10 無意識のハンバーグ・新しい技能添え
翌日の朝になってようやく頭痛と胃痛が収まった……結局屋台は出せなかったし買い物だけしたらケンタン族の領土に戻らねばならん。
その後はカーニズ族の領土まで行かなきゃならんし、その前に緑色の水晶をケンタン族の領土に送らなきゃならんしで……野菜狂信者に食わせるメニューを考える暇がない。
幸いマリアに頼まれて作ったベーコンの報酬があるから買い物は可能だが、やはり日本でなければ手に入らない物が多い。
具体的に言うとちゃんとした木炭と香辛料の類や紅茶の茶葉、それに野菜とマヨネーズだな。
後はアルミホイルなんかも必要になるが……これは色々な物で代用が利くから急ぐ必要はない。
特に必要なのは野菜とマヨネーズ……ピーマンはあるけどパプリカはない、レタスはあったがキャベツがない、豆はかなりの種類があるのにもやしはない。
ネギ類もタマネギぐらいしかないからな……この世界の生態系ってどうなってるんだ?
もやしなら自家栽培は可能だが、そこまでして食いたい物でもないから別に構わんけど……ないと妙な淋しさがある。
せめてキャベツだけは何とか手に入れたい所だが……戻ったらキャベツの芯を埋めてみるか。
確かキャベツはリボベジとやらに向いていると聞いた覚えがあるからな……駄目で元々って奴だ。
上手く育ったら指し木して増やしてやれば、この世界でもキャベツたっぷりの焼そばやお好み焼きが食える様になるだろう。
特にお好み焼きは肉、魚、野菜を同時に料理出来るから野菜狂信者にも有効な料理となり得る。
女神様もソースを持ち歩いてるぐらいだしきっと気に入る筈だ。
マヨネーズも自作するかと思って色々と試したが……やけに水っぽくなったり酢がキツ過ぎたり、上手く混ざらなかったりと失敗続きだからな。
だがコンテストの肉バーガーには欠かせない調味料……何としても作らないと。
もしくはこの世界でも作れる別の調味料が必要か。
とりあえずキャベツの芯が枯れない様に水に浸しておこう。
「ウメオ、昼はどんなベーコンを食うんや?」
「何でベーコンに限定するんだ?あれは炭火で焼かなきゃ美味くならんからな、食うなら夕飯だ」
「何でや!食わしたってーな!」
おいタープ、リアカーを引いてる俺の腕に抱き付くな。
タープも黙ってさえいれば美人なんだから、そんな事されたれドキドキするだろ。
「ウメオ、私もお昼はベーコンを食べたい」
マリア、便乗してくっ付くな!
DTのハートはな、薄いガラスで出来てるからとてつもなく脆いんだぞ!
「モテモテだねお兄ちゃん……リアカー引くの代わろうか?」
「……頼む」
それにしてもドキドキはするのに何故かモテている気が全くしない……
例えるなら餌かオヤツを見せた子犬に纏わり付かれた様な、煮干しを見た子猫が膝か肩に乗った様な……そんな感覚がする。
タープはともかくマリアはペットとしては見れんのだが……うん、我ながらよく解らん。
「私にお姉ちゃんが出来たらこんな感じなのかな?」
「仮にこの2人が実姉だったら苺心に悪影響が出ない様に隔離していただろうな」
「「「……鈍感」」」
「え、何で?」
何やかんやでケンタン族の領土……タープが住む教会に到着した。
ここからカーニズ族の領土まで3日は掛かるから……大体1週間はゆっくり出来る。
それにしても出る前はほぼ焼け野原だったのにもう森……とまでは行かないが林ぐらいにはなっているな。
とりあえずジャガイモの芽を埋めておいた場所にキャベツの芯を植えておこう。
「私は今から緑を配ってくる……イチゴも手伝って」
「解った」
「ほなウチは診察に回ってくるわ」
ふむ……俺は夕飯の準備でもしておくか。
とはいえ何を作った物やら……
「お、よーやく戻ったんか」
「……女神様、本日はどの様な用件で?」
ここは女神様の造った世界らしいから居てもおかしくないし、何処に居ようと自由なんだが……
心臓が止まりそうになるから唐突に背後へ立つのは止めてくれません?
どうせなら正面から抱き付いて下さい。
「いやな、よー考えたら苺心ちゃんには職業とは別に戦闘用の技能を与えたんやけど、兄ちゃんには難題押し付けただけやったなーと」
ああ、難題押し付けた自覚はあったんだな……
どうせならその胸部を押し付けて欲しかっ……いや、こんな美人にやられたらガチで心臓が止まっていたか。
死因がDT故のショック死にならなくて良かった。
「ウチから兄ちゃんに与えられる技能は2つの内1つだけや……【変換】と【偽装】ならどれがええ?」
「……まず説明をお願いします」
ざっくり聞いた所……
【変換】、例えばニンニクをガーリックパウダーにするといった使い方が出来る。
つまり原材料を香辛料に出来るって事か。
【偽装】、野菜を肉、または魚と錯覚させる様な技能。
いわゆるフェイク料理を作る技能って奴か。
これは野菜狂信者に対して強い武器になり得る、だが……
「……【変換】をお願いします」
「ホンマにそれでええんか?」
ぶっちゃけ偽装があれば肉や魚を野菜として食わせる事も可能だろう。
だが、それだと結局女神様が解決するのと変わらない。
女神様は俺の手で達成しろ、と言った……そうでなければ可愛い妹を友達と再会させてやれない、ならば俺がやらなきゃならん事だ。
何より俺にもピットマスターとしての意地がある。
俺は俺の手で野菜狂信者に肉を食わせてみせる。
「ふぅん……兄ちゃんはただのアホウかと思うとったんやけど、中々見所のあるアホウやね」
「誉め言葉と受け取っておく」
「安心しぃや、ちゃんと誉めたんやで」
皮肉で言ったんだが本当に誉められていたらしい。
どうせ誉めるならもっとストレートに言って欲しかった。
「……そんな兄ちゃんにええ事を教えたる、タープは初めて抱き付いたあの時から兄ちゃんに惚れとるよ?」
「それ、かなり最初の方なんですが……」
一体何がフラグだったんだ?
というか、前に嫁(予定)と言ったら否定されたんですが?
「そらそうやんか、結婚しとらんのやから……それにタープも否定する前にまだ、ってゆーとったやろ?」
そういう問題なのか……うん、大問題だったわ。
「ウチとしてもタープには幸せになって欲しいし、兄ちゃんの料理の腕は眷属にしたってもええぐらいには気に入っとるんよ?」
「……何で俺の周囲に居る美人って食いしん坊ばっかりなんでしょうね?」
「そら兄ちゃんの料理が美味いからちゃうんか?ウチの友達にもそういう子がおるわ」
俺の料理が認められるのは嬉しいが素直に喜べないのは何でかな……本当に。
結局【変換】って技能は貰ったが、その後に聞いたいい事とやらが気になって仕方がない。
確かにタープみたいな嫁が欲しいとは思っていたが……
とりあえず落ち着こう……落ち着いて挽肉を捏ねよう。
久しぶりに使ったミンサーは問題なく動いてくれたな、良かった。
「お兄ちゃん、何かあったの?物凄く気持ち悪い顔してるよ?」
「……今、口から血を吐きそうになったんだが?」
シスコンが妹に言われたくない台詞トップ3をさりげなく言うのは止めてくれ……本気で死にかねん。
この胸の痛みはベーコンとタマネギを刻んで紛らわせてみよう、そうしよう。
「まあ、タープさんかマリアさんとの間に出来る甥っ子を抱っこするまでは死なれちゃ困るし……善処するよ」
「タープは何となく解るがマリアは何故だ?偽装婚約は頼まれたがそれ以上の事は……」
というか、何で甥に限定しているんだ?
姪が生まれても可愛がってやってくれ……結婚出来る可能性は限りなく低いが。
「あのさ、例え嘘でも好意のない人にそんな事お願いする女の子なんて居ないし、あんな風に抱き付いたりもしないよ?」
タープもマリアも女の子って歳ではないと思うんですがそれは……
って女性に年齢の話はタブーだったな、口には出さない様に注意しなければ。
今の失言を忘れる為、挽肉にベーコンとタマネギを混ぜてひたすら捏ねて形成してやる。
「というかお兄ちゃん、どれだけハンバーグを作れば気が済むの?」
「……あれ?」
おかしいな……ボウル1杯分の挽肉しか使っていない筈なのに、いつの間にこんな数を?
よく見たらマリアに貰ったウシのスネ肉やモモ肉、ブタのロース肉がない……それにタマネギも……うっかり全部挽いちまったのか。
まあ作ってしまった物は仕方がない、食べ切れない分は明日パン粉を纏わせてメンチカツにしよう。
何なら復興作業をしている連中の炊き出しにすれば余る事はないだろ。
とりあえず食べる分のハンバーグはベーコンを巻いて、と。
「あ、私のハンバーグにベーコン巻くのは止めてよ?」
「……解った」
俺が作るハンバーグには隠し味としてみじん切りにしたベーコンを混ぜているのは黙っておこう。
知られたら絶対に食わないし。
「このハンバーグいうんもベーコンと合うなぁ……美味いわ」
ベーコンは主食じゃないんだぞ?
あくまでも調味料だからな?
「美味しい、このハンバーグという料理……毎食でもいい」
マリアはベーコンとハンバーグが好き、と。
だが毎食は止めとけ……絶対に途中で飽きる。
これはたまに食うからこそ美味いんだ。
うーむ……やはりこの2人にフラグが立ったとは到底思えん。
胃袋は掴んでしまったかもしれんけどな。
「お兄ちゃん、次のパンは開かずに炙って」
「はいよ」
というか苺心、肉を少なめにした所でパンを大量に食ってたら意味がないと思うんだが……
まあ、触れないでいるのが兄貴としての優しさか。
美味しいてすよ、ベーコン包みハンバーグ




