角のカニミソもない。
人によってカニはハサミが美味いという奴は居るが足だって美味いんだぞ。
というかあいつも流石に領主に異議を申し立てたりはしないか……って何か震えていやがるな?
まさかマットさんのボディーブローを喰らってマッチョがトラウマになったのか?
結果は当然の如くこちらの勝ちで、賞金の10000バランを頂いて分配の話になった訳だが……
俺達の取り分として5000バランとか言い出した所をマリアが交渉して何とか2000バランに抑えさせた。
「私は用意したショウガの代金、10バランだけ頂くけど……後はいい」
金にがめついマリアですら遠慮してるし……
「カニを捕まえたのはシェラフだし、実際に料理したのはロジーだからな……レシピの代金で1バランは貰うが後は酒を作った苺心とタープで分けてくれ」
「私もどぶろくの作り方を教えただけだし1バランでいいよ、という訳で残りはタープさんで」
「こんな大金出されたって……宿代に掛かっとる分だけ頂いて、残りはこの孤児院に寄付したるわ」
今回は家族部屋を借りて1泊30バラン、それもマリアの貯蓄から出して貰っているからな。
結局朝と晩の飯代だけ足が出る結果になったが、もうすぐサーマの買い取りがあるし何とかなるだろ。
そしたらまたベーコンを作らないとな。
「そういや今回はヴィガン族の連中は来んかったなぁ」
「おい止めろ、フラグになったらどうする」
シェラフはともかく、孤児院の子供達まで巻き込みたくはないからな。
やはり俺もシェラフ並に鍛えた方がいいだろうか?
甲羅焼き、美味しいらしいですよ(値段高い&アレルギーの都合で食った事はない)




