17 思い出のガーリックライス・思い出のベーコンエッグ添え
コンテストに勝って、その場でタープとマリアとの挙式になって……幾ら何でも展開が早過ぎないか?
まあいいか、下手に先伸ばしにしたら俺がヘタレてしまうだろうからな……いっそ勢いに任せた方がいい。
それじゃ改めてタープの耳に触れつつ抱き付かれたら……女神様が現れた。
許可を頂いた所で次はマリアとキス……うわ、周囲の奴等にメッチャ見られてる。
例の爺さんが復活して嫉妬の怨念を向けて来たが、今更止まれん。
終わった所でタープともキスした所で「末永く爆発しいや!」ってサムズアップで祝辞を頂いて終了……いや、それ祝辞としてどうなんだ?
「おめでとう!」
「幸せになー!」
「チクショウ、羨ましいぞ!」
「リア充爆発しろ!」
「イチゴちゃんに飼われたい!」
まあ、祝福はされてるみたいだからいいか……
何にせよこれで俺も嫁が出来た訳だ……なのに今一実感が湧かないのは何故だろうか?
というか最後の奴……これで3回目なんだが、何でここにも居るんだ?
なんて事があった翌日……
流石のマリアも「初めてが両親の居る実家はちょっと……」との事で、脱DTはお預けになっている。
そりゃ親の居る所じゃな……タープもマリアと一緒でいいと言ってるし、教会に戻るまでは我慢しよう。
毎晩の如く添い寝はしに来るのにな……教会に帰るまで持ってくれ、俺の理性よ。
「んで、コンテストと婚姻は終わったけど……帰るんはいつになるん?」
「今、イチゴはミルク屋にバターの作り方を教えている……それに私もベーコンを売りたいから、最低でも3日は欲しい」
移動にも3日は掛かるから合計で一週間近くお預けなのか……そういやコンテストの後でベーコンを売るって言ってたな。
苺心の教えるバターは基本的な奴で俺が頼んだ隠し味は入ってないが、広まれば食文化が発展するのは間違いないだろ。
特にここカーニズ領なら肉食が盛んだし、肉汁と脂身とバターを絡めて炒めた米は美味いからな。
ニンニクがあればガーリックライスにもなるし、ステーキを食うなら最高の付け合わせになる。
そういや園児の頃にやらかした大喧嘩はガーリックライスに合うのはステーキかローストビーフか、だったっけな。
あいつはローストビーフだと言い張って、俺はステーキだと意見を曲げる事はなかった。
今更ながら全く園児らしくない理由だが、当時の俺とあいつが真剣だったのは確かだ。
……久しぶりに作ってみるか、ローストビーフ。
幸いこの世界にもニンニクはあるし、ちょっと固い肉なら安く買える。
バターもコンテスト用に作ったのが充分に余ってるしな。
よし、新婚だからって良質なランプ肉が安く買えたぜ。
こいつは塊のまま……いや、ステーキ用に3枚分だけ減らすか。
塩コショウとガーリックパウダー、好みの香辛料を刷り込んでからコンロに鉄板を嵌めて焼く。
全面に焼き色を付けたら料理用の布数枚でくるんで、同じく料理用の毛布で包んだら1時間ぐらい放置する。
ここに来てアルミホイルがない時の為にって用意しておいた布と毛布が役に立つとはな……
一回使う度に洗濯する必要があるけど、美味い物を食う為なら苦ではない。
さて、肉を休ませている間にニンニクは潰してから皮を剥いて刻んで、ベーコンも刻んでおいてっと。
肉汁の溜まった鉄板にバターを落としてからニンニクとベーコンを炒めて、香りが出たら炊飯したコメを炒めて……
少量の酒と塩コショウで味付けしたらガーリックライスの出来上がりだ。
別にベーコンは入れなくてもいいんだが、ないとタープとマリアが不満がるからな。
それにガーリックライスに欠かせない脂身そのものが売ってなかったし。
可愛い妹には悪いと思うが……一応白米も用意しておけば大丈夫だろ。
後は食う時にランプ肉を薄くスライスしてやればいい。
「こんな中身が真っ赤な肉が美味いとは知らんかったわ……ベーコン入れたコメにも合うなぁ」
「流石ウメオ、肉の焼き加減も自由自在……それに美味しい」
やはり美味い物は美味いな……っと、忘れる所だった。
ランプ肉のステーキは俺とタープとマリアの分だけだが、公平にする為にこいつもレアに焼いた。
「このステーキもそのガーリックライスと一緒に食ってみてくれ……で、どっちの方が合うかを聞かせてくれ」
我ながら馬鹿な事をしてると思うが……昔を思い出したらやらずにはいられなかった。
幸いタープとマリアは大食いだから残る事はないしな。
「こんなん、どっちも美味くて決められへんわ!」
「ローストビーフにもステーキにも良さがあって、一概には決められない」
「やっぱそうなるよな……いや、付き合わせて悪かった」
うん、どっちも美味い……これが正解だろう。
本当に、2つの意味で馬鹿な事をした。
可愛い妹から冷ややかな視線を向けられているのも仕方がない。
「そういえばお兄ちゃん、自分を族長って言い張ってる幼女がお兄ちゃんに用があるから、明日来て欲しいって言ってたよ」
苺心、その人は紛れもない族長ことロリババアだからな?
信じられない気持ちは非常に良く解るが失礼のない様にするんだぞ。
しかし俺に用事か……ロクでもない事に巻き込まれそうな予感がするな。
俺はバーベキューしか出来ないから荒事ではないとは思うけど。
そんな訳でロリババア宅……今回はマリアと一緒にタープも同伴してくれた。
「よく来てくれたのう!」
「まあ、呼ばれたらしいからな」
本当にどんな用で呼んだんだ?
早く帰ってタープやマリアとくんずほぐれずしたいんだが……
「実はの、お主の使うコンロにお主が作ったというベーコンを見せて貰ったんじゃが……ワシの祖母が残してくれたこの誰にも読めなかった本の内容はウメオになら解るのではないかと思ったんじゃ」
「誰にも読めないなら俺に読める筈がないだろ……ってこれは!?」
う、嘘だろ……何でこの本がこの世界にあるんだ?
これは俺がこの世で唯一尊敬する、偉大なるピットマスター……ダディ・ダニエル(故人)が書いたレシピ本じゃないか!?
しかも全部英語で書かれた初回発行版!
「詳しくは知らんのじゃが、祖母はこの本の絵に描かれておる迷い人の男が元の世界に帰る前に一夜を共にして、その時に母を身籠ったそうじゃ……」
マジか……尊敬するピットマスターは生涯独身だった筈だが、まさかこの世界に子孫が居たとは思わなかった。
というかこの偉大なるピットマスターが亡くなったのは6年前で俺も葬式に参加したんだが、時間がおかしくないか?
まあ異世界に転移するなんて非常識な事があるんだ、時間に大幅なズレがあっても不思議じゃないし、転移するのも日本人だけとは限らないよな。
それとその絵は写真という物だ。
言語とかどうなってるのかは……今度女神様に聞いておこう、今は重要じゃないし。
「祖母はその男から、この本にも書いてあるという1つの料理、そしてウメオも作ったというベーコンの作り方を教わったそうなんじゃが、ワシはそれを祖母が亡くなる前に1度しか食べた事がなくての……しかも母は料理が下手過ぎて作れなかったのじゃ」
「いや、そんな料理なら婆さんが解りやすく書いたレシピぐらい残しているんじゃないか?」
「母はあったと言っておったんじゃがのう、570年前にヴィガン族が攻めて来た際に燃やされてしもうた……そんな中で唯一残せたのがこの本なんじゃよ」
何してくれやがるんだ野菜狂信者共は……肉と一緒に真っ赤な炭を口にねじ込んでやろうか!
まあ呼ばれた理由は察した……それを俺に作ってくれって事だな。
確かにこの本……日本語版の方なら丸暗記するぐらいに読んだからな、何とかなるだろ。
しかし話の通りだとしたら500年以上もの時間が経過している筈なのに、この本は一切劣化していない……どう保管すればこんな状態を保てるんだ?
まあベーコンもあるにはあるけど……流石に偉大なるピットマスターが作ったベーコンと同じレベルではないがそこは許せ。
あのレベルに到達するには……今のペースで作り続けるとして後40年は修行したい。
「その料理の名前ぐらいは解るか?流石にこの本に載ってる料理を全部は作れんぞ」
主に調味料の関係で……加えて半分近く辛味の強い料理だからロリババアには食えん。
「うむ、確か……ナンタラベイケンエッグという名前じゃった」
ナンタラって……成程、あれか。
割と簡単な部類だがそれすら作れなかったってどんだけ下手だったのかは気になるが……あえて触れまい。
「……卵とハチミツ、それにタマネギとチーを用意してくれ」
よし、やるか。
今回はタープとマリアに加えてロリババアまで見学しているが……邪魔はするなよ?
コンロの火はいつも通りの片側寄せで、先に薄切りにしたベーコンを温めて脂を落としておく。
その間にタマネギをみじん切りにしといて、と。
小型のフライパンにバターを塗って、温めたベーコンを丸めて乗せる。
隙間にタマネギのみじん切りを半分だけ散らして、卵を割り入れたら残りも散らして……塩コショウを振ったら火のない方に置いてコンロに蓋をする。
3~5分したらフライパンの左右を入れ換えて再び蓋。
おろし金でチーズをおろしておいて、5分ぐらいしたら中を確かめて……白身が完全に固まっていればおろしたチーズを卵とベーコンが隠れるぐらいビッシリと全体に敷いてやる。
後はまた左右を入れ換えたら蓋をして、チーズが完全に溶けつつ軽く焦げ目が付けば出来上がりだ。
熱々をそのまま頬張るのも美味いが、今回は少し冷ましてからにしよう。
「ふむ、確かに嗅いだ覚えがある匂いじゃのう」
「こいつを切り分けたら最後に……このハチミツをぶっかけて完成だ」
「ちょっ!卵とベーコンをハチミツで食うんか!」
「それは流石に……」
まあそう思うよな……俺も最初はそう思った。
だがな、尊敬するピットマスターが残したこのレシピ本の料理は全て美味い、俺が保証する。
流石に全部を試した事はないけどな……日本じゃ手に入らない物があったから。
「……これじゃ!ワシが知りたかったのは、食べたかったのはこの料理じゃ!」
やはりこれだったか……正式名称はベーコンエッグ・フライパンパイ、様はフライパン一杯に作ったベーコンエッグの事だ。
あのレシピ本に書かれたエッグと名の付く料理はこれしかないからな、すぐに解った。
因みにあの本の内容は1割がスイーツ、3割が肉の塊で、3割がベーコン、残りは挽肉を中心に書かれている。
中にはソーセージを挽肉で包んで、更にベーコンで包んでおいてベジタリアンの為の料理とか言っている料理もあるが……流石に例の野菜狂信者には通用しないだろうな。
「嘘やろ……ホンマに美味いやん!」
「ベーコンとチーの塩気がハチミツの甘さと見事に調和している……美味しい」
余談だがチーズやベーコンを甘いソースで食べるのは珍しい事ではないぞ。
中にはカリカリに焼いたベーコンにオレンジのジャムを乗せて食べる国もあるからな……
まあ、個人的に好きな食べ方ではあるんだが……可愛い妹は嫌がるから普段はやらない。
こんなに美味いのに。
因みにあのレシピにはチーズと一緒に砕いたポテチも一緒に敷いて焼く、とあるが……この世界には何故かジャガイモがないからな。
サツマイモならあったが。
ま、このロリババアには世話になったしこの料理とベーコンの作り方ぐらいは教えてやるか。
俺が尊敬するピットマスターも子孫にレシピが伝わるのを望んでいる筈だからな。
野菜狂信者に配慮した植物油はありません




